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無自覚な恋愛感情

作者: 蒼井大輔

10月17日。

それは甲崎先輩が片想いしている相手、稲森先輩の誕生日だ。

稲森先輩の誕生日会をやったらどうでしょう? と提案したのは私。

甲崎先輩がいい案と言って嬉しそうに頭を撫でてくれた時は、まさかこんな無理難題な役を言い渡されるとは思ってなかった。


「あさちゃん、早く帰ろうって。頼まれたのはコレで全部だし」

「え? あ、まっ!」


コンビニを出て行こうとする稲森先輩の袖を反射的に掴んだはいいが、止める言葉が浮かばない。

でもまだ家に帰るには早すぎる。

何人かを集めての誕生日会。

子供っぽい企画だったかな? と思ったりもしたけど、まわりは意外と乗る気になってあれよあれよと話は進み、ケーキ担当、飾り付け担当、料理は? プレゼントは? どうせならサプライズだろ! と仲のいいメンバーが集まり当日はあっという間だった。

でも肝心の飾り付けはどうする? と会場である甲崎先輩の家にあるまった時問題が浮上した。

サプライズにも関わらず、稲森先輩の前で飾り付けなんて出来るわけもなく、でも既に稲森先輩は甲崎先輩の家に到着済み。

完全に集合時間をミスったと気づいた時には後の祭りだった。

そこで仰せつかったのが、稲森先輩を外に連れ出し、時間を潰して用意が出来てそうな時間に帰って来ること。

みんなに、20分はコンビニでひき止めてて! と言われたけど、そんなハイレベルなお題、私には無理ですよ!

心の中で叫んでも、誰にもわかってもらえない。

飲んでいた物がなくなった、なんか温かいものも食べたいよね、お菓子も欲しい! と言うリクエストを貰い、コンビニに来たのは良いものの、肝心なコンビニは甲崎先輩の家の目と鼻の先だ。

往復で10分もかからないのに、買うものを指定されていたらすぐに終わってしまう。

稲森先輩も、引き止めた私を不思議に思いながらも、早く帰ろう、と言葉を続ける。

それでも動かない私を心配して覗き込んでくるが、どうすれば引き止められるか、で頭が埋め尽くされた私の頭はパンク寸前だ。


「あさちゃん、どうかした?」

「稲森先輩……」

「ん?」


稲森先輩の袖を使う手に自然と力が入る。

結局、たった一つ出てきたなけなしの答えは、どこかで聞いたことあるようなありきたりの言葉。

でもその時の私は、そんな事どうでもよくて、ただ稲森先輩を引き止められるだけでよかった。

まっすぐ見つめ、震える声で伝える。


「もう少し、二人で、いたいです……後ちょっとだけ、稲森先輩を独り占めしちゃ、ダメ……ですか?」


稲森先輩、数秒の沈黙。

あぁ、やっぱり私にひき止めるなんてダメでした。

ごめんなさい、と今誕生日会の準備真っ只中のメンバーに心の中で謝り、項垂れる。

もう仕方ない、帰り道ゆっくり歩いて最後のあがきで時間稼ぎするしかない。

と顔をあげようとした瞬間、稲森先輩の袖を掴む手に突然添えられた手。

え? と思って稲森先輩を見れば、いつになく真剣な顔に息をするのを忘れてしまった。


「あさちゃん。それ、意味わかって言ってる?」


今度は私が沈黙する番だ。


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