桜の下で・・・
幸貴先輩と知哉課長のラブラブぶり健在です。
今日は、全社員あげて、近くの公園で、お花見をすることになっていた。
全員が、定時に上がり、会場に移動していく。
私もデスクの上を片付け始めた。
回りが、あらかた居無くなった頃合いを見計らったように。
「いおり~!一緒に行こう」
和香が迎えに来た。
「うん」
返事をしながら、和香の傍に行く。
和香とは、高校からの付き合い。
最初に会ったときは、名前の通りのフンワリと優しい雰囲気のもち主で、ちょっと近寄りがたいなって思ってたんだけど・・・ね。
和香から私に話しかけてきて、それから、話が合うねってことで、いつにまにか側に居たって感じ。
気心を知れてるから、何でも話せる間柄。
可愛い和香、クールな私。
本当に正反対なのだ。
「いおり。どうしたの?」
和香が、いつもの笑顔で下から覗き込んでくる。
そう、身長差もある。
和香は、百五十六センチで私は、百七十センチ。
和香と並んで歩くといつも見比べられて、和香に声をかけるやつが多い。
「何でもないよー」
「ねぇ、いおり。お願いあるんだけど・・・」
和香が、真顔で言う。
もう・・・。
何度めですか・・・それ?
「・・・で、何をすればいいの?」
「あのね。達哉先輩を紹介して欲しいなぁ・・・って・・・」
そのクリクリ目で、懇願されたら、断れないじゃない。
「紹介するだけでいい?」
「うん」
ニコニコ顔で頷く和香。
本当は、達哉先輩に和香を紹介するのは、嫌なんだけど・・・。
本人のご要望となれば、するしかない。
「わかったよ。後の事は、知らないからね」
「ありがとう」
満開の花のような笑みだ。
「じゃあ、あたし向こうみたいだから、また後で」
そう言って、和香は自分の部署が集まってるところへ行く。
私も自分の部署を探して向かった。
「いおりちゃん、遅かったね。何か急用でも入った?」
って、声をかけてきたのは、幸樹先輩。
うちの部署唯一の女性先輩。
「いえ。同期の子と話してたから、遅くなってしまって・・・」
「そうだったの・・・。いおりちゃん、来るの遅いから、心配してたんだよ」
って、大きなお腹をつきだして、私に抱きついてきた。
「先輩、苦しいです」
私が訴えてると。
「こら、幸樹。いおりが苦しがってるから、離れなさい」
そう言って、離してくれたのが、神谷課長。
「だって、本当に心配してたんだからね」
って、顔にまででてる。
クスクス・・・。
笑いが溢れる。
本当、幸樹先輩って、表情豊かで、羨ましい・・・。
「いおりちゃん。何かあったら、いつでも相談に乗るからね。連絡帳だいね」
って、笑顔で言う。
この笑顔に何度も助けられたのは、言うまでもない。
「幸樹。それ、俺の役目だから・・・」
優しい眼差しで幸樹先輩を見守ってるのが、神谷課長。
神谷課長の奥様でもある、幸樹先輩。
「でもさぁ。女の子の相談って、男の人にはしにくいだろうし・・・。ただでさえ、むさ苦しい部署に配属されて困ってたいおりちゃんだもん。知哉には、しにくいでしょ」
って、課長にタメ口って・・・。
・・・いいのか。
この二人、夫婦だった。
幸樹先輩の気遣いに嬉しく想いながら二人を見ていた。
幸樹先輩は、公私をはっきり区別してるところ。
社内では、しっかり「神谷課長」って呼んでる。
そんな幸樹先輩が、私の目標だったのに・・・。
「わかったよ。いおり、俺を通さずに何かあったら、幸樹に直接言え。他の女より頼りになるからな」
課長が、笑ってる。
うちの部署、仲がいいから、男性人のほとんどが下の名前で、私たち女性人を呼ぶ。
「そんな言い方しなくてもいいじゃん!」
幸樹先輩が、膨れっ面をしながら、課長の胸を叩いてる。
ほんと、先輩の行動って、可愛い。
私は、クスクス笑いながら、先輩を見ていた。
「いおり?」
突然、名前を呼ばれて振り返ると雫が居た。
相変わらずケバイ・・・いや、濃い化粧だこと。
「雫。どうしたの?」
「いや、挨拶回りだよ。こんなときじゃなきゃ、イケメン部署にはいけないでしょ。いおりは、しないの?」
ったく・・・。
うちの部署の男性人狙いかよ・・・。
「もう少し後で行こうかなって思ってる。自分の部署もまだ回りきってないし・・・」
って言うか、今来たばかりだから、何もしてないが・・・。
「ふーん」
興味がないのなら、さっさとお酌して他へ行けばいいのに・・・。
「幸樹は、酒、飲むな」
課長が、幸樹先輩に釘を指してる。
「えー。酷い。私も飲みたい」
って・・・。
もう、何してるんだか・・・。
「幸樹先輩。お腹の赤ちゃんに悪いので、オレンジジュースにしましょ」
私は、紙コップにジュースを注いで渡す。
「ありがとう、いおりちゃん。ここはもういいから、他の部署の挨拶回りよろしくね」
幸樹先輩が、笑顔で手をヒラヒラさせてます。
ハァー。
そうですね。
ちょっと、気が重いですが・・・。
「じゃあ、行ってきます」
本当は、幸樹先輩も一緒に来てくれるって、言ってたんだけどね。
課長に止められたみたいで・・・。
私は、一人他部署への挨拶巡りを開始した。
他の部署を巡り終えて、自分の部署に戻ると、男所帯だったうちの部署が、華やいでいた。
よくよく見ると、秘書課と総務かが入り交じって、ごった返していた。
「お帰り、いおりちゃん。他部署での交流はどうだった?」
睦月先輩が聞いてきた。
「はい。有意義でしたよー。これからも難問突きつけても、答えてくれるって約束もらってきましたよー」
「おっ、それは凄いなぁ。これからは、いおりちゃんが中心になるのか・・・」
睦月先輩が、私の頭をワシャワシャと掻きまぜる。
その行為と同時に、聞きたくない言葉も聞こえてきたような・・・。
「今まで、幸樹ちゃんがやっていたポジションをいおりちゃんが、受け継ぐんだよ」
それが、当然のように言う。
うわー。
それって、超重要ポジションじゃん。
そんなの私が、やれるのか?
不安が生じる。
「睦月先輩。いおりちゃんにプレッシャーをかけないでください!」
いつから聞いてたのか、幸樹先輩が腰に両手を当てて怒っている。
・・・けど、迫力がなくて、クスクス笑みが溢れる。
庇ってもらえるのは、嬉しいんだけど・・・。
幸樹先輩、根っからの優しい人なので、全然怖いなんて思わない。
かえって、可愛いと思わされる。
「いおりちゃん。笑わないでよー」
膨れっ面で私に向き直って言う。
睦月先輩もゲラゲラ笑ってる。
「だって、幸樹先輩、可愛いんですもん」
マタニティーの格好でお腹が突き出てるからね。
「だよなぁ。幸樹は、体を冷やさないようにこれを羽織ってなさい」
課長が、苦笑しながら、自分の背広を脱いで、幸樹先輩にかけてる。
課長は、ほんと幸樹先輩に甘いですね。
「いおり・・・」
そんな時に遠慮がちに声がかけられた。
振り返ると和香が戸惑いながら居た。
「和香・・・」
「いおりちゃんの同期の子だっけ・・・。行ってきていいよ」
笑顔の幸樹先輩。
課長も睦月先輩も行ってこい、って言わんばかりの顔だ。
「行ってきます」
和香の側まで行って。
「どうしたの?」
ってきくと。
「忘れたなんて言わせないよ。達哉先輩を紹介してくれるって、約束したこと」
睨まれてしまいました。
忘れてはいませんよ。
でも、美人が睨むとき怖いので、やめて欲しいです。
私は、和香を連れて、達哉先輩のところへ向かった。
「達哉先輩」
私が声をかけると振り返る。
「おお、いおりか・・・。どした?」
そう達哉先輩は、私を見上げる。
そして、何でもないことを真顔で聞きながら、受け流す人だ。
「エッとこちら、私と同期の伊藤和香さん、先輩と話がしたいそうです」
「伊藤和香です。達哉先輩と話がしたくて、いおりに頼んじゃいました」
和香が、笑顔で挨拶する。
「そうなんだ。ここ座って・・・。話そうか・・・」
達哉先輩も笑顔で自分の横に座るように、ポンポンと和香を促す。
和香もそれに同意して座る。
私は、こっそりとその場を離れた。
公園にあるベンチに座り込む。
ハァー。
皆、飲み食いばっかりで、桜を見てないよ。
こんなに綺麗に咲き誇ってるのに・・・。
この時期にしか咲かない花。
これを見ないで、何を見るんだろう?
私は、暫し、桜の花を見ていた。
「佐藤先輩」
不意に呼ばれて、そっちに振り返った。
「こんなところで、どうしたんですか?」
コンビニからの戻りなのか、両手にビニール袋を持ってた。
他の部署の後輩で、研修の時に教えてた涼介だった。
「うん。桜がきれいだなって思ってね。誰も桜を見てないからさ。私ぐらいは、見てあげようかなってね」
私は、目線を桜に戻した。
「佐藤先輩。オレ、佐藤先輩が、好きです」
エッ・・・。
私は、彼に視線を戻す。
今、なんて・・・言ったの?
「オレ・・・年下だけど、先輩が頑張ってるのを見て、惚れたんです。そんな先輩に近づけるように頑張りますから・・・。オレの事、見てください」
涼介が、真顔で言う。
いきなりの事で、パニック状態の私。
どう、返事を返したら・・・。
「先輩。聞いてます?」
「エッ・・・あ・・・うん・・・」
今の私、顔が赤くなってると思う。
告白されるのは、初めてって訳じゃない(主に同姓からの告白が多かったけど・・・ね)
どうしよう・・・。
「いおり先輩。オレと付き合ってもらえますか?」
涼介が、必死な形相で言ってくる。
ちょ・・・怖いから・・・。
でも、私も真面目に返事することにした。
「涼介が、頑張って私を負かす事が出来たらね」
って・・・。
これって、涼介にとって、凄い壁だと思う。
けど、それぐらいは、頑張ってもらわないと・・・ね。
涼介を見ると、何か考えてるみたいだ。
「わかりました。いおり先輩、絶対に他の男にモノにならないでくださいね。いおり先輩の横は、オレが予約します」
力強く宣言されてしまった。
この後、涼介がもうアプローチしてきたのは、言うまでもない。