表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

イベント物短編

桜の下で・・・

作者: 麻沙綺

幸貴先輩と知哉課長のラブラブぶり健在です。


 今日は、全社員あげて、近くの公園で、お花見をすることになっていた。

 全員が、定時に上がり、会場に移動していく。

 私もデスクの上を片付け始めた。

 回りが、あらかた居無くなった頃合いを見計らったように。

「いおり~!一緒に行こう」

 和香が迎えに来た。

「うん」

 返事をしながら、和香の傍に行く。



 和香とは、高校からの付き合い。

 最初に会ったときは、名前の通りのフンワリと優しい雰囲気のもち主で、ちょっと近寄りがたいなって思ってたんだけど・・・ね。

 和香から私に話しかけてきて、それから、話が合うねってことで、いつにまにか側に居たって感じ。

 気心を知れてるから、何でも話せる間柄。

 可愛い和香、クールな私。

 本当に正反対なのだ。



「いおり。どうしたの?」

 和香が、いつもの笑顔で下から覗き込んでくる。

 そう、身長差もある。

 和香は、百五十六センチで私は、百七十センチ。

 和香と並んで歩くといつも見比べられて、和香に声をかけるやつが多い。

「何でもないよー」

「ねぇ、いおり。お願いあるんだけど・・・」

 和香が、真顔で言う。

 もう・・・。

 何度めですか・・・それ?

「・・・で、何をすればいいの?」

「あのね。達哉先輩を紹介して欲しいなぁ・・・って・・・」

 そのクリクリ目で、懇願されたら、断れないじゃない。

「紹介するだけでいい?」

「うん」

 ニコニコ顔で頷く和香。

 本当は、達哉先輩に和香を紹介するのは、嫌なんだけど・・・。

 本人のご要望となれば、するしかない。

「わかったよ。後の事は、知らないからね」

「ありがとう」

 満開の花のような笑みだ。

「じゃあ、あたし向こうみたいだから、また後で」

 そう言って、和香は自分の部署が集まってるところへ行く。

 私も自分の部署を探して向かった。



「いおりちゃん、遅かったね。何か急用でも入った?」

 って、声をかけてきたのは、幸樹先輩。

 うちの部署唯一の女性先輩。

「いえ。同期の子と話してたから、遅くなってしまって・・・」

「そうだったの・・・。いおりちゃん、来るの遅いから、心配してたんだよ」

 って、大きなお腹をつきだして、私に抱きついてきた。

「先輩、苦しいです」

 私が訴えてると。

「こら、幸樹。いおりが苦しがってるから、離れなさい」

 そう言って、離してくれたのが、神谷課長。

「だって、本当に心配してたんだからね」

 って、顔にまででてる。

 クスクス・・・。

 笑いが溢れる。

 本当、幸樹先輩って、表情豊かで、羨ましい・・・。

「いおりちゃん。何かあったら、いつでも相談に乗るからね。連絡帳だいね」

 って、笑顔で言う。

 この笑顔に何度も助けられたのは、言うまでもない。

「幸樹。それ、俺の役目だから・・・」

 優しい眼差しで幸樹先輩を見守ってるのが、神谷課長。

 神谷課長の奥様でもある、幸樹先輩。

「でもさぁ。女の子の相談って、男の人にはしにくいだろうし・・・。ただでさえ、むさ苦しい部署に配属されて困ってたいおりちゃんだもん。知哉には、しにくいでしょ」

 って、課長にタメ口って・・・。

 ・・・いいのか。

 この二人、夫婦だった。

 幸樹先輩の気遣いに嬉しく想いながら二人を見ていた。

 幸樹先輩は、公私をはっきり区別してるところ。

 社内では、しっかり「神谷課長」って呼んでる。

 そんな幸樹先輩が、私の目標だったのに・・・。

「わかったよ。いおり、俺を通さずに何かあったら、幸樹に直接言え。他の女より頼りになるからな」

 課長が、笑ってる。

 うちの部署、仲がいいから、男性人のほとんどが下の名前で、私たち女性人を呼ぶ。

「そんな言い方しなくてもいいじゃん!」

 幸樹先輩が、膨れっ面をしながら、課長の胸を叩いてる。

 ほんと、先輩の行動って、可愛い。

 私は、クスクス笑いながら、先輩を見ていた。



「いおり?」

 突然、名前を呼ばれて振り返ると雫が居た。

 相変わらずケバイ・・・いや、濃い化粧だこと。

「雫。どうしたの?」

「いや、挨拶回りだよ。こんなときじゃなきゃ、イケメン部署にはいけないでしょ。いおりは、しないの?」

 ったく・・・。

 うちの部署の男性人狙いかよ・・・。

「もう少し後で行こうかなって思ってる。自分の部署もまだ回りきってないし・・・」

 って言うか、今来たばかりだから、何もしてないが・・・。

「ふーん」

 興味がないのなら、さっさとお酌して他へ行けばいいのに・・・。



「幸樹は、酒、飲むな」

 課長が、幸樹先輩に釘を指してる。

「えー。酷い。私も飲みたい」

 って・・・。

 もう、何してるんだか・・・。

「幸樹先輩。お腹の赤ちゃんに悪いので、オレンジジュースにしましょ」

 私は、紙コップにジュースを注いで渡す。

「ありがとう、いおりちゃん。ここはもういいから、他の部署の挨拶回りよろしくね」

 幸樹先輩が、笑顔で手をヒラヒラさせてます。

 ハァー。

 そうですね。

 ちょっと、気が重いですが・・・。

「じゃあ、行ってきます」

 本当は、幸樹先輩も一緒に来てくれるって、言ってたんだけどね。

 課長に止められたみたいで・・・。

 私は、一人他部署への挨拶巡りを開始した。




 他の部署を巡り終えて、自分の部署に戻ると、男所帯だったうちの部署が、華やいでいた。

 よくよく見ると、秘書課と総務かが入り交じって、ごった返していた。

「お帰り、いおりちゃん。他部署での交流はどうだった?」

 睦月先輩が聞いてきた。

「はい。有意義でしたよー。これからも難問突きつけても、答えてくれるって約束もらってきましたよー」

「おっ、それは凄いなぁ。これからは、いおりちゃんが中心になるのか・・・」

 睦月先輩が、私の頭をワシャワシャと掻きまぜる。

 その行為と同時に、聞きたくない言葉も聞こえてきたような・・・。

「今まで、幸樹ちゃんがやっていたポジションをいおりちゃんが、受け継ぐんだよ」

 それが、当然のように言う。

 うわー。

 それって、超重要ポジションじゃん。

 そんなの私が、やれるのか?

 不安が生じる。

「睦月先輩。いおりちゃんにプレッシャーをかけないでください!」

 いつから聞いてたのか、幸樹先輩が腰に両手を当てて怒っている。

 ・・・けど、迫力がなくて、クスクス笑みが溢れる。

 庇ってもらえるのは、嬉しいんだけど・・・。

 幸樹先輩、根っからの優しい人なので、全然怖いなんて思わない。

 かえって、可愛いと思わされる。

「いおりちゃん。笑わないでよー」

 膨れっ面で私に向き直って言う。

 睦月先輩もゲラゲラ笑ってる。

「だって、幸樹先輩、可愛いんですもん」

 マタニティーの格好でお腹が突き出てるからね。

「だよなぁ。幸樹は、体を冷やさないようにこれを羽織ってなさい」

 課長が、苦笑しながら、自分の背広を脱いで、幸樹先輩にかけてる。

 課長は、ほんと幸樹先輩に甘いですね。

「いおり・・・」

 そんな時に遠慮がちに声がかけられた。

 振り返ると和香が戸惑いながら居た。

「和香・・・」

「いおりちゃんの同期の子だっけ・・・。行ってきていいよ」

 笑顔の幸樹先輩。

 課長も睦月先輩も行ってこい、って言わんばかりの顔だ。

「行ってきます」



 和香の側まで行って。

「どうしたの?」

 ってきくと。

「忘れたなんて言わせないよ。達哉先輩を紹介してくれるって、約束したこと」

 睨まれてしまいました。

 忘れてはいませんよ。

 でも、美人が睨むとき怖いので、やめて欲しいです。

 私は、和香を連れて、達哉先輩のところへ向かった。


「達哉先輩」

 私が声をかけると振り返る。

「おお、いおりか・・・。どした?」

 そう達哉先輩は、私を見上げる。

 そして、何でもないことを真顔で聞きながら、受け流す人だ。

「エッとこちら、私と同期の伊藤和香さん、先輩と話がしたいそうです」

「伊藤和香です。達哉先輩と話がしたくて、いおりに頼んじゃいました」

 和香が、笑顔で挨拶する。

「そうなんだ。ここ座って・・・。話そうか・・・」

 達哉先輩も笑顔で自分の横に座るように、ポンポンと和香を促す。

 和香もそれに同意して座る。

 私は、こっそりとその場を離れた。






 公園にあるベンチに座り込む。

 ハァー。

 皆、飲み食いばっかりで、桜を見てないよ。

 こんなに綺麗に咲き誇ってるのに・・・。


 この時期にしか咲かない花。

 これを見ないで、何を見るんだろう?


 私は、暫し、桜の花を見ていた。




「佐藤先輩」

 不意に呼ばれて、そっちに振り返った。

「こんなところで、どうしたんですか?」

 コンビニからの戻りなのか、両手にビニール袋を持ってた。

 他の部署の後輩で、研修の時に教えてた涼介だった。

「うん。桜がきれいだなって思ってね。誰も桜を見てないからさ。私ぐらいは、見てあげようかなってね」

 私は、目線を桜に戻した。

「佐藤先輩。オレ、佐藤先輩が、好きです」

 エッ・・・。

 私は、彼に視線を戻す。

 今、なんて・・・言ったの?

「オレ・・・年下だけど、先輩が頑張ってるのを見て、惚れたんです。そんな先輩に近づけるように頑張りますから・・・。オレの事、見てください」

 涼介が、真顔で言う。

 いきなりの事で、パニック状態の私。

 どう、返事を返したら・・・。

「先輩。聞いてます?」

「エッ・・・あ・・・うん・・・」

 今の私、顔が赤くなってると思う。

 告白されるのは、初めてって訳じゃない(主に同姓からの告白が多かったけど・・・ね)

 どうしよう・・・。

「いおり先輩。オレと付き合ってもらえますか?」

 涼介が、必死な形相で言ってくる。

 ちょ・・・怖いから・・・。

 でも、私も真面目に返事することにした。

「涼介が、頑張って私を負かす事が出来たらね」

 って・・・。

 これって、涼介にとって、凄い壁だと思う。

 けど、それぐらいは、頑張ってもらわないと・・・ね。

 涼介を見ると、何か考えてるみたいだ。

「わかりました。いおり先輩、絶対に他の男にモノにならないでくださいね。いおり先輩の横は、オレが予約します」

 力強く宣言されてしまった。



 この後、涼介がもうアプローチしてきたのは、言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ