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2.ガラスのハート

三十路でもお子ちゃま。

ほぼキャラ紹介です。。。

 僕の名前は在原冬芽(ありはら とうが)、30歳。このカロリー学院の国語科書道担当の教諭。


 昔から僕は気が弱くていぢられ体質だったためか、NOと言えない大人の1人だ。そのせいで断りきれずに美術部顧問になった時には他の先生方にとっても同情されたのだが、あの子達はちゃんと向き合ってあげれば良い子達ばかりだし、僕的にはなんとなく信頼されているんじゃないかと思ったりしている。


 まぁ、奇想天外な発案や行動にはいつも泣かされるんだけども。その度に弓弦(ゆずる)・・・あ、英語科の最首(さいしゅ)先生に泣きついてしまったり・・・。僕の方が年上なんだけどな・・・はは。


 とにかく、あの子達は一体どこを目指してるんだろうと思うことはしょっちゅうだ。まぁ、この学院には「帝王学」なる授業もあるので、世界征服!とか言い出しても僕はもう驚かない。・・・たぶん。


 そして、今日はカロリー学院の文化祭で、僕の受け持つ美術部の展示会も行われている。


 その名も「惨劇(さんげき)の館」・・・いや、別にホラー系でもパニック系でもないんだけども、前日準備の際に僕が見回った時、心臓が止まるんじゃないかと思うくらいに驚きまくった結果、第一保健室(なんと、この学院には3つの保健室がある)に運び込まれたという事実から、その名がついたらしい。


 とりあえず、一般生徒もいることだし、僕のように驚き過ぎて倒れるなんてことがないように、見学者1団体につき1人の案内役をつけるように言い渡しておいた。あと、あまりにも刺激が強い作品は撤去させた。―――うん、ナイス判断、僕。


 というわけで、今現在の状況を確認すべく僕は美術部の展示会が行われている教室へと来ていた。


「ヒィイイイ!!」


「うわぁあ!?」


 ―――お化け屋敷に入ったレベルの悲鳴が聞こえるのは・・・と、とりあえず後でフォローしておこう。


「あ~、在原センセ~」


 僕を見つけてひらひらと手を振って来るのは飯井大樹(いい ひろき)君。美術部の1年生部員で、いつもニコニコ笑顔でおっとりとしているんだけど、たまにキツイ一言があったりする。


「飯井君が今の時間の受付かな?」


「そーです。今、久馬(きゅうま)センパイ達が入ってって、早速悲鳴があがってます~」


 久馬君達、というコトは生徒会長の仲路(なかじ)君もいるということだろう。彼等はこの学院では知らない者がいないくらいの有名人だ。


 久馬(きゅうま)一志(かずし)君は運命の人探しとかのたまってあちこちで彼女を作ったりしていたらしく、挙句の果てに同性にまで手を出そうとして、幼馴染の仲路君達の必死の説得で現在の彼女1人に絞り込んだという逸話の持ち主だ。


 その幼馴染の仲路君は一卵性の双子で、生徒会長の方が兄の智宏(ともひろ)君で軽音部の方が弟の智人(ともひと)君。


 一卵性だけあって全く見分けがつかず、本人達はその辺りも心得ているようで、智宏君は生徒会長だけあってかっちりと制服に身を包んでいて、この学院では私服登校も可であるので智人君は私服姿が多い。僕達はそのおかげで見分けられている感じだ。


 まぁ、久馬君に言わせればかなりわかりやすい特徴があるらしいが、付き合いが長いからこその言葉なのだろう。


 そして、仲路智宏君の方ととても仲が良い日根凱(ひね がい)君。


 生徒会会計として智宏君をフォローしているなかなかのやり手なんだけど、いわゆるタラシ的な発言が多く、その綺麗めの顔で囁かれる甘い言葉に引っかかってしまう女性(ほぼ年上)がかなりいるらしい。――うん、末恐ろしい。


 まぁ、そんな彼等も我が美術部員にかかればただの高校生になってしまう。――可哀想に。


「えーと・・・入った直後から試練だしねぇ」


「ですねぇ」


 ニコニコと笑う飯井君だが、どことなく腹黒く感じるのは僕の気のせいなんだろうか?



***



 しばらくして、久馬君達が「惨劇の館」からふらふらとしながら出てくる。


「やぁ、来てくれたんだね?どうだった?」


 そう僕が訊ねれば、智宏君がぐったりとしながら答えた。


「いや~・・・いろいろと斬新で、スゴイ芸術作品揃いで・・・」


 半分涙目なのは・・・まぁ、見なかったことにしておこうかな。うん。


「そういえば、在原先生の作品見なかったけど・・・」


 智人君がそう言えば、久馬君があ、と声をあげる。


「そう言われれば!――先生、何も作んなかったの?」


 2人ともにきょとんとした顔で訊ねてくる。男子高校生だけど、お坊ちゃまで顔が良いと“こういう仕草”も品があって似合ってしまうから得だなァと思う。


「いや、作ったには作ったんだけど、他の作品と雰囲気が違い過ぎる!ってココに展示させてもらえなくて」


 あはは、と苦笑いをうかべてそう言った僕に、久馬君はポン、と手を叩いた。


「なるほど、つまり――先生の作品は、無難で一般人向きな、ごくごく普通の作品なんだ!」


 うん、なんだろう。褒められてるハズなのに、何だか微妙だ。


「先生、1人普通ぶってもダメだから。確かにパステル画は“普通”だったけど」


「立体作品の方はココに置いても遜色ありません」


 久馬君達と話していたら、「惨劇の館」から同じ顔の2人が出てくる。とは言っても仲路兄弟ではない。


 同じ顔でもこっちは三つ子の薬司(やくし)三兄弟。


 最初に話しかけてきたのは一番上の(しゅう)君。彼は長髪を後ろで結んでいてのほほんとした性格をしているんだけど、まぁ、美術部って時点でただ“のほほん”としているわけではない。というか、“普通”って言葉に棘があるなァ・・・。


 で、その後ろで頷きながら追撃してきたのが二番目の(そう)君。短すぎず長すぎずな髪型をしている。性格はクールで、言葉遣いが慇懃(いんぎん)というか慇懃無礼というか・・・。その狭間な感じだ。


 この2人の下に(ばん)君がいる。彼の髪型はどっちかっていうとくせ毛らしく、ピョンピョンと跳ねるので短髪にしているらしい。とはいえ学校にはワックスでガチガチに固めて逆立てているので、それが本当なのかはわからない。そして、常に音楽プレイヤーを手にしている。


 この三つ子は一緒に行動していないことの方が多くて、部活動でしか3人が揃わない。柊君に言わせると、奏と晩が反抗期だ!・・・となる。


 とと、紹介をしている場合じゃない。言われっぱなしでは僕の顧問としての威厳が(あるかどうかは別として)無くなってしまう!


「でもアレはみんなで作ったん・・・」


「メインは(こん)部長と冬芽(とうが)先生でしょ~~?」


 柊君が僕の言葉をぶった切ってくる。


「スゴイ物作り出したなって話してたらやたら理事長が口出ししてきて・・・」


 奏君も溜息交じりに補足する。


 たぶん甥っ子の正神結人(しょうがみ ゆうと)君から聞いたんだろう。


 理事長が僕達の共同作品はどうしても別の場所に飾りたいと言って来て・・・。


「完成品、持ってかれちゃったんですよね」


 チロリ、と僕を上目遣いで見やる奏君は明らかに呆れている。


「うん、別のトコに飾るって言ってたから、展示室にでももって行くのかなぁって思ってたんだけど」


 僕が苦笑すれば、柊君も奏君もはぁああ、と深い溜息をついた。


 うん。久馬君達が話について行けてないって顔をしてるなー。


「ビックリしましたよ、今朝来て見たらエントランスにあるんだから」


「「「「え゛っ」」」」


 柊君の言葉に、久馬君達はギョッとする。


「そ、それって・・・エントランスにあった、うちの学院のジオラマのこと!?」


 智宏君が目を真ん丸くして叫ぶ。


「あ、思わずケータイで写真撮ったアレか・・・」


 日根君がボソリと呟いて携帯電話を取り出して確認する。


「そう!それ!!」


「アレを見たなら、冬芽先生が一般人レベルの普通の作品を作るだなんて思わないだろ?」


 ううん、そう言われても・・・。


 アレくらいは誰でも時間をかければ作れるモノだと思うんだけどな・・・?




 この時の僕はこのジオラマをきっかけに自分の周りを取り囲む状況がガラッと変わってしまうだなんて、思いもよらなかったのだ。




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