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星供祭の夜  作者:
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 何がどういう成り行きなのか。気がつけば電車に揺られている。手にはあの他人宛のはがき。そして必要以上に大きな荷物には前の住人が置いていったという荷物が詰めてある。

 なんだかんだ言いつつ、管理人さんは生瀬という人も気に入っていたらしい。出て行き方が行き方だけに表立っては言わないが、それでも聞いた話をまとめると礼儀正しく、無愛想だが真面目な青年だったらしい。置いていった物を捨てるに捨てられず取って置いたらしいのだ。

 なぜその荷物とはがきを持って電車に揺られているのか。簡単に言えば、学生の暇に任せてその祭という物に行くことにしたのだ。どうも管理人さんとの話の流れで決まった感が否めないが、それでも楽しみではある。

 時刻表を見ると、多くても一時間に一本しか電車の来ないローカル線に今は揺られている。いつの間にか窓の外は灰色の森から緑の森に変わっていた。駅に近づいてくると家が増える。初めての路線でも駅に近づいたのは分かった。

 その電車に揺られること約一時間。目的の駅に着きホームに降りる。降りたのはオレ以外には数人。寂れているというわけではないが、どこか郷愁を誘う駅舎だった。

 無人の改札の木箱にキップを入れ、木造の駅舎から一歩外に出るとむっとした空気が顔にぶつかってくる。駅の周りは町中のようで、コンクリートが一日十分に吸い込んだ熱を放出しているようだった。少し見回して、バス停らしき方に行く。

 時刻表を見て思わずくらっとした。バスの時間はあの本数の少ない電車に合わせてあるらしい。降りた人たちが足早に行くのを訝ったが、バスがすぐに出てしまうのを心得ていたようだ。当然、次の電車が着くまでバスはない。

 かといって、ここからどれほど遠いのか分からない目的地までタクシーで行く気にはなれない。学生は貧乏なのだ。何より、タクシーさえ見あたらないのだから。

 駅舎とつながって喫茶店らしき物がある。年季の入った、レトロな印象の建物のドアにはカウベルのような物がぶら下がっている。この時間の熱さは外で待つことに身の危険を感じさせるに十分だった。

 喫茶店のドアを開けるとカウベルが心地よい響きを立てる。カウンターに足を組んで座り、パイプを加えて新聞を広げていた中年の男が振り返った。穏やかな目で見つめられる。困って頭を下げると、向こうが苦笑いした。

「いらっしゃい。お客様に先に頭を下げさせてしまったな」

 マスターらしい。マスターはカウンターの向こう側に回り込むと、どうぞ、と言うように目で促した。促されるまま向かいに腰を下ろす。トス、と、重みのある荷物を足下に置いた。天井にプロペラのような扇風機が回っている。クラシックギターの音が響いていた。

「ここの人じゃないね」

 まず言い当てられ、驚きながら頷いた。町の人全てを覚えている、と言うほど小さい町とは見えない。マスターはオレの驚いた顔を満足げに見ながら頷いた。

「何にする?」

「じゃあアイスコーヒーを」

 答えながら入り口から外を見る。クーラーは入れていないようだったが、建物の中にいるだけでもだいぶ違った。

「バスに乗り遅れたんだろう。どこまで行くんだい」

 人好きのするマスターだ。どこまで、と聞かれ、もう一度はがきを出して確認した。

「遠野村というところまで。星供祭に」

「え」

 驚いたようにマスターは目を見開いた。オレの前に起きかけたコップを持ったまままじまじとオレの顔を見る。

「遠野の人なのかい?」

「え?いえ。観光です」

 そんなはずはないと言うようにマスターは首を傾げる。その様子にこっちも首を傾げてしまった。普通、祭と言えば観光客の呼び物だ。それが、星供祭を調べてもどこの旅行社も知らず、何の案内にも出ていなかった。それはそれで良しとして、やっと交通手段を調べてきたのだが、このマスターの反応でそれはまた疑問になった。

「どういうことですか?」

「うん……」

 マスターは曖昧に頷きながらオレの顔を見る。話してもいい相手かまるで見定めようとするように。それから、ようやくもう一度頷いて口を開いた。

「星供祭というのは遠野村だけでやる祭なんだよ。まあ、この町の人間も見に行く者はいるけどね。でも外部には一切漏らしてない。一体何で知ったんだい」

 心底不思議そうな様子に、オレは黙ってはがきを渡した。訝るようにはがきを受け取ったマスターは目を通して、オレの顔とはがきを見比べる。

「その宛名の人がオレが今住んでいるアパートの前の住人だったらしいんです。ただ、急に引っ越したらしくて。祭を見に行くついでに、管理人さんに頼まれたその人の荷物を家族に届けようと思ってきたんです」

 少々事情をはしょる。こういう小さな社会では一気に噂が広まると言っていい。オレの地元もそういう部分がある。別に気兼ねするような関係は一切ないが、それでも何となく夜逃げ同然にいなくなったとは言いにくかった。

 マスターはただ、そうか、と頷いてじっとはがきを見つめている。

 それから、オレの手にはがきを戻したマスターは不意にあちこちを片づけ、戸締まりを始めた。

「遠野まで送っていこう。バスで一番近いバス停まで行っても村までは山の中をだいぶ歩かないといけない」

「え、でも店が……」

「客なんて来ないよ。分かるだろ」

 軽く笑いながらマスターは鍵をチャリッと鳴らして指に引っかける。驚いたことにその後ヘルメットを投げ渡された。年季の入ったヘルメットだ。

 使い込まれた様子のバイクのエンジンを噴かしながらマスターはわずかに振り返った。

「途中道が悪いからな。しっかり捕まってろよ」




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