063 ――レーテミーナの奮闘?――
062が微妙に手直し入ってます。
理由は後書きにて。
11/16 誤字直し…紹介状だよね、招待状じゃないよね…ふふっ……
レーテミーナは奮闘していた。
「家督を継ぐのはお兄様ですわ!でしたらわたくしが働きに出て何の問題がありますの!?」
レーテミーナの兄は既に結婚し、二人の子供に恵まれている。三人目をいつにするか、なんて楽しそうに話しているのを苦い思いを抱えながら見てきた。
「いいか、レーテミーナ。確かにお前に命卵は一つきりしかないが、これほどまでに色が濃く出ているのだ、リヒティザイア公爵家に嫁ぐのも夢ではないのだぞ?」
「この間まではウォークの元へ嫁げばいいと仰っていたくせにっ!!」
ウォークを拒んでいた時、彼を家に上げあまつ住まわせたのは父だ。鳥族であり魔法に、弓術に長けたウォークが身内にあればこの家も安泰と、声高々に笑っていた。
「確かに彼はお前を愛し、我がセッターリンガ家の為に尽力してくれた。しかし、それではお前の望む……子をなすことは出来んのだぞ?だが、リヒティザイア家のセフィ……いや、セルフィーリオ様が御年十六にしてやっと男児となられたのだ。髪も目も色濃く風を纏ったセルフィーリオ様の命卵も一つ。こうなればリヒティザイア公爵家との縁談も夢では……」
「夢!?夢がなんだって言うの!?ずっとウォークに嫁げって言ってたくせに、今更命卵のことなんて持ち出して!」
そんな問題は、ウォークと何度も話し合った。可能性がある限り諦めない、いつか必ず二人の子供をこの手に抱くのだと。
「しかしだな……」
「この間まで私のことをお姉さまと呼んで、ドレスを着ていたあの子よ!?
この間、性別の確定したセルフィーリオは、その趣味趣向と性格の柔らかさからずっと女性になると思われてきた。本人も女性として歩むと思っていた為、貴族女性としての教養を学び、髪も長くドレスを常に身に纏っていたのである。しかし、どうにも性別が定まらずズルズルと十六まで来たが、何があったか急に体が男に変化した。本来ならばゆっくりと一年程度の時間をかけての変化だが、あまりにも急激過ぎた為、十日程臥していたのである。
「それは、そうだが……男となったからには徐々に性格も男らしいものになるだろうし……」
しどろもどろとする父に、レーテミーナは激昂する気持ちを抑えることが出来ない。
元々、王城で侍女として働けるように懇意にしている侯爵家にお願いをする為に話をしていたと言うのに、やっと落ち着いたと思っていた自分の話になったのだ。
「それにセフィは十六よ?行き遅れの私なんか娶る筈がないじゃない!」
レーテミーナは二十二だ。他地域はわからぬが、王都付近での平均結婚年齢は男女共に十六から二十。それを二年も過ぎたレーテミーナは確かに行き遅れであるが、ウォークが人目を憚らずレーテミーナに愛を囁き求婚し、と騒がしい為既に周りからも二人は夫婦のような扱いを受けていた。
「何、お前は王都でも三指に入る美しさだ、高々六歳の年の差などセルフィーリオ様も気になさるまい」
「そういうことを言ってるんじゃないの!!」
父親の発言に、益々声を荒げるレーテミーナにのんびりとした声が割り込んだ。
「お姉さま?お姉さまがしたかったのは、結婚の話ではなくて働きたいということではありませんの?」
執事であるディランに横抱きにされて部屋へと入ってきたのはリディーベルと言う名の十五歳の少女である。大病を患っている訳ではない。この世界に不治の病と呼ばれるような病気はなく、伝染病も人が死に至る様なものは存在しない。しかし、このリディーベルという少女は弱いのだ。三つの命卵を持ち、レーテミーナには劣るものの濃いめの色素を持ち合わせて生まれたが、どうにも良く転ぶ。少し長く歩くだけで息があがる。しかも彼女はレーテミーナと違って女性となるのも遅く、脆弱故に行儀見習いに出ることも学校へ通うこともなかった。
「そ、そうね。私は働きたいの」
「……ならば、リヒティ――」
「王城で!!」
明らかにリヒティザイア公爵家と続きそうな言葉を遮ると、父親は顔を顰める。
「男の話を妨げるなど、淑女にあるまじきだぞ」
「あら、女の話を受け入れぬのは、紳士にあるまじきですわ」
言われた言葉をそのまま言い換えて返すと、父親は眉間に皺を寄せて唸る。
「そうね、お姉さまは王城で働きたいのですから、お父様はその為に尽力してさしあげるべきですわ」
気がつけばリディーベルは既にディランの腕を離れ、ティーカップ片手に優雅にお茶を楽しんでいる。
「それにお姉さまが心配なのはわかっていますが、お姉さまはもうウォーク様と生きる決意をなさったのよ?今更子供のことをぶり返してどうなさるの?でしたら最初からウォーク様を受け入れなければよろしかったのよ」
「いや、しかしな……、あの頃はほら、お前は不毛な恋をしていたし……命卵が一つとなれば相手も居ないだろう……?だったらお前を守ってくれそうなウォーク君に任せたほうが……」
「ですから、ウォーク様にお任せすればいいのですわ」
「で、でも……、ミーナは子供を欲しがってただろう?」
「今更蒸し返すことではないと言っているのですわ。それに何より、セルフィーリオ様が男性になられた原因はわたくしです」
リディーベルがその体を女性のものへと変えたのは十三の年だった。ディールという幼名で呼ばれていた彼女は、公爵家で当時セフィと呼ばれていたセルフィーリオと友人関係にあり、体が弱くも聡明なディールはきっと男に、そして愛らしい性格のセフィは女になるだろうと思われていたのだ。
しかし、リディーベルは女になった。その事に不満はない。リディーベルは自分が脆弱な理由を良くわかっていた。注意力散漫で良く転ぶ。すると笑われる。運動嫌いなのも手伝って、内に篭ってベッドに横になりながらダラダラと本を読む。勉強もベッドで横になりながらだ。体が弱くなりもする。
基本的に面倒くさがりなのだ。性別が定まらないまま十二になって、女だったら子供産むときは大変だけど、貴族かそれに順ずる金持ちのとこに嫁げば子育てはそんなに大変じゃないよな?と、甘い考えをするようになっていた。
そんな折、久々に会ったセフィと公爵家の庭を散歩していたらうっかりと転びそうになったのだ。そこをセフィに支えられた。「ディールは間抜けでしょうがないな」などと自分を貶めるようなことを言えば、思いのほか強い瞳で「ディールのことはセフィが守るよ」などと言われてしまったのだ。その瞬間、胸がトクリと跳ねた。
その日を境に体が変化していった。セフィは女になる。そう誰もが言っていた為、会いたくないと思った。男の瞳で見詰められたからこそ、自身は女になるのだ。それなのにセフィが女になってしまっては、報われない。この体を、女になった自分を見られたくない。だからついこの間まで会わずに居たのだ。
偶然街で再開などしなければ、きっとセフィには会わないままリディーベルはどこかに嫁いでいただろう。しかし、何かに引き寄せられるかのように二人は再会し、女性らしく着飾ったリディーベルを見た瞬間、セフィは胸を押さえて蹲った。そのまま、馬車に乗せられ面会謝絶となって十日、セフィは名をセルフィーリオと改め、男児としてリヒティザイア家を継ぐことが表明されたのだ。
「どうせ近々あちらから、婚約のお伺いが来ます。ですから公爵家との繋がりはわたくしに任せて、お姉さまには好きにさせて差し上げてくださいませ」
「し、しかしお前は年は合うが命卵が三つもあってだな……数はセルフィーリオ様と合わんし……」
「そんなもの、どなたか命卵に恵まれない方に差し上げればいいのですわ」
「そんなものですって!?」
リディーベルの物言いに、レーテミーナが反応するがリディーベルは冷静に言葉を返した。
「今のは言葉のあやですわ。わたくしはお姉さまの味方をしているのですから、こちらに牙を向けるのはやめてくださいませ」
「あっ……だって……」
「ともかく、お父様はウダウダ言ってないで、お姉さまのしたいようにさせてくださいまし!」
それだけ言うとリディーベルは立ち上がり、先ほど執事に自身を運ばせたのはなんだったんだ?と言うくらいにキビキビとした足取りで二人の前を辞した。
「と、ともかくだな、この話はまた後日だ。私も色々と用事がある!」
そういい残して消える父親に、レーテミーナは地団太を踏んで「お父様の馬鹿ー!」と叫び声を投げかけた。
それから数日間、父親との不毛な言い争いが続いたが、リディーベルの予告通りリヒティザイア家からの使者が現れたことでそんな日々が終わった。
セルフィーリオとリディーベルの婚約が決まり、そのセルフィーリオが義姉の為と王城への紹介状を用意してくれ、とんとん拍子でレーテミーナの路は開けたのである。
奮闘したのはリディーベル?いや、セルフィーリオか?(笑
062の手直しについて。
そう、リディーベルが奮闘してくれちゃったので、純粋に漢字ミスってた「侯爵家」を「公爵家」に直し、妹のお陰でおとんは渋々、っていう風に直したのです。




