062 ――エレースの決意――
11/16 紹介状の部分を手直し。理由は063の後書きにて。
ジャジャン!ライバルが現れた!
エレースの中で、戦闘開始音が響く。
「なにしにきたのよ!」
宿敵…いや、フィオがパパとなってからは好敵手であるレーテミーナの出現に、エレースは身構える。そんなエレースの姿に周りに居た仲間達の体が強張るが、エレース自体の表情はキラキラと輝き楽しげなのを見て、一瞬にして目の前の美しい女性を「遊んでくれるお姉さん」と認識した。
「なにしにって……わたくし、ただ王城に行く道すがらの散歩を楽しんでいただけですわ」
「なにしに行くのー?」
「あそぼー」
「美人のねぇちゃんだなー」
レーテミーナの返答に、子供たちがわっと群がる。
「えっ、えっ?」
このような事態に慣れていないレーテミーナは困惑に顔を歪めながらも、少しばかり嬉しげだった。そんなレーテミーナを見ると、エレースはなんとも言えないモヤモヤとした心境になる。
「レーテミーナはエレースの『ライバル』なのよ!」
聞き慣れない言葉に、レーテミーナに群がっていた子供たちが一様に首を傾げた。
「らいばるって何?」
「ライバルは、ライバルなのよ!レーテミーナはエレースのライバルだから、だめなのよ!」
年長組みは、エレースの様子に大好きなお姉さんを取られたくない、という気持ちを感じ取った。
「まぁ……」
と、つぶやいたのはレーテミーナだ。現示者であるミーレリリーの現語講座で知った言葉。好敵手という意味の言葉に、何故か嬉しい気持ちになった。
「だから、だめなのよー!」
さて、何が『だから』なのか。大人ならば容易く感じ取る子供特有の嫉妬だが、子供には気付けないことも多い。特にエレースと同い年で何を考えているのかわかりくいリジーなど、レーテミーナをぼんやりと見詰めたままワンピースの裾をしっかり握って離さない。キラキラと、憧れの瞳でもってレーテミーナ以外に関心がなくなった様子のトリヤが顔を赤らめているのもエレースには気に食わない。
「まぁ、エレース。レディがそんな風に声を荒げるものではありませんわ」
畳んだままの扇子の先端をやや唇の下に持って行き、そう窘めるレーテミーナの姿は優美で、子供たちの視線を一身に集めた。
もちろん、迂闊なレーテミーナの発言にアーノンはヒヤヒヤだ。
「エレースは立派なレディになるもの!」
「そうですわね、ミーレ様とお約束なさったんですものね」
ふわりと上品に微笑む姿に、アーノンと同じく子供の世話役としてついて来ていた召使の数名が頬を赤らめた。美しい金色の髪に、また光を凝縮したような黄色の瞳はまるで女神の如き美しさを持っている。
エレースはレーテミーナに周りの関心全てを持っていかれたのが悔しく、そして周りが自分のライバルであるレーテミーナに群がっているのも悔しい。ここで、レーテミーナが周りの子供たちに優しく接したり一緒に遊ぶなんて行動に出たら癇癪を起こしてしまいそうなほどだった。しかし、そもそも人付き合いと言うものを苦手としているレーテミーナは鉄壁の愛想笑いで周りを見るだけであり、その表情が崩れるのが自分を含めた数人の前だけであることに優越感も感じていた。
自分の気持ちがよくわからなくなるエレースだった。
にっこりと微笑むレーテミーナを囲んで無言が続く中、扇子を持ち替え、そっと右手を頬の横に添えたレーテミーナ。その仕草一つをとっても、周りからは感嘆の溜息が漏れた。
「そろそろ、昼時ではないかしら?皆様、お宅に戻られなくてはご家族が心配なさるのではなくて?」
レーテミーナの言葉に、召使の数名がハッと空を見上げる。月が照らす世界であって、また決して動くことなく中天にある月は、その満ち欠けによって時を人々に知らしめる。日に三度の満ち欠けのうち、今は二度目の満月となっている所をみると、今の時刻は十五時。まさに昼時だった。
口々に召使が子供たちに家に戻ろうと声を掛け、素直に従い別れの言葉と共にみな去ってゆく。
その後姿を見送って、エレースはレーテミーナに向き直った。
「レーテミーナはなにしてるのよ?」
とっとと目の前から居なくなれ。昔のレーテミーナならば投げかけられたその言葉をそう受け取っていただろう。しかし、ミーレリリーやエレースと接するうちに、言葉をそのままの意味に受け取ることが出来る様になってきた。
「ですから、王城に向かう途中ですわ。やっとお父様がわたくしが王城で働くことを許して下さったの」
「レーテミーナはたらくの?」
「あら、以前も働いていたのよ?行儀見習いとして王子妃様付の侍女をしていましたわ」
このまま話し込むのも良くないだろうと、レーテミーナがそっとエレースの手を取る。エレースは素直に手を繋いだ。そのことが、レーテミーナには堪らなく嬉しく感じるがエレースの顔は疑問に溢れている。
リヒティエリュート邸へとゆっくり歩きながら話をすることにした。
「おーじひさまのじじょ?」
「えぇ。行儀見習いは、貴族子女の嗜みでもありますの。ですから、いずれは……あ、いいえ、なんでもありませんわ」
レーテミーナの中で、エレースの存在を己と同じ立場に感じていた為、エレースも貴族として歩むと思い込んでいた。しかし、エレースはグラフィーオの子供ではない。立場は決して貴族ではないのだ。
「わたくし、十二から十四で社交界デビューするまで働きましたのよ。本当でしたら十八ぐらいまでには結婚をするはずでしたけれど……」
貴族子女は、性別が定まるとすぐに行儀見習いに出される。そこで女の世界を知り、仕事とは何かを知り、そしてその頂点にある者とはどうあるべきかを学ぶ為である。
奉公先は身分により差があり、王城に仕えるものもあれば、侯爵家など身分高い爵位の家に仕えることもある。レーテミーナはある程度身分ある家の生まれであったことと、その美しさを買われて王子妃付きとなった。
「オークいるもんねぇ……」
まるで先ほどのレーテミーナを真似するかのように頬に手を当ててそう返事を返すエレースに、レーテミーナはつい笑ってしまいそうになった。
「そうですわね。もう立派に行き送れですわ。ですから、もう一度働くのもいいのではないかしらと思って。それに、王城で勤められれば、ミーレ様のお役に立てるかもしれないでしょう?」
もう一度働こうと思った、一番の理由がそれだった。
レーテミーナは強い原色の持ち主ではあるが、魔法について学んだ訳ではない。魔法学院は存在するが、勉強はとても厳しいものであり、九つで性別が定まってしまっていたレーテミーナを良い所へ嫁に出そうと考えた親族の反対もあって、魔法学院へは行かなかった。
さすがに九つで行儀見習いに出すわけにも行かず、中等学校の終わる十二を待って王城へ上がった。
学校は、常識とある程度の知識を学ぶ場であって、魔法について専門的に触れることはない。魔法を使うには精霊の力が必要だ、という常識的な部分はわかっていても、その為に何をしなくてはいけないのかなどの知識を一般人が知り得ることはないのである。
貴族令嬢としての教養はあっても王警団として活動出来るような特出したものは持っていないレーテミーナが、考えて考えてやっと思い浮かんだのが、とりあえず近くに居ればなんかしら出来るのではないか?と言うことだった。
貴族のしきたりに疎いミーレリリーの手助けが出来るのではないかと思うのだ。何日も何日も父親に掛け合って、結局妹の伝で公爵家からの紹介状を書いて貰えた。父親は渋々とそれを認めるに至った。
それを持って、ついに面倒に巻き込まれたミーレリリーの元に堂々と現れるのだ!と息巻いていた矢先のエレースとの遭遇だったのである。
「リリママのためなのね?レーテミーナいい子だったのね!」
「まぁ、ありがとうございます。エレース」
エレースに褒められて素直に喜んだレーテミーナだが、次のエレースの言葉にはどうしたものかと悩むことになった。
「じゃあ、エレースもおーじょーではたらくの!」
学校は、午後からで晩飯前くらいまでなシステムなことを書きたかったけど、どこにも差し込めなかったです。
後、子供時代は性別がない為、自分の事を名前で呼ぶ習慣があります。カルナは既に性別が定まり出したので「俺」とか言ってたわけですね。
彼等の名前は幼名です。性別が定まると名前を改めて付けられます。
ユーダ君あたりは貴族なので「ユーディルク」とかそんな名前になるでしょう。女だったら「ユーナレイダ」とかね。
ちなみに、グラフィーオの幼名は「ラフィ」とかちょっと可愛かったなんて設定があります。




