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転生チートの意味がない。  作者: おうさとじん
6章:主役な人々。
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061 ――エレースの日常――

エレースを語りにすると読み辛いので、三人称です。

今まで濁していたことに触れてます。

解説で、微妙に触れてるので気付いていた人が居るかもしれません。

 王都に居を移してから、エレースには嬉しいことが続いた。


 「おでかけするのよ」

 リリママ特製のハンチング帽にはフィオパパの髪の毛が上手い具合に貼り付けられている。元々目は茶色いので、この帽子を被りさえすればエレースも普通の子になれた。

 絶対に外れないようにと、これまたリリママ発案のピン(今まで髪のセットには樹脂を用いた整髪料しか使われていなかった)でがっちりと止める。前に帽子を取られそうになっても取れなかったので、エレースは安心して遊びまわることが出来た。

 貴族の子供特有の仕立ての良い薄青のシャツに、半ズボン。セットのジャケットもあるが、暑くて脱いでしまうのがわかりきっているので羽織らない。

 この世界の子供に性別はない。卵生生物はそれぞれ差はあっても生まれいずる時に性別は持たないものなのだ。ウィア族が代表的だが、彼等と同じく卵生の竜族も種族差があれど伴侶を見つける段階になって性別を手にする。

 半卵生と呼ばれるニヒト族はまた少し違い、思春期の訪れに伴い徐々に性別が変換されていくのである。だからこそ、子供の服装は皆似通ったものになる。

 スカートを履かせることは性別を強制する行為となるため忌避される傾向にあり、大体の家庭が子供にはズボンを履かせていた。

 エレースには生まれた時から性別がある。これもヴァルナトの特徴の一つだった。彼女としては最初から女として生まれ着いていることに疑問はない。ましてや、自分は女になる!と心に決めていたとして、必ずしも女になれるというものではないのだ。どういったメカニズムなのか研究するものも居ない。それが世界の常識だった。

 そんな訳で、貴族の子供らしいちょっと清ました格好のエレースはアーノンを引き連れて元気に外へと遊びに行くようになっていた。


 「エレース様!お待ち下さい!」

 慌ててエレースのジャケット、その他諸々を手に後を追うアーノンを従えて、街を歩き回るのは楽しい。

 今までは、友達はおろか外に出る機会すらなかった為お屋敷の中で己の世界が完結していた。それ故に、我が儘に育ち、自分勝手であることも知った。

 「こんにちはなの」

 清楚なワンピース(リリママが逸らせたらしい。エレースの自慢でもある)を来た貴族女性と、その子供が自宅前の花壇で花を摘み取っている所に声を掛ける。

 「あら、リヒティエリュートさまの所の……」

 「エレース!」

 庭師が横に居るので、庭の造りについて話をしていたのだろうか。子供はつまらなさげな様子だったが、エレースの声にその顔を楽しげな笑みに変えた。

 「ユーダは元気ね?」

 「エレースも元気だね?」

 ユーダと呼ばれた子供はエレースより二つ年上の六歳。体格も良いし、行動が男寄りなので将来は男になるだろうと親族だけではなく近所の大人たちも予想している。

 「エレースはもちろん元気よー」

 逆に、既に性別の定まっているエレースは女らしさの片鱗が四歳にして出ており、こちらもまた将来は女だろうと皆が思っていた。既に、女なのだが……

 「おかあさま、ユーダはエレースと遊んできていいですか?」

 貴族として育った故に、六歳にしては畏まった言葉遣いで問いかけるユーダに貴族女性はアーノンの顔をチラリと見る。

 「リヒティエリュート家執事、このアーノンが責任を持ってお預かり致します」

 畏まって礼を取るアーノンの姿にニッコリと微笑んで軽く会釈を返す貴族女性。

 ここ最近、お決まりのやり取りである。


 「毎度毎度、大人はめんどくせーのな」

 母親の元を離れた途端の言い草は、ユーダのものだ。このユーダとは家が近所なのもあり、初めて遭遇した同年代の子供として仲良くなった。

 仲良くなる前に殴り合いの喧嘩をしたわけではあるが。

 「おとなのせかいはたいへんなのよー」

 エレースは訳知り顔でふんふんと頷く。

 「ユーダは絶対、男になるんだ!おかあさま見たいにお優雅にするとかできねぇもん」

 「そうねー、ユーダはおとこのひとがむいてるかもねー」

 なんとなく答えるエレースに、ユーダはひしと肩を掴む。突然のことに目を白黒させていると、ユーダの顔が近づいた。

 「エレースは女になれな!絶対だぞ!」

 「もちろんエレースはおんなよー」

 エレースの発言に後ろを守るように控え歩くアーノンはヒヤリとする。女として育っているエレースは既に決まっている事柄、断定の意でそう答えているのがわかったからだ。

 「おう、絶対な!」

 ユーダがエレースの言葉を将来に対する希望として捉えてくれたことにホッと胸を撫で下ろしつつ、後でしっかりといい含めねばと決意する。

 「でも、ユーダがおんなのひとになってもエレースはおんなよ?」

 「ユーダは絶対男になるから大丈夫だ!」

 そう息巻いたが、不安になったのだろう。

 「でも、もしもユーダが女になっちゃったら、エレースは男になって……いや、ユーダは男になるってみんな言ってるからだいじょぶだ!あんしんしてエレースは女になれな!」

 小さな恋心をエレースは理解していないだろう。首を傾げつつも頷くエレース。アーノンは微笑ましい二人のやり取りを見ていた。


 「元気かー!」

 ユーダ、エレースは貴族の子供たちのたまり場と化している公園へと辿り着いた。

 ここは国が管理をしている公園で、全ての市民に開放されてはいるが暗黙の了解として貴族しか立ち入ることがない。王城に程近い地域一帯は貴族の土地だと皆が認識している。

 「ユーダちゃん!」

 「ちゃんじゃねぇ!」

 ユーダの声に駆け寄ってきたのはユーダよりさらにガタイのいい子供だった。名前をカルナと言い、年齢は七歳で、大体十歳から十五歳で性別が定まり出すニヒト族の中にあって、すでに男の兆候が現れ出している。

 「なんだよー、将来オレの嫁になるんだから、もっとおしとやかにしろよな?」

 「ユーダは男になるんだ!誰がカルナの嫁になるもんか!」

 いつものやり取りだ。エレースはそんな二人を尻目に、花を摘んでキャッキャと言い合っている集団の元へ向かう。

 「こんにちはなのー」

 「こんにちは、エレースちゃん」

 「こにちわー」

 「よっ、エレース」

 一人はこの集団のなかで一番年上で八歳のラジー、女になると周りも自分も思っているため既に髪を伸ばし始めている。みんなの世話役といっていい落ち着いた子供だ。

 もう一人はラジーと親を同じくする四歳の子供で、リジー。どちらになるかまだなんとも言いがたいが、跡取りの欲しい両親に男らしく成長することを願われている。

 最後に、男の子らしさが前面に出ているトリヤ。行動はがさつで、言葉遣いも男らしいが趣味が全体的に女の子寄りの七歳だ。

 「おはなつんでたのねー?」

 「そうなの、エレースちゃんも一緒にお花摘みましょ?」

 綺麗に誂えられた花壇ではなく、木々のそばで淑やかに咲いている花々だ。

 「エレースね、おはなのかんむりつくれるのよー」

 前にリリママに教わった赤詰草エマーツの花冠を思い出し、エレースは花を茎から摘んだ。やや大振りの花のため、上手く出来るかはわからなかったが、わいわいと不恰好な花冠を拵えて遊ぶ。

 エレースにとって、楽しくも嬉しい日々だった。


 「あら?エレース?」

 そこに、宿敵のライバルが現れてから、この日常が冒険に満ちたものへと早代わりするのである。


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