054 奮闘する私。
熊さんが恋しい……
ある意味和気藹々、その実態は殺伐とした職場。なんの謀略か、日勤の私に夜勤の熊さん……
夕方に帰路に着き、エレースちゃんとちょっと遊んで、エレースちゃんと夕ご飯食べて、エレースちゃんと思いっきり遊んで、エレースちゃんとお風呂入って、エレースちゃんと寝て、エレースちゃんの寝顔を見つつ行ってきますして……
やったね!エレースちゃん尽くし!!
いやね、嫌な訳じゃないのよ?とっても幸せよ?だけどそこに、でっかい図体に、ダンディフェイス。だけどほにゃっとした優しい笑顔で私たちが遊んでいるのを見ている熊さんがいないのが!なんか!
正直、寂しい訳ですね……
毎日顔は見てますよ?任務の交代で報告する時にチラッとだけ!
「はぁ……」
思わず出てしまった溜息は、思いのほか大きかったらしく、少し前を歩いていたレーシさんがピタリと足を止めました。
「……どう……たので……?」
ん?何か音が聞こえた?
「えっ?」
「……どうかしたのですか?」
あ、珍しく話しかけられたんですね!本当に珍しいや!レーシさんはいつも私に対しては最低限の会話しかしてくれないから、ちょっとびっくりです。
会話は目を見てが基本なのでレーシさんを見上げたのですが……あはは~いつも通り睨まれてるわ~……
なんで、なんでですかレーシさん!今、優しい言葉掛けてくれているんじゃないんですか!ただの状況把握の為の質問ですか!
「え、えっとですねぇ~……」
眼光の鋭さに一瞬タジっとしながら、どう返すべきか頭脳を高速回転させます。だって、「旦那さまとイチャコラしたいのに出来ないのが寂しいの!」とか、言えないよね普通。
「あー、ほら、この世界労働基準法ちゃんと制定するべきだと思いません?いくら私が海外で勤勉が売りと言われる元ジャパン人であっても、一高校生だったわけで社会は未勉強だったのですよ。それでなくても半日労働って結構な負担ですよね。そう考えるとやっぱり人員を増やしてせめて三交替制にしたほうがいいと提案したいですよね。く…フィオもウォークさんも、それにレーシさんだって疲れてますよね?それを出さない気概は素晴らしいと思うんですけど、こう癒しの時間って大切って言うか……労働者の人権を守る為に三交替制導入を!……駄目です、かね?」
今回は後ろめたさからですが、私って追い詰められると無駄に饒舌になるんですよね……
なんとか後退りしないでレーシさんの顔を見つめたまま言い切ったのですが、擬音が…「ギンッ!!」って擬音が聞こえそうなほど睨まれてるよっ!!!
「………………」
「………………」
暫く無言で睨まれていると、レーシさんがやっと口を開いた。
「……癒しは…………いえ」
また「いえ」かよっ!!癒しが何なのよっ!!!
これはあれですかね?同意はして貰えなかったってことでいいのかな?
「…………行きましょう」
「あ、はい……」
なんとなく会話が終了してしまいます。
良くわからないのですが、レーシさんがマー様に内密の話があるとか何とかで、勤務について直ぐ私だけ部屋を追い出されました。
(暇だなぁ……)
追い出されたからと言って休憩して良い訳ではなく、私はマー様の執務室の前で護衛官さん達と立ちんぼしています。護衛官さん達は王警団とはまた違う系列の人たちで、私たち王警団は王族の方々を守るのが仕事なのに対し、彼らは一応国全体を守る存在だそうです。
んー、王警団がボディーガードだとすると、護衛官は自衛隊なのかな?と言っても、王都に魔物が出没することはないし、街の治安も基本的には自警団が解決しているんですよね。自警団でも収めることが出来ないような事件が起こると護衛官の方々が出るらしいんですけど、そんな事態起こったことないし。
なんと言えばいいのか、そりゃあ備えあれば憂いなしなんだろうけど無駄が多い気がするんですよね、この世界。って言うより、この国?
権威を示すのは大切だとは思いますがー、王宮に居ると王族さんたちの国税無駄使いっぷりが目に付くし、見張りを見張る係みたいな良くわからん役職は多いし……監査官が不要とは言わないけど、見張りを見張る係りが見張りと仲良く会話しているのを見てしまうとなんとも言えない心境になるわけで…しかもそう言うお気楽な人は大抵貴族のお坊ちゃまなわけですよ!
もしかしなくても、この国内部腐敗してない?って思うんですね。
王警団員は現在、五十二名。その中には毒学を学んだ方だったり、武術特化、魔術特化した方と満遍なく王族のガードが出来るように配置されていて、皆さん日々各々の分野の精進に勤めているんです。この王警団が設立されたのは結構最近の事らしく、人選は幅広く行われ貴族は勿論、準貴族と呼ばれる男爵以下の家柄の人だったり、特殊技能を持っていればレーシさんのように一般市民でも採用するシステムらしいです。これは、素晴らしい。
でも、護衛官さんは三百人強いるらしいんですけど、演習場を使っている姿を見たことがありません。王警団の団服と違って、華美で動きにくそうな官服に、柄に宝石がゴスゴス埋め込まれた剣を下げてて……
うぅん……
今も、マー様の扉の前に突っ立っている護衛官さんお二人は小声でおしゃべりに夢中になってるし。
マー様が、護衛官は遊ばせている貴族のお坊ちゃま達に役職を与えるための飾りだってずばっと言ってた訳ですけど、飾りの職でもお給料は支払われているわけで、それは国民の血税から賄われているわけで……
納得いかん。と、護衛官さんたちの様子を見ていると思ってしまうわけですね!
もしかすると、今まで護衛官の方々が担っていた王族警護の大役が王警団に奪われたことにより、彼等のやる気が削がれて~なんて思ってそこいら聞いてみたら昔から護衛官はこんなだったとか言われるし。
なんとも、いや、はや。
この世界が平和である証拠なのかもしれないけど……
なんて、考えに没頭していると、メイドさんがお茶セットのワゴンを押して執務室にやってきます。
さて…どうしよう……
むっちゃ、毒の気配がするんですけど、どうすればいいですかコレ。
うっかりこの場でおおっぴらに毒の気配が!とか言っちゃって、もしもこのメイドさんが犯人の一味だったら極刑ですよね?いや、犯人擁護しちゃいけないのはわかるけど、私は自分が発端になって人が死ぬのは嫌だとか思う弱い人間なわけで……なんとか丸く収めたいわけですよ。
かと言って、このまま通すのは絶対に駄目だし……
こっそり毒だけ取り除いちゃう?見ると毒の気配が強く漂っているのは、ティースプーンなのでそれさえ換えちゃえばいい訳だよね?こう、うっかり落としちゃったりすれば換えのスプーン持ってきてくれるよね?
でもそれって隠蔽ですよね!犯人うやむやになっちゃうよね!
ぁぁぁぁぁ!本当にもう、どうすりゃいいの!?
「あの……いかがなさいました?」
ワゴンを運んできたメイドさんが悶々と思い悩む私を見て首を傾げます。
「あー……えっとぉ……」
助けて熊さーん!心の中で叫んでも、今頃熊さんはお屋敷でお休み中です。どうしようもない!
「そうですね……、あー……」
なんて唸っていると、メイドさんが困ったように眉尻を下げます。
「あの、お湯が冷めてしまうのですが……」
「いやー、それもそうなんですが……」
ここで一人思い悩んでいても仕方無いので、覚悟を決めて質問をぶつけてみます。
「私って、紫色の目をしているのですが、紫が示す属性って何かご存知ですか?」




