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転生チートの意味がない。  作者: おうさとじん
5章:王都で大奮闘…できた?
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053 緩いようで怖い職場です。

すっげぇ、難産のうえに駄文。

ヒャッホウ!

 「そして一ヵ月後……」


 「なぁに、突然?」

 私の呟きに反応したのは、意地悪そうな薄赤の瞳に欠伸あくびによる涙を滲ませたマー様です。

 「便利な言葉だなぁって思っただけですよ。この怒涛の一ヶ月!いろんなことがあったのに、そして一ヵ月後……それだけでさくっと時間が進んじゃうんですよ!」

 護衛対象である、第一王子は執務室で何をしているのかと思えば、詰まらなさそうに小説をお読みになっているんですね!仕事しろよ!

 まぁ、そんな小説を横目に見ていて思わず呟いてしまったんですけどね?



 「はい?王警団?私が?」

 「そ。そしたらいつだって僕の傍に居れるでしょう?なんかさ、レーシだけでもウザッたいのに、グラフィーオが増えて、こう、なんて言うの?ウザッたいんだよね。とにかくウザッたい。どうせ侍らすなら綺麗(どころ)がいいじゃない?と言っても、ウォークは扱い辛いから傍に置いておきたくないし……どうせ馬鹿デカイの傍に置かなきゃいけないなら一人ぐらいは綺麗な子にしたいじゃない」

 私から、そして熊さんから盛大なため息がこぼれたのは言うまでもありません。

 「無理ですよ。私に護衛なんてできる訳がないじゃないですか」

 何考えてんですかね、この王子さまは。

 「大丈夫、お嬢さんの仕事は僕の傍で僕の話し相手になることと、僕のお茶の相手をする事。後は、食事の時に僕の後ろに居ればいいから」

 「だったら、侍女とか、そう言うのでいいんじゃないんですか?」

 「だって、侍女じゃつまらないじゃない?まぁ、君が着るメイド服にも興味はあるけど、団服姿のほうがそそられるよね」

 ダメだ、この王子!早くなんとかしないと!!

 「勿論お嬢さんは女の子だから、夜勤は無しにしてあげるし、ただ僕とお話しするだけなんだから、いいと思わない?」

 「それって、もうズバッと聞きますけど、私をどうこうしたい訳じゃないんですね?」

 結局ズバッとなんて言えないよね。濁した言い方になっちゃうのは仕方ないよね!

 「どうこうって、どういうこと?」

 くそう、ニヤニヤしやがって……意味理解してるくせに!!

 「殿下……」

 横に控えていたレーシさんがマー様を言葉一つで咎めます。

 「はいはい、煩いなぁ。そうだね、お嬢さんがお手つきじゃなかったら是非ともどうこうしたかったんだけど、僕、人の使ったものは使いたくないんだよね」

 なっ!!怒りと恥ずかしさで顔が真っ赤になっていくのがわかります。

 「あー、その反応はやっぱりお手つき?まぁ、結婚して一月以上経ってるもんね、当たり前か」

 「………………」

 あれ、なんか隣からブリザードが放出されている気がするよ……!ちらりと見上げたら、熊さんが無表情だよ!でもコメカミがピクピクしてるよ!!!熊さんも怒るんだね!!!びっくりだね!!!

 「……マセラーセト王子殿下」

 「あー、はいはい」

 地を這う低音で、今度は熊さんに諌められ、マー様はめんどくさそうに返事をすると、豪華な椅子の肘掛に肘を付いて、ニヤリと笑います。

 「とにかく、断ることは許さないから」

 どうすればいいのかを考えることも出来ずにそっとため息をつくと、痛いくらいに握り締め震える熊さんの拳が目に入りました。怒って、耐えてる。あの温和な旦那さまが。やっぱり私は頭がお花畑なのか、その熊さんの気持ちを嬉しく感じてしまい、彼が一緒なら、大丈夫だろうと思いました。

 「明日からよろしくね、ミーレリリー」

 けれど、ねちっこいと表現するのがぴったりの声で名前を呼ばれ、私は背中に走る悪寒に、ぶるりと体が震えるのを止めることが出来ませんでした……



 「小説ってつまんないよねー」

 机に本を置くと、マー様は片肘を付いて、パラパラとページをめくります。

 ちなみに、執務室には私たちだけではなく、レーシさんもいるのですが、この人無言でマー様の執務机の横に立ってるのが常なので、会話が出来ないって言うか、話しかけんなオーラが出てます?

 「起こりえないことをまるで本当に起こったことの様に書いててさ。馬鹿っぽくない?妄想とか願望の垂れ流しでしょう?非現実的だよね。建設的じゃない。こんなことに時間費やして、何が楽しいんだか」

 お前、謝れ。私に謝れ。その起こりえないことを本当のことの様に書いてるお話が大好きで、ファンタジーな世界を夢見て育った私に謝れ!そんなことに時間費やすのが大好きな私に謝れ!

 なんて、言えたらストレス溜まらないですむんですが、いずれ国王様に為らせられるお方に言えるわけがありません……

 「だったら、読まなければいいじゃないですか」

 言えるのはこの程度……はぁ、ほんとストレス溜まります……

 話さないと怒られるし、おべっか使うとイヤーな笑みを向けられるし。この一ヶ月、兢々《きょうきょう》と過ごす嵌めになりましたよ!

 「これねー、ファーラが面白いから読めってさ」

 ファーラとは、ユーナファーラ王子妃様のお名前です。初任の際、お声を掛けて頂きました。お年は四十二歳で、私の印象としては、天衣無縫てんいむほうの中に王家に相応しい凛とした強さをお持ちの方、だったのですが、如何せん見た目がマー様と変わらないので気を引き締めないと年下として扱ってしまいそうになります。

 「こんなの読むより、レーシとかミーレリリーからうつつの話聞くほうが断然建設的なんだけど」

 「私はただの学生でしたし、マー様の役に立つ知識は持ってないですよ」

 「ファッションだって、立派な知識じゃない?これ見なよ!ミーレリリーがデザインしたこの服!動きやすいし、カッコイイし、ほんと、君を部下にして良かったよ」

 マー様が椅子にだらしなく座ったまま、両手を広げます。いやね、確かに自分でもいい仕事したな!とは思うのですがね……。

 以前マー様が着ていたのは、白を基調にした、ダラっとしたワンピースのような、ローブのような服に、ケープかなぁこれ……?と言いたくなる肩掛け姿。刺繍だけは細かく施されていたのですが、それも位置がおかしいし、柄も変だしで。

 仕事中に暇だったもんで、王子様と言ったらこれっしょ。と思って描いたデザイン画をうっかり見られたら、まぁ、気に入りやがって、もっと描け、色々描けで大変でした。私より大変だったのはお針子さん達ですけど……たった一日で三着あげてたもんね……

 で、早速着たマー様の王子様ルックを見て、今度はユーナファーラ王子妃様が私にも描いて、美しいドレスを作って!で……

 私は、現代日本に暮らしてた高校生で!中世の服装はうる覚えなんですよ!ベル○ラもネタ切れだよ!って思いながら必死にデザイン起こす日々でした……

 「まぁ、お役に立てたなら幸いです」

 「なぁに、折角僕が褒めてあげているのに」

 いやぁ、そんな無邪気を装った邪気たっぷりの顔で微笑まれても、どっと疲れるだけと言うかなんと言うか……

 「うれしいですー、ありがとうございますー」

 「うっわ、心こもってないなぁ」

 「冗談です。そりゃあ、嬉しいですよ。頑張って起こした甲斐がありますからね」

 「それなら、最初っから嬉しそうにしなよ。他の奴なら冗談でも不敬罪で殺しちゃうところだよ?」

 うわっ……またナチュラルにそんなこと言われちゃいましたよ、ハハハ。そうでした、マー様は怖ろしい人でした。ここ最近鳥さんと組むことが多かったので、うっかりその時の感覚になってました。

 マー様はあまり人を侍らしたくないそうで、護衛はいつも二人だけ。私は基本的にレーシさんと組むことが多いのですが、なにやら、うつつの技術がどうのこうのでレーシさんが忙しかったらしく、鳥さんと組んでたんですよね。ちなみに熊さんとは組んだことありません。まぁ、そりゃそうか。と思います。

 あぁ、レーシさん現示者げんししゃだったんですよ!むしろ、団服デザインしたのレーシさんだったんですよ!グッジョブ、レーシさん!

 しかもねー、現で慣れてたから全然気にしてなかったんですが、レーシさん髪の毛真っ黒なんですよね。

 そうです、彼、ヴァルナトだったんですね。慣れって、怖いですね!元ジャパン人だからしょうがないよね!

 「なぁに、黙り込んじゃって?」

 「え、いえいえ。えっと……」

 「何、ぞっとしてフリーズしちゃった?」

 マー様が英語混じりだったのは、レーシさんが教えたからなんだそうです。

 「そりゃあもう、鳥肌立つほどに」

 「そうやって、僕を畏れることを忘れないでいれば、大丈夫だよ」

 決して、冗談とは言わない方。言うことすべてが本気の方。そして、怖ろしい人間だと言うことを忘れさせてしまう方。だからこそ、余計に怖ろしい。


 莞爾かんじたる微笑に、今度こそ本気で鳥肌が立ちました。

読書してて自分が楽しいと思っていることの逆を書いたら、酷い扱き下ろしになった。マー、謝れこの野郎!そんな濫読作者。

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