049 月と花、そして夜会。
いきなりラブラブから失礼します。
「これを…貴女に……」
ただ一つの月が小さな庭園を照らす中、凛々しい姿をした旦那さまが小箱を私に差し出します。
「遅くなって、申し訳ありませんでした」
凛々しい姿なんだけど、髪とかオールバックでダンディなんだけど、やっぱりほにゃってしちゃう可愛い旦那さまです。
「これって……」
「えぇ、お約束していた、ラシャシスの指輪です」
ドキドキしながら、箱を開けてみます。すると、そこには花をモチーフした綺麗な指輪が……
五枚の銀色の花弁の中央に、淡く光るラシャシスが上品に月の光を弾き、柔らかく煌いています。なんと言うか、凄く素敵です。
「とっても、綺麗ですね」
嬉しくて思わず笑みを零しながら熊さんを見上げます。
「気に入って、頂けましたか……?」
不安気な旦那さまに、私は最大級の喜びを伝えられるようニッコリ笑いました。
「もちろんです!」
「よかった……」
安堵の呟きを洩らして、熊さんが指輪を取り、私の右手に嵌められていたリーノイシスの結婚指輪を外します。そして、ゆっくりと薬指にラシャシスの指輪を嵌めました。
「こちらが、本当の結婚指輪ですね」
私が言うと、熊さんが柔らかく微笑みます。
「結婚指輪にしては少し、派手かもしれませんが……どうしても花と月が頭に浮かんで……」
「月…ですか?」
嵌められた指輪を見てみますが、月のモチーフが入っているようには見えません。んん?どこだ月。
「あ、いや…その……結婚というより、その…恋人同士の指輪のつもりで作ったので……」
熊さんが、ポケットからもう一つの小箱を取り出します。開けると、そこには確かに月モチーフで、ラシャシスが嵌められた指輪がありました。そういえば、結婚指輪は男性の物は宝石は内側に埋めてシンプルに、女性の物は少し大きめの宝石を一つ、というのが一般常識なんですよね。ちなみに巷で流行しているらしい恋人同士の指輪は、月モチーフの『私には月があります(ただ一人心から愛する人が居ます)』と言う意味を持つ男性用、指輪は男性が女性に送るものなので、花モチーフな女性用も男性目線で『貴女は私にとって花です』と言う意味を持っています。そんなことをタティアさん達が騒いでたっけ。花の種類で女性側はまた意味が違って、確か薔薇見たいな花がモチーフだと『貴女は私にとって美しい花です』、菖蒲っぽい花が『貴女は私にとって大切な花です』だったかな。この指輪のモチーフはどんな意味になるんだろう……詳しく聞いておけばよかった。
「でも、これが私たちの結婚指輪ですよ」
そう言いつつ、指輪を手に取り、私は熊さんの左手に指輪を嵌めます。ちなみに、結婚指輪は利き手につける風習です。まぁ、熊さん両利きなんですけど……元は左利きだそうです。
「……ありがとうございます」
「いえいえ」
多分、玄関で待機している使用人さんたちは「なんだこのバカップル」と思っていることでしょうが、最近頭がお花畑なので、私は気にせず、熊さんと微笑みあいました。
ちなみに、今私たちは思いっきり盛装をして馬車の前です。玄関から門まで小さな庭園があって、馬車に乗り込む直前に、熊さんに止められたんですね。これから王宮主宰の夜会に行くんですよ!この間購入したドレスやら装飾品はその為の準備だった訳ですね。んで、仕立て屋さんやら宝石商さんは熊さんの会社関係の人だったらしく、金額とか気にしないでよかったらしいです。むしろ、もっと高価でも良かったそうな。逆に無理。無理無理。
「グラフィーオ様、ミーレリリー様、そろそろお時間ですので……」
暗に「はよ乗れや、バカップル」と言っているアムイさんに促されて、私たちは夜会に向かいます。
結婚してから初めての夜会、と言うより、人生において二回目のパーティーなのでボロが出ないか心配です!
「凄いですね……」
熊さんだけに聞こえるよう、小さな声で呟きます。
「王宮だからな」
誰が聞いているかわからないので、私達は会場に着いた時点で猫被りモード全開です。
会場の煌びやかさに圧倒されていましたが、すぐに周りを見る余裕は無くなります。えぇ、熊さんは今回お城に勤めることになりましたし、何より侯爵ですから、色々な方と挨拶しないといけないんですよね。
一応、一生懸命主要な貴族様方の名前を覚えてきていたのですが、如何せん元が悪いので、既に頭がパンク気味です。
それでもボロを出さないよう、優雅に挨拶をしていると私の視界に、それはもう、今日の主役と言ってもいいんじゃないか?ってぐらい美しい女性の姿が映ります。あちらも、私が目に入ったのか、妖艶な笑みで男性に囲まれていた顔が見る間に輝いて、両手を胸元で握り合わせます。そうです、レーテ様です。
いかん!駆け出してくるんじゃない!と念を込めて見つめると、気付いてくれたのか、握り合わせた手をウエストの辺りに下げ、優雅に男性方に何かを告げます。すると、男性陣が残念そうな顔をして、レーテ様の為に道を開けます。レーテ様凄いです。
「こんばんわ、グラフィーオ様、ミーレ様」
優雅だけど、なんか素早く歩み寄ってきたレーテ様がスカートの裾を掴んで会釈します。メイド会釈のご令嬢版ですね。ん、じゃあご令嬢会釈と名付けよう。
「こんばんは、レーテ様」
私も同じように会釈します。
「今晩は、レーテミーナ嬢」
熊さんも、優雅に男性らしく会釈します。なんか、お貴族してるなー今。
「今日のドレス、とっても素敵ですわ」
「レーテ様が一緒に選んで下さったお陰です。先日はとても楽しい時間を過ごせました。ありがとうございました」
「まぁ、そんな……!わたくしもとても楽しかったですわ。本当に、良くお似合い。美しいですわ……」
レーテ様が、ほぅっとため息を漏らします。言わせて貰えば、レーテ様のほうがよっぽどため息つきたくなる美しさなんですけどね?
「そんなに褒められては照れてしまいます……。そう言えばウォーク様はご一緒ではないのですか?」
なんか、背中が痒くなるんだけど、慣れていかないとなんだよね、これ?きっついなぁ。ウォーク様だって、ウォーク様。自分で言ってて違和感を感じますね。
「ウォークでしたら今日は……」
言いかけたところで、ラッパみたい(あくまで『みたい』)な楽器の音が鳴り響き、ざわめきがピタリと止みます。すると階段から今日の夜会の主催者である王族の方がお目見えです。
皆、頭を垂れて出迎えると、朗々と響き渡る声で、王族の方が挨拶をします。遠目で見えにくいのですが、面を上げると、流石は王族ですね。ばっちり髪が白いので一目瞭然です。
王族の方のご挨拶が終わると、会場はゆっくりとざわめきを取り戻していきます。
「私、王族の方にお目にかかるのは初めてで、少し緊張してしまいます。粗相をしてしまったらどうしようかと……」
「ふふっ、そうですわね。まぁ、王族の方々は大体四公の方々と一緒にいらっしゃるから、こちらから近づこうとしても、お話しできることは殆どありませんわ。だからご安心なさって」
ほんの少し、顔を寄せ合って二人で笑います。緊張していたんですが、今凄いレーテ様に救われています。
「でも、グラフは侯爵なんだから、挨拶にはくるべきなんじゃない?」
後ろから急に掛かった声に驚いて振り向くと、そこには黒い団服に身を包んだ鳥さんがいます。しかもその後ろに白い髪した……あれ…この顔……
「マー…様……?」
「よかった、覚えていてくれたんだねお嬢さん」
私の顔から、一気に血の気が引く音がしました。
ミーレ、ミーナ、レーテ、レーシで作者がごっちゃになる。
名前がわかり辛くてほんとすいません……




