044 にゃーにゃ、にゃにゃー。*Rが13~14?
「私、猫被ってませんよ……?」
そう言えば熊さんにはドS疑惑があったんでした。今となっては私の勘違いだと断言出来る、と思っていたのですが、チクリと猫被りのことを言われるとは、熊さんはネチネチ鬼畜タイプですか?
「猫を、被るのですか?頭に乗せるということでしょうか?」
抱きつく格好のまま、熊さんが首をちょこっと動かします。この状態で動かれると、なんとも言えない気分と言うか……。私がやったんだけど、熊さん思いっきり私の胸に顔を埋めてますよね。今更ちょっと恥ずかしくなってきたのですが、熊さんは恥ずかしくないのでしょうか。
ちらりと下を向いてみれば、熊さんの耳が真っ赤です。あらやだ、可愛い。思わず、抱きしめる腕に力が篭ります。すると、熊さんも私の背中に回していた腕に力を込めます。なんだろう、この心がほわーんってなる感じ。幸せってこういうこと?
「……リリー?」
あ、いかんいかん。そういえば、熊さんが変なことを言ったんだった。えっと、猫を頭に乗せるとかなんとか……。
「あっ!そうですよね。この言い回しはうちの村だけの言い回しでしたね!」
定着し過ぎててうっかり。あはは。
子供の頃、ママンに「お上品な振りぐらいは出来るようになりなさい!」って怒られてジャパン語を交えて「ヘーヘー『猫被れば』いいんでしょう、『猫被れば』!」と返したことから、こちらの言葉に翻訳、村に広まったんでした。つまり、やっぱり熊さんはドSでも鬼畜でもなんでもなく、ヘタレ紳士熊だったんですね。猫っていうのがどっから来たかはわからないけど、まぁ私の勘違いってことで。……勘繰ってすいませんでした。
「あーっとですね、えーっと、忘れてください……」
「…………?」
熊さんがまた私の胸元で首を傾げます。そういえば、苦しくないのでしょうか?そりゃあ寄せて!上げて!が発達してませんから、普通の服を着ている限りDだろうがEだろうが谷間なんて出来ませんけど。でも胸で頬手前までをサンドしているのは確かですよね。あー、そんなこと考えるなら、離れればいいんですよね。そうですよね。でもなんか、おっきな男の人が女の人に抱きしめられていると言うか抱きついているのって、はたから見ると結構萌えません?私は萌えます。そして、そんな状況が自分に起こってるわけで。エロスな空気でもないし、そうなると離しがたく……
なんて思った瞬間、熊さんが腕の力を緩めます。……ちっ。内心舌打ちです。もうちょっとこのままで居たかったです。でも、しょうがないので私も熊さん抱きしめ終了。
「……抱きしめられると言うのも……ですが……」
テレテレ、ボソボソ言っているので途中が聞こえませんでした。私が「え?」と聞き返しの意味で声を上げると、熊さんの左腕が私の腰に廻り、引き寄せられます。すると今度は熊さんの右手が私の膝後ろに回り……
「うひゃっ!?」
いきなり、世界が廻ります!気がつけば、熊さんの太股の間に横抱きですっぽり収まる形に。座っていながらこんな芸当が出来るとは、侮れないややマッチョです。
「こちらのほうが、落ち着きますね」
落ち着いたのは貴方だけですよ!私はドキドキしましたよ!
多分、驚いた顔をしていたのでしょう、私の顔をみて、熊さんがクスリと笑います。
「やはり、貴女は猫のようですね」
むむう?
「猫のような人ってあんまり嬉しい喩えじゃない気がします……」
「そうですか?」
「そうですよ。だって、勝手気まま~とか、何を考えてるのかわからない~とか、移り気~とかそんな感じの意味合いじゃないですか」
それに私は犬派です。犬みたいって言われたほうが嬉しいです。
「そうですね……それじゃあ、熊のような人とは、どういう意味になりますか?」
え?熊のような人……?
「えっと…おっきくって、もっさりしてて……」
はっ!私、『熊さん』に対して失礼なこと言ったか今!?
「外見的なことですね」
熊さんは私の言動を特に気にすることなく、ニコリと笑います。
あ、つまりそういうことですか。
「私が猫さんなのは、猫みたいな顔してるってことですか?」
「はい」
熊さんのダンディ笑顔に、なんでか脱力です。
「にゃー……」
よくわからない敗北感に、降参の意味を込めて、両手上げの招き猫のように手を挙げて、鳴いてみました。
「……っ!」
ん?熊さんがプルプルしてます。そんなに面白かったのでしょうか。
「にゃー?」
「っ……!」
今度は、思いっきり顔を右に逸らしてやっぱりプルプルしてます。ツボッたようです。熊さんの笑いのツボっておかしな所にあるんですね。なんか、頑張って深呼吸しています。
「それ、私の前以外では、しないようにしてくださいね……」
顔を右に向けたまま、ぼそり。まぁ、外でやって熊さんが今みたいに必死で笑いを堪えることになったら、可哀相ですからね。熊さんも周りの人も。何事かと思うもんね。
「にゃー!」
肯定の意で、力強く一鳴きすると、熊さんが益々呼吸荒く、必死に笑いを堪えます。首まで真っ赤になるとは、どんだけのツボなんでしょう。
「わた…しの、前でも……あまりやらないよう…に、お願いします……」
ふむ?笑かされるのはあまり好きじゃないんでしょうか?
「はぁい……?」
なんとなく、疑問系を忍ばせた返事になってしまいました。
プルプルしている熊さんの笑いが収まるのを、抱っこされたまま待ちます。ちょっとして、熊さんが息一つを漏らします。どうやら、落ち着いたらしいです。
「ありがとうございます」
おっとー?またですか、唐突ですね。このありがとうは何に対するありがとうですか?笑かしたことですか?
「なんだか、ほっとしました」
ん、ほっとした?んー、あれか、さっき思い悩んでたから、それか。気晴らしになったんですね?
「それは、よかったです」
「はい」
熊さんがきゅっと、私を抱きしめます。思いっきりソファの肘置きに背中を預けていたので、体ごと引き寄せられる形になり、咄嗟に右手を下についたのですが……なんかぐにゅってした。でも、ぐにゅってしたのは最初だけで、徐々に硬く……
「…………」
「…………」
そろーっと熊さんが拘束を緩め、私もそろーっと右手を上げます。
「あははっ…ははっ……」
気まずさに、私が乾いた笑いを上げると、熊さんもぎこちなく笑いました。
えっとー、今私が触っちゃったのは、あれだよね?あれ……。結構柔らかいんですね、あれ。そりゃそうだよね、いつも硬かったら困るよね。なんてね、意識しちゃうと駄目だよね。徐々に顔の熱があがっていくのがわかります。あ、駄目だ、頭が冷静じゃなくなっていく。これはいかん、これはいかんぞ……
「もうこんなじ……」
「意外と柔らかいんですね!」
ほら…ね……、がくり。
熊さんの声にびくりとした瞬間、頭の中で思っていたことが口をついて出てしまいました。もう、ほんとこの失言癖……
あぁ、ほら、熊さんが鳩が豆鉄砲喰らったような顔してる……
と、熊さんが再度私を抱きしめます。今度は両手を胸の前でぎゅっとしていたのであんなことにはならずにすみました!しかし、思いっきり、熊さんの胸元に耳をつける形で、しかも中々強い力で抱きしめられています。
「誘っているわけでは……無いんですよ、ね?」
ふぃ!ダンディボイスが天から降りかかってくるよ!しかも、スマートな言い方なのに、心臓がドックンドックンいってるのが耳に伝わってきてるから、凄い体がゾワッってしたよ!!
「あ、あ、あの、あのですね、その……」
どもりどもり、顔を上げます。しかし……、これは、激しく、失敗でした……
「……リリー…………」
今にも溢れ出そうな熱を孕んだ瞳が、熱い吐息を漏らす唇が目に飛び込んできます。
「…あっ……」
私が何も言えなくなると、体がふわりと宙に浮きます。
そうですね、非常にお姫様抱っこしやすい体勢でしたね。
そして私は、ゆっくりベッドに運ばれたのでした……
作者は猫派です。
両手を挙げている招き猫は実在します。金も客も呼ぶ、欲張りな招き猫ちゃんです。
「誘っているわけでは……~」で悩んだセリフ一覧
・「意外と硬くもなりますが……」
・「どこまで硬くなるか試してみますか?」
・「もう、柔らかくないですよ?」
どれも熊さんらしさがないので、却下でした。




