041 騒ぎに巻き込まれる体質なのでしょうか。
やっちったよ、新キャラ君。
十歳ぐらいの少年の予定だったのに、前回の話でうっかり青年のように書いちゃってたよ。年齢ちょっと引き上げるよ!
「そうだなぁ、僕のことは気軽にマー様って呼んでくれればいいかな」
いや、何がいいかなですか。失礼を承知で握られた手を振り払ったのですが、そうすると肩を抱かれ、それをかわすと、腰に手が回り、てんやわんやでやっと触られずに済む距離を保つことに成功です。
身長は私よりやや高め、しかしこのイケメン顔はまだ発展途上にあるような、子供らしさを匂わせています。多分年として十四、五歳。って、私とあんまり変わらないけど、私が過去世と合わせて三十代だからなのでしょうか、すごーく子供に感じます。やってることはナンパ男!って感じだけど!
「先ほどは、本当にありがとうございました。名乗っていただきましたが、マー様というのは通称か何かのようですので、失礼とは思いますが名乗るのは控えさせて貰います!でわ!」
怪しい人には関わるな!ダッシュで逃げます!
「本当に、感謝はしてますー!」
走りつつ、そう声を掛けて大通りを駆け抜けます。
「あれー?布地の露天は反対だよー?そっちは袋小路~」
ちょ!こいつ走ってついてきやがる!
「それはどうも!」
キキーッとブレーキを利かせつつ、反対方向にダッシュを展開!正面にマー様(そう呼べって言われた以上しょうがないよね。様つける意味がわからんけど)を捉えます。マー様は両手を開いて受け入れ態勢万全です。
なにこの変な人怖い!!
しかし、両手を開くと言うことはわきの下ががら空きです!私はそこを、キンッ!と睨み猛ダッシュをかけます。心臓が破れそうです!
「ふぉー!」
「っ、あぁ!」
よっしゃ!見事に通り抜けまし……
壁ぇー!!!
なんでしょう、なぜでしょう、人間瞬間的な危険が訪れると身体能力が飛躍的に向上すると言うか、時間さえも遅くすると言うか。私は急ブレーキを掛けつつ、壁に追突する直前、顔面をかばうことに成功しました。この身体能力、さっきリンゴを掴むときに発揮して欲しかった。
ブレーキを掛けても衝撃は衝撃、覚悟して目を瞑ります。
ドスッっといい音がしました。若干痛かったけど、予想より痛くありません。何事でしょう?
「大丈夫ですか?お嬢さん」
あれ?何このデジャブ。ついさっき似たようなことが……
「グッジョブ、レーシ!」
現語!?何がなにやらわけがわからん!
呆けてしまっていた為、壁と思っていたモノから離れるのを忘れていたのですが、腕を引かれてベリッと引き剥がされます。引き剥がしたのは先ほど私を追いかけてきたマー様でした。
「さんきゅー、さんきゅー。お嬢さんが急に走り出しちゃったから大変だったんだ」
いや、えっと、んん?……とりあえず、冷静になろう。マー様は意味不明で怖いから関わりたくない。うん。でも、明らかに現語、というより英語を駆使しています。何者でしょう?私と同じ?まぁ、それは置いといて……
それよりも、私が壁だと思ったのは……
見上げると、熊さんよりちょっと背が低いかな?ぐらいの男の人です。瞳の色は青緑、髪はマー様と同じように布で隠しているので良くわかりません。顔は中の上と言った所でしょうか。上背の割りに線は細めで、ぶつかった時の感触から予想すると、細マッチョです。
「えっと、ぶつかってすいませんでした」
「いえ……」
なんか、もっそい見られてるんですけど、いや、見られてる通り越して睨まれてる?
「ほんと、すいませんでした」
「いえ」
思いっきり頭を下げてから、怖々《こわごわ》もう一度顔を見てみます。やっぱり睨まれてる!?あわわわわ、怪我でもさせた!?
「もしかして、お怪我でも……」
「いえ」
いえ、しか返ってこないよー!
「レーシは鍛えてるから大丈夫。それより、布地の露天を見るんだろう?こっちのはずだから行こう」
そういえば、青年に右腕を取られたままでした。私の腕を掴んでいる指を左手を駆使して剥がそうとしたのですが、逆にその左手をマー様の右手が捕えます。いや、なんか男女逆の腕組み見たいになってるから。
「あの、一人で行けますので結構です」
なんていいつつ、マー様と腕取り腕離し合戦です。
「こんな所で可愛いお嬢さんが一人なんて危ないでしょ?だから一緒に行こうよ」
いや、あんたの傍にいるほうがなんか危機感覚えるんですよ。
「大丈夫です。それに私はお嬢さんじゃなくて奥さんです。夫も子供もある身ですから、男性と一緒は困ります」
ピタリとマー様の動きが止まります。その隙に距離をとってやったぜ!
「……えー!!!そりゃないよ!嘘だよね?嘘でしょ?」
こいつ、さっきのおばちゃんとの会話聞いてたんじゃないのか。途中からか。
「嘘じゃありません。れっきとした奥さんですので……」
「うそうそ!絶対嘘だって!」
「こんな嘘言ってどうするんですか。うそじゃないので……」
あぁ、なんか野次馬が集りだしてます。騒ぎが大きくなってきてますよ!
「嫌がっておられるようですから、ここは」
「まさか!僕を嫌がるなんて!」
レーシ…さんだっけ?は中々わきまえていらっしゃるようですが、マー様がキッツいです。多分、一番苦手な部類の人です。
「なんで?僕が気に入らない?僕は気に入ったよ君のこと!結婚してるって嘘だよね?むしろ僕のお嫁さんにならない?そうしようよ!本当に結婚してるなら別れてさ!僕は気にしないし、周りが気にしても全部もみ消してあげるから!」
うわー……ドン引きです。これどうすればいいですか。
~その頃・熊さん~
リリーが街に出たい、護衛は要らないと言うので、治安は安定しているが、一応細い路地には入らないようにとだけ言い含め、気をつけてと送り出した。しかし、リリーには申し訳ないが、秘密裏に護衛をつけることにする。出来れば一緒にと思ったのだが、午前から昼食に掛けては事業の役員との打ち合わせが入っていた。
その後の予定は、領主として午後から街の視察なので、リリーが以前言っていた『サプライズ』というのをして見ようと思う。まぁ、偶然を装いつつリリーに会って、視察がてら街を案内する程度だが……。
急に私が現れたら、驚くだろうか。喜んで…くれるだろうか?自身がサプライズになるのか、という不安があったが、お茶に丁度いい喫茶店に席の予約も入れたし、この間露天から、通りに店を移した花屋でリリーの喜びそうな花束も購入した。そこの女主人からヒゲを剃ったことを茶化されたり、花束の贈り主のこと――つまりリリーだが、彼女をお披露目しろと散々文句を言われた。領民に結婚の報告はしたが、お披露目もするべきだったのかと、配慮が足りなかったことに少々落ち込む。しかし、そうして落ち込むと女主人に慰められた。「いつか、お願いしますよ」と言われ、承諾し、店を後にする。
と、店を出てすぐ、風の気配を感じる。その気配が去ってすぐ、自警団の一人が私の元にやってきた。先ほどの気配は、この自警団員が探索の為に使った精霊だろう。
「よかった!こちらに居られたのですね!」
「団長に用事か?」
視察の際は自警団の団長を伴っているので、急事かと眉を寄せる。
「あ、はい、団長もなのですが……」
なにやら、言い難くそうだが、私に用事があるらしい。
「その、奥様と思われる方が大通りで男性に……」
「場所は!?」
思わず出た大きな声に、自警団員は一瞬顔を強張らせるが、すぐに背筋を正し、「こちらです!」と走り出す。私も急ぎ、その後に続いた。
なんか、すごい大事になってるんですが……
自警団来ちゃったよ自警団。
「あのですね……」
とりあえず、自警団の方々が集まった野次馬を解散させようと必死になっています。一応私は自警団の方に保護され、マー様は「求婚してただけなのに!」とかプリプリ怒って言ってます。なんかもう、ため息しか出ません……
「…リー!リリー!!」
そこに、大きな声で人垣を掻き分けて、熊さんが登場しました。
あぁ、なんかスゴイほっとした今!
「フィオ様ー」
「リリー!」
どぉう!人目も気にせず、駆け寄ってきた熊さんが私を抱きしめます。でも、ここが外だと言うことを思い出したのでしょう、はっ!となって体が離れました。
「無事ですか?何もされてはいませんか!?」
「……はい。大丈夫ですが、なんか騒ぎが大きくなっちゃってすいません」
「いえ、それはいいのですが……」
と、ここで咳払いを一回。
「いったい何があった?」
威厳たっぷり熊さんに変身しました。猫を被るのを忘れるくらい心配してくれたんだと思うと、不謹慎ですが、嬉しくなります。
「なんて言ったらいいのか……?」
説明が難しくて、悩んでいると……
「ちょっと、近い近い!その子は僕の奥さんになるんだから!」
あぁ、面倒が面倒なこと言って来た。
熊さんが思いっきり顔を顰めてから、声のしたほうに振り返ります。
「マ―――…――……?」
熊さんの驚きに満ちた呟き声は、流石に小さすぎて私の耳には届かなかったのです。




