040 お忍び!街探検!
即失敗!
どうも、賑やかな街からリリーがお送りします。
そうです。街に出ています。実は初めての街だったりします。驚きです!熊さんの治めているこのアステリグライ領フィルゴナは熊さん領の首都的な街だったりします。なので賑やかです。
もちろん王都とは違うので、中世ヨーロッパ的な貴族の奥様方や紳士の高級そうな馬車が行き交っているとかは無いですが、アステリグライ領では首都ですから、商業が盛んです。熊さんは商売に寛大らしく、中心部に行くと大きなお店が立ち並んでいるそうです。王都のような煌びやかさ、荘厳さはありませんが、この街はこの街で十分活気に溢れています。
何が言いたいかというと、元気な街だよ!ってことかな。
治安もよろしいらしく、散策がてら買い物がしたい、仰々しいのは嫌なので従者は要らないと言ったら、普通に許可されました。ゴネることになるかなー?と思ってたので正直拍子抜けです。そんなわけで、着慣れた村娘ルックより、ちょこっとだけ垢抜けた町娘ルックでお忍びお出かけです。
お屋敷は街の外れ、ちょこっと林に囲まれた奥にあるので、そこからテクテク歩きました。とりあえず大通りに出ようと、道幅が大きくなるところを探して歩きます。
どうやら、街の中心から離れた位置は住宅街らしく、玄関の前で露天を開いている人とかが多いみたいです。
「あら!あなた、リヒテ侯の奥様じゃない?」
うお!?ばれねぇと思ってたのに一発でばれたとな!?
「あ、どうもこんにちわ」
思わずペコリと頭を下げます。話しかけてきたのは果物を売っている露天なおばちゃんです。
「あらどうもご丁寧に、こんにちわ」
おばちゃんも丁寧に挨拶を返してくれます。
と、おばちゃんの声が大きかったせいか、大通りを歩いていた人や、露天を覗いていた人たちが集まりだしてしまいました。これは困った!
「なんだい、御付きも付けないで領主様の奥様がこんなとこ歩いてていいのかい?」
「あらあら、お噂通り可愛いわねぇ」
「どうだい、ここには慣れたかい?」
なんて、みんな口々に声を掛けてきます。ど、どうする!こんな風に囲まれたのは初めてで戸惑ってしまいます。
「こらこら、あんた達!奥様が怯えちまってるよ!散った散った!」
最初に声を掛けてきたおばちゃんが周りの人たちにそう言うと、「うちの店も覗いて行ってくださいよ!」等、色々と声を投げて皆さん散って行きます。
「ごめんなさいねぇ、あたしったら声がでかくて行けない」
「あ、いえいえ。それにしても…なんで私ってわかったんですか?」
マジ疑問です。私、結構容姿が凡庸であると言う自信があったんですが……特徴も薄いし。
「あら、この辺で髪も目も紫な人なんていませんからねぇ。なんです?お忍びだったんですか?」
「あぁ~……はい、まさにお忍びな気分で出てきたんですけど…そっかぁ……」
村にいた頃も紫の髪の人は私ぐらいしかいませんでしたけど、都会だったらそんなに珍しくないだろうとか思ってました。珍しかったんですね……。
「そりゃあ、失敗しちまっ…失敗しちゃいましたねぇ」
「あぁ、わざわざ言い直さなくてもいいですよ~。私、元々村娘ですから。畏まられるほうがなんだか窮屈で」
おばちゃんの快活な雰囲気のせいか、テヘヘと笑いつつ、うっかり侯爵夫人らしからぬことを言ってしまいました。
「あら、そりゃありがたいね。どーも、堅っ苦しいのは苦手でねぇ。それで、なんだい?今日はどっかに用事かい?」
なんだろう…凄い、アットホームな感じです。この街、すげぇいいよ!いい街ですよ!
「あー、嫁いで半月以上経ったのに、まだ一度も街に下りてなかったからって言うのと、伸縮性の高い布が欲しくて」
と、おばちゃんが手をポン!っと打ちます。
「そうだよ!リヒテ侯ったら、水臭いじゃないか!こんな可愛い奥様貰ったんだったら、私たちにお披露目してくれりゃいいのに、一度も二人で街に降りて下さらないんだから」
ドシンと腕組んでの発言ですが、怒っている感じではないようです。熊さん、街の人たちに愛されてるっぽいです!素敵です!そうだろうなと思っていましたが、熊さんいい領主さんしてるみたいです!
「あはは~申し訳ないです」
「でも、良かったよぉ。言っちゃ悪いけどリヒテ侯はほら、巷じゃ変人侯爵なんて呼ばれてるだろ?そりゃ、あたし達領土のもんはそんな噂、嘘っぱちだって知ってるけどさ。嫁なんて貰えないんじゃないか~とか、きても鼻持ちなら無い業突な貴族令嬢なんじゃないかーとかみんなで噂してたのさ。それが、ほら、こんないい感じのお嬢さんだもんねぇ。可愛すぎてリヒテ侯もお屋敷から出したくなかったのかね?」
「はは、いやいやそんな……」
頬をポリポリしてしまうと、「あらあら、リヒテ侯とおんなじ癖!」なんて楽しそうに笑われます。そう言えばこの癖はこちらに来てからついた癖です。熊さんの癖が伝染ってた!!
なんだか、恥ずかしいです!
「あらあら、ほんとに可愛いねぇ……」
おばちゃんが頬に手を当て、ほぅっとため息です。この年長者に温かい目で見守られている感、たまりません。恥ずかしさ倍増です。
「おっと、なんだっけ、布だったかい?」
「あ、はい。よく伸びる布が欲しくて」
唐突に話が変わるのは、女性特有ですよね。
「それなら、大通りに出て中心街の布地屋に行くか、隣の通りの露天に恰幅のいい親父さんがいるんだけど、その店だと品揃えがいいかねぇ?」
「そうですか。それじゃあ取り合えず、その露天の親父さんの所に行って見ます。ありがとうございました」
頭を下げると、「本当にいい子だねぇ」なんて声が聞こえます。もうやめて!褒められなれてないの!
「それじゃあ」と、別れを告げて歩き出そうとすると、おばちゃんが声を掛けてきます。振り向くと、「持っていきな!」の声の後、ポーンと弧を描いてリンゴが一つ。
「あわわ!」
こういっちゃ何ですが、球技とか苦手ですよ!!それでも必死でリンゴを掴もうとしますが……
「あっ!」
掴み損ねた上に転ぶ!!
と、思った直後、ポスリとやや硬めだけど痛くは無い何かに包み込まれます。
「大丈夫?お嬢さん」
上から降ってきた声に、慌てて見上げると、薄めな赤い目をした優男系の人に抱きすくめられていました。しかもその人、右手で私を、左手でしっかりリンゴを掴んでいます。なかなかやりよる。
「だだ!大丈夫です!」
やりよる。とか思ってる場合じゃないです!不可抗力とはいえ夫ある身のご婦人が街中で見知らぬ男性に抱きしめられているなど!!私は慌てて離れます。
「ごめんね!大丈夫だったかい!?」
おばちゃんも心配してくれます。
「いやいや、大丈夫ですよ!ご心配おかけしました!」
おばちゃんが駆け寄って来そうな雰囲気だったのですが、丁度お客さんが来たのでそちらの対応に追われます。それでも「こっちこそ、ごめんね!」と、声を掛けてくれたので、改めて会釈を返します。
さて、そして助けてくれた男の人に改めて頭を下げました。
「危ない所をありがとうございました」
「いいよ、こんな可愛い子を抱きしめられたんだから役得かな」
おっと、優男さんは軽い人らしいです。改めて見ると、私の好みではありませんが、中々イケメンです。髪色はすっぽりと隠すように布を頭に巻いて、後ろで縛っているのでわかりません。ちなみに、こうやって髪が隠れるぐらいに布を頭に巻いている若い男性がこの通りをチラホラ歩いているので、流行のファッションなのかもしれません。でも、この人の場合似合って無いです。布がカラフルでおしゃれですが、これは、こう、もっとガテン系なあんちゃんたちが似合うと思います。目の色はさっき見た通り薄めの赤です。特徴的な部分は…………特にありません。まぁ、特徴が無いことって、万人受けする美形の条件らしいですからね。鳥さんを知っている為、感動は薄いのですが、鳥さんを知らない頃に見てたら、イケメンだー!!と脳内で騒いでいたこと間違いなしです。
「なぁに?あんまりカッコいいから見蕩れちゃった?」
「……ソウデスネ」
ここで、否定するのも失礼だし、どう返したらと一瞬悩んだ結果、思いっきり棒読みになってしまいました。
「あれ?君好みじゃなさそう?まぁいっか。それじゃあ行こうか」
……はい?
「ね?」
なんて言いつつ、優男さんが私の手を引いて歩き出します。
え?……え、え、え?




