039 飲み水の心配が無くなりました。
事実が小説より奇なることはないと、私の経験則が申しております。だから、きっとこの怪しい部屋は怪しい部屋なんだよ!熊さんは夜な夜なこの変な部屋で怪しい黒魔術に……
「って、魔法が普通にある世界で黒魔術とか、ありえないですよねー」
実は熊さんとのんびり怪しい部屋でお茶を飲んでいたりします。
「はぁ」
よくわからないといった風の熊さんです。良くあるファンタジーの説明はいつか機会があれば聞かせることにします。それよりも何よりも、センティエさんが運んでくれたお茶を一服なのはいいのですが、この部屋ですよ。
「これ、なんなんですか?」
硬い木製の椅子に腰掛けながら部屋を見渡します。ほんと、激しく怪しいです。なんか束になった野草類も壁に掛かってます。何かのホルマリン漬けが無いのが不思議なくらい怪しいです。あと、大釜はどこですか?
「これ…、というと?」
熊さん、こういうとこ鈍いです。いや、もしかしてこういう部屋って常識だったりするんですか?私が無知なだけですか?
「あぁ…この部屋ですか?綺麗にしているつもりなのですが……」
そっち違う。そういう意味違う。
「いや、なんかナイフが沢山あったり、斧とか鞭とか……」
「あぁ!師匠の真似事というか……創物を少々……」
なにその、ご趣味は?裁縫を少々。見たいな照れた言い方。創物ってなんですか。あと、師匠って?
「地に属するものは生成や製造と合性がいいらしく、学園にいた時に見習いのようなことをさせて貰っていて……これなんかは、中々良くできていると思うのですが」
なんていいつつ、立ち上がり机に並べられていたナイフの一本を掴みます。そのナイフは他のナイフよりも装飾が地味ですが、言い換えれば洗練されている印象です。刃の柄に近い部分に赤い宝石が埋め込まれているのが印象的です。
「近属性なので、私には何とか扱えるのですが……」
熊さんがそのナイフをシュッと一振りします。するとナイフから小さな炎が迸りました。
すっげー!!
炎のナイフじゃん!炎のナイフ!
はっ!感動している場合じゃないです!なんつう危ないもん持ってるんだこの人は!
「あぁ、リリーは混色ですから、貴女にも扱えるかもしれませんね」
いや、にこやかに渡そうとされても。そりゃ、勇者に憧れていた私ですが、実際刃物の扱いは包丁ぐらいしか経験が無くてですね……
なんて思いつつ、しっかり受け取ってしまいます。
「私、魔法とかさっぱりなんですけど……」
なんて言いつつ、やっぱり振ってみてしまいます。
これ、人間の性ですよね!ですが、いくらブンブン振っても何も出ません。
「あぁ、そのままでは炎は出ませんよ。貴女を識別させないといけませんから。ナイフに嵌められた魔宝石に火の十位精霊が宿っているんです。術者の識別詠唱を唱えれば、貴女を主としますから……」
「ほ、ほほう?」
なんだか、ワクワクとハラハラが同居中です。
「私が詠唱しますので、それが終わったら≪ニオン イスカ アクォーザ≫と唱えて下さい」
「は、はい!」
ニオン イスカ アクォーザ、ニオン イスカ アクォーザ、ニオン イスカ アクォーザ……
心の中で、何度も繰り返します。
「グラフォーオ イ ガルタレフォーティ…… ミーレリリー マプレーシュ リベニー」
ほぁ!なんか超魔法って感じです!詠唱ですよ、詠唱!
でも、残念なことに、シュワンとかならないのね。はたから見ると失敗しました見たいな。っと、熊さんがこちらをチラ見です。今ですね!
「ニオン イスカ アクォーザ……!」
調子こいて、なんかかっこよさげに唱えてみました。
「…………?」
特に何も起こりません。何、このガッカリ感。
「……振ってみてください」
熊さんに促されて、何気なくナイフを振ってみます。と、ボワッっとさっき熊さんが振ったときよりも大きな炎が迸りました。ちょっとびっくり!ついでに言うと、熊さんもびっくり顔です。
「…………、リリーは髪の色が薄めなので、魔力は低いと思っていたのですが……やはり赤の混じらない私よりかは合性がいいようですね」
「お、おぉ……」
なんだか言葉が出ません。
「鞘を作っておきましょうか。貴女の護身用に丁度いいでしょう」
「え?これ貰っていいんですか?魔法の道具って高いんですよね?」
「あぁ、その刃に使っている鉄も魔宝石も私が見つけて来たものですし、ナイフ自体、私が作ったものですから、そんなに費用はかかっていませんよ」
……そういえば、創物をしてるとか言ってたっけ。一瞬で忘れるこの鳥頭。って鳥さんに失礼ですね。
「でも、火が出ちゃうのは……もしも飛び火して火事になったりするとちょっと……」
って、襲われるの前提で話してるのもどうかと思うけど!
「え?あ、あぁ……そうですね……」
熊さんが考え込みます。
「それでしたら、こちらはどうでしょう?」
と、熊さんがもう一本のナイフをちょいっと振ります。と、ピピッと水が滴り落ちました。
「これ……なんの役に立つんですか?」
思わずそう言っちゃったのはしょうがないと思うんですよね。
「あ~……、喉が渇いたとき…でしょうか?リリーが持てば今のよりも量は出るでしょうし……」
まぁ、確かにね……窮地に陥った!喉がカラカラです!大変なんです!って時に役に立つでしょうね。
「じゃ、じゃあそちらを貰います」
「はい」
熊さんが詠唱を唱え、私もさっきと同じ言葉を繰り返し……
リリーは水のナイフを手に入れた!
ピロリン!
「まぁ、そういうわけですので、こちらは危険なものもありますので、手を振れないようにして貰いたいのですが、こちら側の工具類でしたら、好きに使ってください」
「ありがとうございます」
あの後、色々と熊さんが作ったと言う武器やら器具やらを見せてもらい、熊さんが落ち着きを取り戻した所で、私が使うのに便利そうな工具を揃えて貰いました。そうそう、なんか作ったものを説明するときの熊さんは、とても嬉々としていました。あれですね、本来の熊さんは職人系なんですね。
「で~、熊さんがあそこに隠したのはなんだったんです?」
危険なものはあるけれど触れなければ大丈夫、この部屋は別段怪しくないと言うことが理解出来、安心した所で私の生来の好奇心が頭を出します。
「あー……あれは、ほら……」
熊さんが両手の指をあわせ、親指同士をトントンします。
「危険物ですか?」
下から覗き込むようにいぶかしんだ目を向けてみます。まぁ、何もしなくても下から熊さんを見ることになるんですけどね。
「いえ!決して危険なものではありません!あの…あれです……別荘で約束した……」
ふぉぅ!ワイルドダンディなイケメンの頬が赤く染まります!ヤバイ破壊力です!面白がって突くんじゃなかったです!
「あっ…そうですか……」
そんなこともあったと、こちらもなんだか赤くなってしまいます。
「その…少し細工を施そうかと思いまして……」
熊さんの視線がソワソワと地面を彷徨います。この、見た目と行動が一致してない感じ、激しく萌えます。ほんと、やめてほしいです。もっとやれ!
「あぁ…そうですか。えっとぉ……じゃあ、楽しみにしてますね」
「いや…期待されると……」
いつも自信なさ気ですが、容姿は文句無しでしたし、頂いたナイフの柄部分の装飾も熊さんお手製ということなので、自信持っていいと思うんですよね!むしろ自信を持ってもらいたいです!すっごいんですから!ここで、期待してるって言うと、萎縮しちゃうのかもしれませんが、あえて言わせて頂きます!
「いえ、期待してます!熊さんは凄いです!だから、楽しみに待ってます!」
「あわわわわ」
だから、そのダンディボイスでリアルにあわわわとか言わないで!萌えちゃうから!
「その……」
ちょっと青ざめた顔の熊さん。
「貴女の為に、頑張りますね」
柔らかい笑みに、強い力を宿した瞳で、そう約束してくれました。
「はいっ!」




