038 怪しいお部屋の怪しい熊さん。
一瞬、グロイかもしれない。
「………………」
「………………」
こういう時に限って誰も来ないよ!!
「あ~……」
「…はい……?」
いや、何も考えてなかったですけどね。なんか口から出ちゃっただけですけどね?
「あ、いえ~……」
助けて神様!って、願っても何も起こらないこと知ってる。私知ってる!どうしよう!どうしようかなっ!
「あっ!髪の毛!」
急に散らばった茶色のふわふわ毛がフラッシュバックし、私は思わず大きな声を出します。
「え?あぁ、随分と長くなっていたのでついでに切って貰いました」
「凄くお似合いだと思います!ってそうじゃなくてですね、切った髪の毛捨ててないですか!?」
そうよ、そうそう!ごめんねエレースちゃん、イケメンに気をとられてうっかり毛のことを忘れていました!
「あぁ……、貴女が来た時に下さいと言っていたので、一応残してはありますが……」
熊さんが訝しんだ目を向けます。そりゃそうだよね。切った毛をくれって何に使う気だこいつ?って思うよね。髪だし。髪だしね!
「あのですね、『カツラ』を作りたいんですよ!」
「かつら?」
「えぇ、何で気付かなかったのかなーって思ったんですよ!こっちにはカツラって文化が無くて、みんな毛も染めないじゃないですか?」
「染める?……何を染めるのですか?」
「もちろん髪の毛ですよ!って、違くてですね、私は染料とかは全くわからないから、染めるのは置いといてください!」
「は、はい」
私の剣幕に押されて、熊さんが若干引き気味に頷きます。
「カツラってのは、人の毛とか人工毛とかで髪を作……?ん?えっと、頭に被せる髪を作っ……んん?」
思わず身振り手振りしつつ説明しようとしたのですが、なんかうまく伝えられそうにありません。当たり前と思っているものを説明するのは意外と難しいです。
「…………」
熊さんが腕を組んで鼻の下を右手でサスサスします。考え事をしている時の熊さんの癖なのですが、ヒゲが無くなっているからか、違和感があるようで、ちょこっとサスサスして止まります。
「つまり、布地か何かに人毛を編み込むかして人の頭に被せることが出来るようにしたもの、頭髪の代用品ということでしょうか?」
「そうそう!そうです!エレースちゃんは目の色が茶色だし、茶髪のカツラを被ったら誰もエレースちゃんがヴァルナトだとは気付かないと思うんですよね!ほら、睫毛は黒だけど前髪パッツンにすればいいんだし!」
「確かに……それはとてもいいかもしれませんね……」
「でしょう!?」
「……そういうことなら、後ろ髪を残さないで切ってしまえば良かったですね」
少し、熊さんが残念そうに眉尻を下げます。
「あ、いやいや、貴族なんですから、そのくらいの長さ無いと駄目ですよ。大丈夫です。子供はみんな髪を短めにするものだし、多分あれだけあったら足りると思います!」
無駄に布地をふんだんに使ったり、手入れが大変だけど髪を長く伸ばしたり、どこの世界も金持ちがやることなんて一緒ですよね。だからこちらの世界でも貴族女性はパニエ使ったドレスだし、男性は…ほら、なんだっけ、ジュ…ジュ……ジュストコール!なわけですよ!まぁ、私が広めちゃったんだけどさ!!
いやぁ、ぶきっちょだけど高校出たら服飾の学校に行こうと思ってたので、何気に勉強始めた所だったんですよね、過去世。思い出せてよかった……って、話ずれたけど、だから貴族の方々は男性であっても結える程度には髪を伸ばすものなんです。うちのパパンですら髪は長めにしてましたからね。だからいくら熊さんが変人って言われていようともそれ以上短くしちゃうのは流石に…と思うわけです。
「しかし、どうやって作るのでしょうか?」
あ、あぁー……
「なんとなーくはわかるんですけど……」
「そうですか……」
二人してちょっと沈んでしまいます。
「色々、方法を考えてみます。ファーリン…には頼めませんね」
「そうですねぇ……」
なんかこの世界、髪の毛と瞳を物凄い特別視してるんですよね。もちろん髪は長くなると散髪しますが、切った毛は焼くものだし、ちょっとグロテスクな話、人が亡くなると基本土葬なんですが瞳だけ取り出して焼くんですよ。まぁ、地方に行くと違うっていう話も聞きましたが、中央と言われている一番大きな大陸の都市部だとそういう風習なんですよね。
しかし、これでもファッション界で生きようと思った身!
「私がなんとか頑張ってみます!」
「そうですか?」
「えぇ!熊さんは色々忙しいし、私も出来ることをやりたいと思ってましたので!」
「……わかりました。よろしくお願いします」
熊さんがにっこり笑います。破壊力抜群です。エレースちゃんのことを考えていたからか、熊さんの顔を見ていても平気だったのに、ここに来てまた心臓がおかしな動き方し出しましたよ!
「お、お任せ下さい!」
早速、貰った熊さんの髪の毛です。熊さんはちょこっとだけ用事があるとかで、先ほど別れました。自室で、髪の毛片手に考えます。
なんなんだろうな……切られた髪の毛って、よくわからないけど不気味なのは本当に、なんなんだろうな……?熊さんの茶髪なふわふわした手触りのいい毛なのにな……?
ま、まぁ、そんなことはどうでもいいや。ヒゲを剃った後に髪を切ったと言うことで、貰った束にヒゲは混じってないそうです。でもこれ、長さ順に束ね直さないとだよね?なんか、大変そうだなぁ……作業するのもこの部屋だよねぇ?メイドさんたちに見られるのも不味いし……
なんて髪の毛を触りつつ考えていると、ノック音がしてセンティエさんが入室の許可を願い出ます。もちろんオーケーして入ってもらうと、作業に適した部屋があるので熊さんにお連れしてくださいと言われたとの事。これ幸いと着いて行きます。
「旦那様の研究室なのですが、様々な工具が揃っておりますので、ご自由にお使い下さいとのことです」
そう言いつつ、センティエさんが蝋燭に火を灯していきます。
案内された部屋は、窓が無く、壁も石壁でファンタジーモノに出てくる怪しい部屋って感じ満載です。そもそも、なんか奥まったとこまで行って、ポツンとあるドアを鍵で開けたら地下に続く階段。その階段を降りると今度は重厚なドアがあって、なんか複雑そうな鍵で開けたらこの部屋ですからね。壁には良くわからない魔法陣っぽい柄が描かれたタペストリーと、剣が数本飾られているし、本棚には魔法書っぽい難しそうな分厚い本がずらり。何故か溶接炉とかあるんですけど……。ん?おいおい、隅に斧とか槍とか弓矢に…鞭まであるよ!?机の上には綺麗に並べられたナイフが十本以上……。熊さんここで何してるの……?
「こちらの道具が役に立つかと思います。旦那様もすぐにいらっしゃると言うことですので、詳しい説明は旦那様からお聞き下さい」
「あ…ありがとうございます」
なんか、部屋の雰囲気に気圧されてしまいました。
と、後ろからギィィィィっと不気味な音を立てて、重厚なドアが開く音です。飛び上がって驚いたのは言うまでもありません。
「あぁ、もう来ていたんですね」
にこやかな顔で熊さんです。でも、蝋燭の頼りない明かりも相俟って、なんか怖いんですけど!美形の笑顔も場所に依っては恐ろしく感じるんですね!確実に部屋の空気に呑まれてます!
「……あぁ!」
「ふえっ!?」
突然熊さんが大声をあげるので、恥ずかしいぐらいにビビってしまいました。しかし熊さんには見られていなかったらしく、と言うか、私を素通りして机に向かうと焦って机の上にあった何かを隠します。
「な、なんですか!?」
「あ~……いえ、いえいえ、なんでもないですから気にしないで下さい」
背に隠した何かを私に見せないようににじりにじり移動すると、背中越しで器用に小箱を開け、隠した何かを仕舞いこみます。しかも鍵を取り出して閉めてしまいます。
ちょ、ちょ、なにー!?怪しいモノ!?怪しいモノ!?隠されるとなんか怖いからやめてぇー!
ワザとダラダラさせています。
今後怒涛の展開に!なると見せかけてダラダラします。




