002 お嬢様の実態です。
2013/04/28 修正。
言葉を直したりなんかしてます。
この世界は、神様の夢で出来ているそうです。
寝物語に母に毎夜聞かされた御伽噺によると、私が転生する前に居た世界こそが、神の現であり、その現を創造された神が、眠りの中で見る世界こそが、転生した私が生きる世界――白の世界――なのでございます。
はい?プロローグと随分話し方が違う?
ふふっ、私はヴァーラント領イルランを領土に持つ貴族、コルタ・シェグ・ボルフォーレ・イルランの娘、ミーレリリー・ボルフォーレ・イルラン。
行儀正しく、丁寧な言葉遣いは当たり前の……当たり前の……
ぶっふぉ!
無理がありました。ごめんなさい。
まぁね、高校生のときにうっかり親友庇って(たぶん)死んで、気がついたらオギャーオギャーいいながら、ぼやける視界で中世ヨーロッパですか?っていう服装の方々を見て、状況を確認しつつもお嬢様として育てられ(たぶん)死んだ年の十六歳になりましたから、長年飼っている猫は見事に私から剥がれませんよ。猫被るの得意ですよ。
得意なのですが、独白までお嬢様でいられるかっつの。
この世界が神様の夢だっつうのは、まぁ横におくことにして、只今私は窒息死寸前です。
「やめっ…もう無理っ……」
「無理ではありません!ほらっ!息吐いて!」
母であるウーラが右足で私の背中を踏みつけつつ、紐をこれでもかと引っ張っています。
そう、コルセットである。コルセットである!
ちなみに私が抵抗するからという理由で父コルタに両肩を押さえ込まれ、床に張り付けられている。それでも親か!
「はい!ヒーヒー、フー!」
「ひーっ」
思いっきり息を吸い込もうとすると、母の踏み付けが強くなりました。
「ウグッ!」
「吸わない!」
「吸わせ…ろぉ……」
「貴女が言ったのでしょうっ!ヒーヒーフーは吐いて吐いて吐いてだと!」
確かに言った。私が生まれた時の話を母がしていて、産む時は大変だった、呼吸困難になるんじゃないかと思った。的なくだりで、現ではヒーヒーフーって呼吸法があって、実はみんな吸って吸って吐いてだと思ってるけど、あれ吐いて吐いて吐いてなんだぜーと自信満々に話しました。
感心して欲しくて披露したトリビアだったのですが、そもそも呼吸法すら無く、誤認する要素すらなかった訳だから、「そうなの」で済まされたわけですよ。
あ、言い忘れましたが私の両親は私が転生チートだと言う事を知っています。てか、村中の人が知ってます。
何故かって?この神様の夢である白の世界には私のように転生チートする人がごく稀にいるからですよ。そういう人のことを「現示者」と言って、政府から手厚い保障を受ける代わりに現の知識を提供するのですよ。でも私みたいに役立つ知識を持ってない場合は別に何されるわけも無く暮らしていくのですよ。ちくしょう!無駄転生チートちくしょう!
「死ぬ…お母様……死ぬ……」
「この程度で死にません!」
「お父様…お母様を…とめっ……」
「うん、大変だねリリー」
なにが「大変だね」だ。お父様は天然だ!絶対天然だ!話が通じない時がある!
「はい、リリー!吐いて!!」
その言葉とともに、お母様がどこからその怪力がと言いたくなるほどの力で紐を締め上げた。
「ふぐぅっ……!!!」
コルセットなんて…世間に広めるんじゃなかった……
バタリ。
死ぬかと、思った……
いや、今も若干死に掛けている気がする。
なんせ、ウエストが十五センチ細くなっております。 脂肪だらけのお腹なら、十五センチだろうとそこまで苦しくならないでしょう。むしろ肉が乳に逃げてバストアップでしょう。
ですが!ですが!私は内臓脂肪は殆ど無いのよ多分!
「内臓でちゃうよ……」
「その程度で出ません」
お母様が汗を拭き拭き、ドレスの準備をしております。
ドレスしかり、私を絶賛苦しめ中のコルセットしかり、実は私が広めてしまったものだったり……
私が生まれた当初、ご婦人方の盛装はもっと地味でした。ワンピースが基本で、装飾品だけがゴテゴテとしているそのスタイルに、なんだか不満を持った私が持ち前の絵力でベル○ラの世界を描いてしまったのが全ての間違い。
まさか、爆発的に普及して私をも苦しめるようになるとは……
「さ、着替えてちょうだいな」
あぁ、お母様は今日も少女のようなお姿とお声です。一緒に歩くと私が姉だと勘違いされます。
「って、ママン、これちょっくら胸が開きすぎですよ?」
え?猫被ってない?いえいえ、被ってます被ってます。ちょっと自宅とか、村とかに居る時は散歩に行っちゃうだけですよ。猫が。
そうそう、父上は私がドレスに着替えるからって部屋から出て行っています。わけがわかりません。だって、どう考えてもコルセット巻く前までのほうがよっぽど見てはいけない姿のはずだろう。
ん?話そらしてないですよ?むしろ今もゆるく敬語で丁寧ではないですか!
「だってほら、リリーの命卵は自慢して歩かなきゃね」
おっと説明が必要な用語が出てきました。命卵―めいらん―です。
これは、まんま命の卵でございます。男の人が一個、女の人も一個。二つを合わせて女の人のほうが飲み込むとなんと妊娠するという不可思議卵。二個ずつ飲んでも双子は生まれない。男性が飲んでも駄目。同性同士の命卵でも駄目です。必ず一組の男女、必ず女性が飲み込まないといけません。
生まれてきた子供は大体平均二個の命卵を手に握っています。命卵の数がその人の徳の高さと言われていて、平均は二個。徳が低いと一個。三個の命卵持ちは男女共にモテます。
ですが、基本的に婚姻は命卵の数が一緒の人とします。だからモテ男はモテ女と結婚するわけですね。
但しこの命卵、男のと女のであれば、飲み手の女性は誰でもかまわないと言う恐ろしいもの。なので、闇取引で命卵が出たりもします。大体が一個しか命卵が持てなかった金持ちが、私いい人ですよーをアピる為に、今日食べるものにすら困っている人たちから買い上げるわけですね。DNA的なものが髪の色なので、大抵同じ髪色の人の命卵を買う事になるそうです。
もしくはお子さんを亡くされ、命卵も尽きたご夫婦がセットで買ったり……
ちなみに私は四個も持ってます!
逆にモテない!絶望です……
何故って?四個の命卵持ちなんて、見たこと無いよ…居ないよ……皆さん、私の命卵の数に気づいた瞬間から、遠巻きですよ?神様の使いでも見てるかのような目でチラチラ見られますよ?
ちなみに命卵は無くすと生涯子供が出来なくなるので(まぁ実は方法あるのですが、それはまたいずれ)透明なカプセルに入れられ継ぎ目の無いチェーンでペンダントにします。もちろん頭が通らない程度の短さなので、外れることはありません。
いっそ一個売っぱらおうかな……
「……りー?リリー?」
「はっ!?」
うっかり打ちひしがれてしまいました。
「とにかく時間もないのだから、着て頂戴」
「むむぅ……」
とりあえず、着替えることにしよう。
ドレスはなけなしの財産で購入したシルク生地をお母様がチクチク手編みしたものです。
えぇ、うちは貧乏ですから。
貧乏なんだからお社交なんてしなきゃいいのに。あ、いや、普段はしてません。うちはただの男爵の上に貧乏なので、お呼ばれしてもさらりとお断りしているのです。
でもねー、私も十六になったからって一回ぐらい行ってみよーって、そう言うんだよー
めんどくさい……
貴族の貴の字も無いくせにな!だって、普段はお父様もお母様も私も畑耕してるからね。
ヴァーラント領イルランなのに、ヴァーラントなんて名前に入ってないもんね!イルランだもんね!正確にはうちは、もともとイルラン村一帯を治めていた貴族で、でも色々あって結構昔にヴァーラント卿に土地取られちゃったんだけど、イルラン村だけ返して貰って「ヴァーラント領」の「イルラン村」を収める唯の土地持ち村長的な枠になったわけですね。
もそもそ着ているうちにお母様がテキパキ私の髪を弄りだす。けっこうワサワサ動いてるのに、綺麗に纏めていくのには関心するなぁ。
背中のホックを残して、ヒールを履く。手袋を嵌めていると髪を纏めたらしい母がホックを留めてくれました。
鏡で見てみると自分でも中々です。顔は並だけど、まぁ馬子にも衣装ということにしておきましょう。
髪が薄紫なので、淡めの青色のドレス。ピンク系は似合いません。えぇ、似合いません。髪は上には纏めず(今の主流なんですがね、流石にお母様だけでは無理でしょう)右の髪を編み上げて、左に流す。かえってお上品?
装飾品は特につけません。そもそも、指輪は魔法道具と見分けがつかないことが多いので、パーティーなどでは結婚指輪以外は忌避されます。腕輪もです。ネックレスは命卵を使い切った奥様方がつけるものですし、ピアスは穴開けてないのでつけません。
地味か!まぁ、花の髪飾りがお上品なので、多分問題ありません。
私の姿を見てお母様が満足げに頷きます。
「うん、まぁ恥は掻くだろうけどこれでいいでしょう」
私、恥掻くんだ!?




