037 感嘆符の多用事件。
と、熊さんが振り向いた瞬間、閃きが頭から消えてしまいました。
イ ケ メ ン キ タ ー !
で、私の頭は埋め尽くされています。そうです、埋め尽くされてて頭の中が大混乱まで巻き起こしています。一瞬このイケメンだれ?とか思ったぐらいです。まさにグラフィーオ・リフ・フェイ・アステリグライ・リヒティエリュート侯と言う容貌です。長い名前がお似合いです!って……一旦冷静になって、熊さんの容姿をお伝えします。
現世間一般で言われるイケメンではないのかもしれません。熊さんはソース顔って奴です。実はキリリとしていたらしい切れ長の目。でも釣りあがっている訳ではないです。鼻筋はスッと通った鷲鼻、唇は薄すぎず厚すぎず。何より、各パーツの配置が完璧です。凛々しいお顔つきです!二十八歳ですが、正直もっと年上に見えます。私的に三十代後半な見た目な気がしないでもないです!おじさま素敵!あ、今、搔き上げていたらしい髪がさらりと額に落ちました!髪が降りると年相応な気もします!お兄様カッコイイ!!結局冷静になれてないな私!
私が混乱している間に、熊さんと理容師さんが何かを話し、「それでは、私はこれにて」と、理容師さんが退室します。
すると、凛々しかった顔付きがふにゃっと優しい顔に変わります。へたれ熊さん化すると、ソース顔なのに、こんなに柔らかい顔になるんですね!こっちドストライクだー!!
やばい、心臓がドックンドックン鳴ってる。壊れる壊れる。
「リリー」
いやぁーん!そんなベルベッド・ボイスで嬉しそうに微笑まないでぇえええええ!!!!てか、結婚式でヒゲ剃ってなくてほんと良かったよ!結婚式でこの顔見てたら私どうなっちゃってたんだか!!
私の内なる悶えに気付く様子は無く、熊さんはヒゲの無くなった頬をポリポリ搔いて、ぼそりと呟きます。
「あの…どうでしょう……?」
あ、ちょ、その顔ヤバイ。テラモエスってこういう時に使うんだね!ヤバイ!ちょっとほんと、無理だ私!!!
私は顔を両手で塞ぐと、一目散に扉に向かいます。
指に走った衝撃は、激痛というやつです。なのにめげずに顔を覆っていた手を離すという愚行を犯し、全力で走ろうとした私はオデコで驚きの大音量を発生させ、真っ暗な世界に沈んでしまったのです……
ほんと、私バカ……
「…うぶ…ですか……?リリー…、リリー……」
あぁ…暗闇に響くダンディなボイス……声で愛撫されている心境になりますね……って、恥ずかしいこと考えたな今……
「リリー?」
はぅ…暖かい揺り篭の中、この声に守られていつまでも寝ていたい……このイイ声をいつまでも聞いていたいです……
「やはり、医者を……」
「起きました!今起きました!大丈夫です!」
って、何が大丈夫なんだ?なんて思いつつ焦って起き上がります。
「あぁ…よかった……」
と、目の前でなんか凄い好みのイケメンが心底安心したような面で私を見つめているではありませんか!
「ぎゃいやぁああ!」
思わず布団を被り、ベッドに潜り込みます。その瞬間、布が額に触れて私は頭から背骨を通り抜ける激痛にもう一度叫び声を上げました。
「いっ……ひゃぁい!!!」
そうだ!私なんでか頭打ったんだった!なんでだ!?
「リっ!リリー!?」
あぁ、なんだ、この声は熊さんだ。つまり今、目の前に居たイケメンは熊さんだ。そうだ、熊さんだった。そうそう、記憶障害とか私相当思いっきり頭をドアに打ち付けたんだな。全く、阿呆なんだから。なんて思いつつ、布団から顔を出します。そこにはなんか凄い好みのイケメンです。
「うひょう!」
うっかりもう一度布団を被ります。今度は理性が働いておでこを庇いながらです。
「……リリー…」
熊さんの切なそうな声が聞こえます。あぁぁぁ、わかる、わかってる!熊さん的には私が顔を見て逃げ出そうとしたり、顔を見るたびに隠れるから、気に入らなかったんじゃないかとか幻滅された嫌われたとかそんな気持ちになってるんだろうことはわかる!でも、今は自分のことで一杯一杯なのよ!
「その…私は……あの……」
「ちょっと待って!落ち込まないで!」
物凄い落ち込んだ声に、私は布団の中から、慌てて熊さんに呼びかけます。
「とりあえず深呼吸させてください!」
「……はい」
スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スーハー、スー……やりすぎ?
私は意を決して布団から顔を出して上体を起こします。
閉じていた目を薄っすら開いて熊さんを覗き見。あぁ、駄目だ、イケメンだ。しかも凄い青ざめた顔したイケメンだ。徐々に目を開いてちゃんと見ます。なんかイケメンが今にも泣きそうになってる。あれー、なんか嗜虐心が沸くよ?イジメたくなる顔してるよ?私、人をいじめる趣味は無かったはずなんですけど……
「額は…大丈夫ですか……?」
視線を下に落とした熊さんが、ぼそりと呟くように声を掛けてきます。
「額は痛いけど大丈夫です。でもちょっと、頭が駄目かもしれません」
「っ!医者をっ!!」
「いやいや、そう言う意味じゃないから大丈夫です!!」
焦り、椅子から立ち上がる熊さんに必死に声をかけます。失言でした!ちょっと脳内が爆発しちゃったんで色んな思考がとっ散らかってるんですわ!冷静になろう。冷静になるんだ私!
「えっとですね……」
熊さんの顔は見ることが出来ません。若干目を逸らしつつ話を進めます。多分思いっきりしょんぼり顔になっているだろうけど、ほんと、すまんです。
「熊さんがあまりに……」
……ふぉぉぉぉ!これを言葉にするのは勇気がいるよ!普段からさらっと可愛いとか綺麗とか美人とかカッコいいとか声に出して言えちゃう人種が羨ましいよ!
「…あ、……あまりにかっこいいからびっくりしちゃって!!」
誰か褒めて!言い切った私を褒めてあげてください!!
「ぁ……」
掠れたセクシーボイスがしぃんとした部屋に響きます。
「ぁりがトぅゴザいマす」
うわぁ、上擦ったうえに発音がはちゃめちゃになってるよー!今の言葉を発した瞬間の熊さんを見たかった気がする!見たかった気がするけど見たら私、萌え死んじゃう気がしたから見なかった!
駄目だ、もう。本当に、頑張って落ち着こう。うん、感嘆符だらけだよさっきから……
「……その…お気に召していただけた…?のなら…いいのですが……」
お気に召したどころか、好みすぎて直視できなくなってしまいました。これ実は非常に困った事態ですよ?
「そりゃぁもう、全然大丈夫ですよ!」
互いに顔を逸らしたままの状態なので、なんか変な構図になっています。
「それは…安心しました……」
「よかったですね……」
良かったってなんだよ良かったって!
「………………」
「………………」
この空気…誰か何とかして!
今こそ求む!エレースちゃん!




