028 犬猿の仲。犬劣勢。
何気に五日ほど経ちました。
「現では、お父様のことをパパ、お母様のことをママって呼ぶんだよ」とエレースちゃんに教えたところ、フィオ様のことを「フィオパパ」一昨日ついに私の事を「リリママ」と呼んでくれました。一緒に庭で花冠を作ったり、追いかけっこをしたりと構いまくったのが良かったみたいです!私の欲望を満たしただけの気もしますが……
ただですね、センティエさん、アルシラさん、アーノンさん以外の使用人さんたちがいると、フィオ様のことは「おとうちゃま」と呼ぶのに、私の事は「おねえちゃま」と呼びます。なんでだろう、ちょっと何にかはわからないけど負けた気分。
今日は、事前にレーテミーナ様からお手紙を貰っていて、遊びに来るらしいので、三人で応接間にいたります。
「楽しみですねぇ」
エレースちゃんを抱っこ(かにばさみ抱っこで私の胸に顔を埋めているのが好きらしいです)をしたまま私はお茶を飲んでいます。コアラ?は、背中か。まるでおサルの親子のようですね。ついでに言うと、何気に胸を揉まれています。エレースちゃんは胸を揉むのが好きらしいです。だからいつも熊さんはこちらを見ないように顔を背けています。
「だれくるの?」
おっと、エレースちゃんに説明するのを忘れていました。
「えっとねぇ……」
と、私が言葉を発した矢先、大きな窓がガタガタと揺れます。
え?なんかすっごいデジャブを感じるんだけど……
「まさか……」
熊さんが立ち上がり、私たちを背に窓を見上げ身構えます。私もしっかりエレースちゃんを抱きしめ窓を凝視です。あんなに叱ったのに鳥のやろうまた同じことしようってのか!
一際強く窓が揺れた瞬間、大きな音が響き渡りました。
ばんっ!
……ん?
「…ノン アコー……」
熊さんの詠唱もぴたりと止まります。
「なにしてんのさ?ボクはこっちだよ?」
声がした方を振り向くと、鳥さんが開け放ったらしい扉の前にいました。そこに、走ってきたのでしょう、息切れしつつレーテミーナ様が追いつきます。
「ごめっ…なさい……、ちゃんと迎えを待つように言ったのっ…ですけれど……」
「だって、よく知っている家なのに、わざわざ待つ必要なんてないだろう?」
どうやら、勝手知ったる他人の家だからと、普通やるべき礼儀を鳥さんの独断で省いて来たようです。
「窓がガタガタ揺れてたのは……?ただの強風?」
「いえ、風の魔力を感じましたが……」
「あぁ、それね。先触れってやつ?来たよってわかるようにかな」
ほんと、鳥、こういう奴だった。五日で忘れてたです。
「ウォーク……」
熊さんが頭を抱えています。私も気持ちとしては一緒です。
「ごめんなさいっ!本当にわたくしが……」
「いえいえ、レーテミーナ様のせいじゃないですよ。鳥が悪いんです鳥が」
ちょっと、鳥さんに対して容赦がなくなってますが、これはもうしょうがないです。
「鳥とは失礼だね。まぁボクは人じゃないから、この人とか言われてもおかしいんだけど。せめて鳥って言ってよ」
そっち!?
いや、なんか突っ込むのも疲れるので、ちょっとスルーでいかせて下さい。
とりあえず事態を良くわかっていないエレースちゃんを降ろします。と、鳥さんがズカズカと中に入り、レーテミーナ様もオロオロそれに続きました。
「……ようこそ、ウォーク、レーテミーナ嬢」
熊さんが体裁を取り繕って、一応挨拶をします。
「うん」
と、鳥さん。
「お久しぶりですわ、グラフィーオ様、ミーレリリー様……」
ご令嬢らしく、挨拶をしてくれたレーテミーナ様が私の前にちょこんと立っているエレースちゃんを見た瞬間硬直しました。
「ひっ!」
おあ?
「お…お久しぶりね……エレース……」
「きょうのおきゃくちゃま、レーテミーナなの?」
なんかちょっと引き気味のレーテミーナ様と、嫌そうな声をだすエレースちゃん。流石に顔見知りだろうとは思っていましたが、なんか遺恨がありそうです。あ、奥様の座を取り合った仲か!そしてそこを私が掻っ攫ったんでしたね!
「あぁ、エレースじゃないか!結構大きくなったんだね」
つかつかと歩み寄った鳥さんが、エレースちゃんの頭を撫でようとして、華麗に避けられます。エレースちゃんは何気に逃げスキルが高いです。鬼ごっことか、心臓破れるんじゃないかって思いました。
「あれ?ボク嫌われてる?」
「いつもガシャーンしてフィオパパこまらせるもの!」
おい、エレースちゃんの前でもやってたのかこいつ。
「だから、あれはボクたちの約束だったんだって」
「でもパパいつもあとちまちこまってたもの!」
「後始末でしょ?」
「あとちまつ!」
「あーとーしーまーつ」
「あとちっ…あとちまっ……もう!オークきらい!」
「ボクはウォーク、う、おー、く」
「いいの!」
「ほんと君って舌っ足らずだよね」
「うるちゃいの!」
なんだ、子供の喧嘩が始まってるぞ。
「あのですねぇ、エレースちゃんはまだ四歳なんですから」
とか言いつつ、エレースちゃんに両手を伸ばすと、意図を察して私の首元に抱きつきます。そのまま背中とお尻を支えて抱き上げ、ポンポンと背中を叩くと、エレースちゃんは鳥さんに向き直り、べーっと舌を出しました。
「へぇ、仲良くなったんだね」
「リリママはエレースのリリママだもん!」
うん、その説明でわかる人はあまり居ないと思うな!すごく嬉しいけど!
「ふ~ん、ママになったんだ?じゃあ、グラフがパパってわけ?」
おや?これは現語のはずなのになんで?
「フィオちゃまはエレースのおとうちゃま!」
「そ、おめでとうグラフ」
「えぇ、ありがとうございます」
いいや、今の疑問は置いてけ堀にしよう。話しの腰折るのもなんだし。
「とりあえず、座りませんか。お茶入れますから」
「まぁ、それならわたくしが入れますわ!」
レーテミーナ様のわんこっぷりは健在だったようです。
「リリママはエレースのリリママなのよ!」
「わたくしはっ…ミーレリリー様の……その……」
レーテミーナ様がこちらをチラチラと見ます。
「お友達ですねぇ」
「そうですわ!お友達ですのよ!」
「エレースなんてリリーちゃまがママだもの!」
「うっ、羨ましくなんてありませんわ!わたくしなんてお友達ですもの!」
なんか、変な喧嘩が始まってます。
「おともだちー?」
すごいです、大人顔負けの勘繰りです!
「ミーレリリー様が仰ってっ!」
「ミーレリリーちゃまなのに?」
あぁ、呼び方ですね?
「そういえば、いつまでも他人行儀な呼び方じゃあ駄目ですよね。レーテ様?」
おっと、ちょっとエレースちゃんのご機嫌を損ねたようです。
「ミーレ様っ……!」
おふぅ、綺麗な顔がまたお祈りポーズでキラキラ攻撃かましてくるよ……
「でもエレースはリリママだもんねー」
なんて言いながら、私の胸元に顔をポフポフします。これ、流石に人が居るときにやらないように教えないとですかね。もしかして、私のせいでママ=おっぱいになってますか?
「リリー様!私もリリー様とお呼びしてもよろしくて!?」
いや、子供相手にそこまでムキにならんでもいいんじゃないでしょうか。
「ミーナ、なにやってんのさ」
おや?なんか熊さんとボソボソ話しをしていた鳥さん乱入です。
「だってっ…!」
「家族以外でミーナをミーナって呼んでいいのはボクだけなんだからね!」
「……ウォークったら……」
おっと、バカップル発動ですか。離れていた五日の間に、なんか物凄いレーテミーナ様が篭絡されてますね。
で?この変な空気どうすればいいの?




