025 ラシャシスは永遠の輝き。
目覚めると、熊さんが居ませんでした。
とりあえず、着替えてダイニングに下りると、鳥さんがレーテミーナ様にあーんをしようとして断られているのに遭遇です。出るに出られなくて困ります。あの騒ぎはなんだったんですかね、本当に。バカップルありがとうございます。
扉で尻隠して頭を出していると、鳥さんがちらりとこちらに視線を寄越します。
「ミーナ、これあーんしてくれたら、良い事教えてあげるよ」
「な、何よいい事って」
「だから、あーん」
「…………」
展開が予想できます。ここで鳥さんの思惑を裏切って出て行くと後でどうなるのか良くわからないので、大人しく待つことにしましょう。
「あ~んっ」
語尾にあからさまなハートマークですね。良くあんなこと出来るな。ちょっと熊さんにあーんされているところを想像してみます。
……恥ずか死!超絶恥ずか死じゃないか!ほんと、よく出来るなあんなこと!
「……あーん」
レーテミーナ様頑張りました!お口の中にスプーンが投入されます!……なんだこの実況。あぁ、鳥さんの顔がだらしないです。でもまだこの程度だと美形は保てるらしいです、美しさを。羨ましいなおい。
「じゃ、ご褒美ね」
そう言って、鳥さんはレーテミーナ様の顎を捕らえます。
え?ちょっと予想と違うですか?あれ?やだ私、驕ってました!恥ずかしいです!ただ顔を合わすだけで、私がレーテミーナ様のご褒美になるとか相当ナルい勘違いです!死ぬ死ぬ、恥ずかし過ぎて死んじゃう!!!
きゃー!と顔を手で覆いながら、指の隙間で二人をガン見すると、恥ずかしそうに頬を染めたレーテミーナ様の顔に鳥さんの顔が近づき……
くいっと顔をこちらに向けさせました。
「ミーレリリー様!!!」
おっと、レーテミーナ様の顔がキラキラ輝いております。勘違いじゃ無かったみたいですが、そのフラッシュ攻撃、凡人には痛いです。
「今のミーナには一番のご褒美だからね」
鳥さんはやれやれとか言いたそうな感じです。
「おはようございあす」
ちょっと噛みました。
「おはようございます、ミーレリリー様!ゆっくりお休みになれまして!?」
駆け寄ってきたレーテミーナ様のキラキラ攻撃が続きます。低血圧とかじゃないから、平気ですけどね、なんか寝起きからこれは、ぉぉぅってなりますよね。
「えぇ、ゆっくり眠れましたよー。そういえば、お洋服が違うみたいですね」
そうです、鳥さんもレーテミーナ様も昨日の服じゃありません。
「昨日ボクが夜中に飛んで戻って一着ずつ持ってきたんだよ」
「そうですか、そのぐらいだと鳥型で持ってこれるんですねぇ」
「まぁ、服を数着程度なら速度も落ちないし、ここは王都から離れていないからね」
「今日はもう帰るだけですけれど、それでも流石に三日間同じ服というのは、恥ずかしいですものね」
「あれ?お二人はお帰りになるんですか?」
なんか流れ的に滞在が終わるまで居るのかと思ってたけど……
「え?帰るのは君達も同じでしょ?ボク昨日グラフに今日帰るからって言われたけど?」
「あや?私そんなこと……」
『それなら……、明日には、戻りましょうか?』
『戻っても、いい…ですか?』
「あっ……」
言われましたね。寝落ち寸前でそこら辺の記憶がスコンと抜け落ちてました。私確かに「いいですよ」って言いましたもんね。
「まだいるの?それなら、もう数着服だけでも持ってこようかな」
「駄目ですわ!わたくし達は戻ります!いいですわね、ウォーク」
「えー?みんなでいた方が楽しいじゃない」
「駄目ですわ!唯でさえわたくし…お二人を邪魔してしまったんですもの……昨日散策をご一緒させていただけただけで……」
なんて言いつつレーテミーナ様がテーブルに置いてあった花冠を撫でます。なんか、そこまで喜ばれると、かえって申し訳ない心境になりますね。今度、お菓子かなんか手作りのものを送ろうと思います。あ、お菓子は駄目だ。私、ちょっと難しい料理は壊滅的です。なんだ、得意なのは……無いな!裁縫も苦手だし、図画工作も工作の方は何とかいけるけど、図画無理!あれ?私なんで乙女やってるんですかね……?ま、まぁ何か考えて送ろうと思います。ほら、よく言うじゃないか、プレゼントは贈ってくれるその気持ちが嬉しいんだって!
「あー、いや、そういえば私たちも帰るんでした」
「だよね。メイドさんたちも準備してるし」
ぉぅ、そういえばアルシラさんが神速で動いています。手伝った方がいいだろう!って、その前に…
「フィオ様はどこですか?」
「グラフ?んー、なんか森に用事があるって出かけて行ったけど」
「そうなのですか?」
「すぐ戻るって言ってたし、もうそろそろ戻ってくるんじゃない?」
んー、森に魔物は居ないって言っていたし、熊さんは相当強いらしいので、大丈夫なのかな……
「心配ならボクが見てくるけど」
「むー、もうしばらくしても戻ってこなかったら、お願いしてもいいですか?」
「いいよ。まぁ、大丈夫だと思うけど」
「だと思いますけどね。じゃあ私は、帰る準備のお手伝いしてきます」
と、レーテミーナ様がお祈りポーズで私の眼前を塞ぎます。
「でしたら、わたくしもお手伝い致しますわ!」
うん、物凄い変わりようですねレーテミーナ様。「侯爵夫人のなさること~」はどこいった、どこに。まぁ、あの時は~止められない、止まらない、いっやがらせっ~だったので、しょうがなかったのかな。あるもんね、駄目だって思ってるのにやっちゃうこと。
「まぁ、ご自分の荷物の整理をお願いします」
「わかりましたわ!」
うん、わんこ可愛いと思います。多分荷物、フラワーリーフしかないのに二階に行っちゃった。
「じゃ、ボクはミーナを見てようかな」
それは、言葉通り見てるだけなんですかね?
「どうせ、片付けとか出来ないからね、ミーナは」
あ、どうやらフォローに行くようです。破天荒な割りにしっかりしてるんですね鳥さんは。わけわからん。
「それじゃ、後でね」
鳥さんが軽やかに二階に上がっていくのを見届けて、私もアルシラさんを探しに行きます。
勿論アルシラさんには手伝いを断られたわけですが、そこは譲らない私。侯爵夫人でも…いや、だからこそ!気を使える人間にならないとですからね!侯爵夫人的な気の使い方と違うのかもれないけど!
荷物を馬車に積み込み終わると、丁度熊さんが戻ってきました。
「あぁ、すいません…手伝いもしなくて……」
「いえいえ、熊さんは侯爵なんですから、いいんですよ」
そういえば、すっかり熊さん呼びが板についてしまいました。
「ですが、貴女は手伝ったのでしょう?でしたら、私も手伝うべきでした。すいません、アルシラ」
荷物の数を確認していたアルシラさんに熊さんが謝ると、アルシラさんがニッカリ笑います。
「いいんですよ、これが私の仕事ですからね。それに坊ちゃんは侯爵なんですから、メイドに謝ったりしたら駄目だって言ったはずですよ」
肝っ玉母ちゃんってこういう人を言うんでしょうね。見た目は厳つい熊さんが「坊ちゃん」です。アルシラさんはなんか安定している感じがします。落ち着く……
「あぁ…すいません……、あ、いえ、今のは……いや…ありがとう、アルシラ」
「はい、どういたしまして」
メイドらしくお辞儀をすると、アルシラさんはスタスタと別荘に戻っていきます。
「あぁ、そういえばおはようございます、リリー。ゆっくり眠れましたか?」
「へ?あ…おはようございます。そうですね、ぐっすりでした。熊さんは朝から森に行ってたらしいですけど……」
そういえば、ちょっと服が土で汚れています。
「えぇ……これを」
熊さんが握っていた手を開くと、そこには綺麗な紫色の宝石がありました。
「私は大地の属性ですから、鉱石の類の…気配がわかると言うのとは少し違うのですが、なんと説明すればいいのか……」
熊さんが考え込むように空を仰ぎます。
「とにかくそれを採りに行っていたんですか?」
私色の宝石。小ぶりだけど、とても綺麗な色をしています。
「えぇ。この辺りでは鉱石自体が珍しいですし、貴女に波長の合うラシャシスだったので」
ラシャシスってのは紫水晶、つまりアメシストですね。
「屋敷に戻ったら、お守りに加工しますので…その時に受け取ってもらえますか?」
この世界には特に魔法の力を秘めない鉱石と魔法の力を秘めている鉱石――魔宝石――が存在します。元は同じなのですが、魔力を帯びた鉱石は語尾に「シス」をつけて区別するんですね。元々婚約指輪として魔宝石のリーノイシス。つまりは魔法ダイヤを貰っていたのですが、手ずから採ってきてくれたこのラシャシスのほうが嬉しい気がします。
「ありがとうございます……。楽しみに待ってますね!」
「……はい」
私、熊さんのふにゃっとした笑顔が、一番好きかもしれません。
これにて別荘篇終了!




