021 ごめんなさいが嵐です。
「だいじょぶですかー?」
抱きついてきたので、そのまま背中をポンポンと叩いてみます。
「あ…あ……、私…は……ミーレリリー様……?」
「いや、貴女はレーテミーナ様ですよ」
どんな混乱の仕方ですか。
「あっ……ごめんなさい!私、ごめんなさい!!」
謝りつつ、レーテミーナ様がガバッと私から離れます。
「あー、いやぁ、その男の人の…ねぇ?免疫ないなら仕方ないと思いますよ?」
と、ベッドから急にレーテミーナ様は立ち上がります。
「ちっ…違うの!私ったらまた、何も考えないで邪魔してっ!!出てきます!出てきますから!!」
はい?邪魔?えっと~、レーテミーナ様が飛び込んできたときは……
「違う!違う違う!違いますよ!」
とんだ誤解だよ!!
「だって、私…あんなことしたのにっ!また……」
あ、泣く。この子泣く。
「っ……、うっ……」
やっぱり……。
しかし、どうしようこの状況。なんで突然泣き出しちゃったんですかね?なんか、私レーテミーナ様に対しては結構憤りを感じていたはずなんですけど、毒気抜かれるって言うかなんていうか……
泣かれちゃうとどうも絆されちゃうんだよなぁ……。
多分、レーテミーナ様は感情の起伏が物凄い大きくて、ドカンと爆発しちゃうタイプなんでしょう。お母様に通じるものをすごく感じます。
「レーテミーナ様?とにかく、座ってください」
レーテミーナ様はみっともなく鼻をすすりながら、私に誘導されるままベッドに腰掛けました。
「わだっ…私っ……」
「今は何も喋んなくていいですから、とりあえず頑張って泣き止んでください。その後聞きますから」
「っ……ごめっ…なさっ……、ごめんなさっ…い……」
多分、今のごめんなさいは、飛び込んできたことに対してじゃないんだろうけど……
とにかく泣き止んでもらわないとどうしようもないので、私は優しく背中を撫でるに徹します。
しばらくすると、レーテミーナ様が泣き止み(しゃくりあげるのはまだ止まってませんでしたが)ごめんなさいごめんなさいを繰り返します。酷い人間でごめんなさい、酷いことをしてごめんなさい、嫌なやつでごめんなさい、あんなことしてごめんなさい。の繰り返しです。昨日の態度と百八十度違うのですが、一体何があったのかさっぱりです。
ドアの向こうで、男性陣の声がします。多分、私たちが出てこないので気になっているんでしょう。まぁでも、今は男性陣はスルーでいきます。
とりあえず、ごめんなさいだらけで要領を得ないので、何に対して謝っているのか聞くと、ポツポツと語りだしました。
彼女は、要するにウォークさんの人生をめちゃくちゃにしてしまったことが怖くて、熊さんに逃げて、熊さんに受け入れてもらえなかったのが悔しくて、私に意地悪をしてしまったらしい?です。
ドロドロな昼ドラの悪役のようですね。まさが自分が悲劇のヒロインポジにいるとは思いもしませんでした。そういうの苦手なので、出来れば明るい昼ドラの主人公になりたいです。あぁ、親友の「主人公とはおこがましい」とかいう声が聞こえてきそうです。あれ?いや、昔、お前は主人公っぽいとか言われた気もする……
って、今は過去世を思い出している場合じゃないですよね。とりあえず、あれかなー。なんか生きててごめんなさいレベルで謝られるのはちょっと逆にこっちが悪役な気分になってくるので、止めて欲しいなー……
「えっと、レーテミーナ様?」
「……っく…はい……」
「こっち向いてくれます?」
ちなみに、レーテミーナ様は俯きっぱなしでした。素直に私の言葉に従ってこちらを向いてくれたので、私はにっこり笑います。その瞬間、レーテミーナ様の瞳が絶望に揺れたのがわかります。「ミーレににっこり笑われるのが一番怖い」これは幼馴染のエーリの台詞です。
いつもはこれで終わりですが、今回は終わりません。私も、昨日というか今朝、人をちゃんと見ようとしない自分を反省したところですから。
私はいつも、苛立ってもその場はにっこり笑って、自分の中で怒りが消化されるのを待っていました。怒るのが疲れてしまうからって言うのもあります。人を傷付けたくなくて、自分が我慢すればいいんだって思っていました。怒りが消化されてしまえば、穏やかでいられると思っていました。でも多分、それじゃあ人を理解することも、自分を理解してもらうことも出来ない。熊さんは見守る者とか言ってくれたけど、違います。私はただの冷たい人だったんです。だからエーリは、私がにっこり笑うのが一番怖いと、言っていたのだと思います。だから、あの時感じた苛立ちを思い出します。
私は思いっきり右手を振りかぶって、レーテミーナ様の頬を引っ叩きました。
すっごい、いい音がしました。
「私ね、怒るの苦手なんです」
なんかの漫画で、殴った方も痛いんだ。的な台詞があった気がしますが、本当にその通りですね。手も痛いけど、心も打撃を受けてます。
「我慢してやり過ごすと、良好な関係を築けるんですよね。だから今まではちょっと嫌だなって思っても、我慢することにしていたんです。私、怒ってたことすぐ忘れるし」
たははと笑ったのですが、レーテミーナ様は驚愕に目を見開いたままです。
「でも、今回は怒ることにしました。私は怒ってます。でも、レーテミーナ様がちゃんと謝ってくれたので、この平手一発で許してあげます」
物凄い上から目線だよなぁ……。なんか、本当にこんなことして良かったのか、すごい不安になります。
「……ミーレ…リリー様……」
「はい?」
放心したまま呟いたレーテミーナ様に答えると、レーテミーナ様は、叩かれた左頬を押さえながら、ゆっくりと頭を下げました。
「……ありがとう、ござい…ます……」
第一印象があれだったので、本当にこの人レーテミーナ様?と疑う心境になってきました。まぁ、今朝?の鳥さんとの話し合いで素直になれたのでしょう。言葉遣いもガラッと変わっているので、素の彼女はこういう人なんだと思います。
「痛かったですよね?ごめんなさい」
「……いいんです…私が、酷いことしたんだから……」
泣いたせいで真っ赤な目元と、ジャストミートした私の平手のせいで真っ赤な頬のまま、レーテミーナ様が、弱弱しく微笑みました。美人もここまでボロボロになると流石に美人度が低下するようです。でもなんか、そのボロボロな姿が、好ましいと思えます。
「許してくださって…本当に、ありがとうございます……」
とりあえず、私も笑っておきますがね。でもですね、素直な彼女はこんな人って思おうとしましたけど駄目ですよ、なんか不気味です。
と、ある意味ベストなタイミングで私のお腹が食事を寄越せと主張しました。私はまた、たははと笑ったのですが、レーテミーナ様は笑うべきなのかどうかわからないといった表情でビクビクしています。なんか、恐れられてませんか私?
まぁ、これはおいおい仲を改善して行きたいと思います。それよりも今は……
私は人差し指を口にあて、レーテミーナ様にシーッのサインを送ると、そーっとドアに近づき、勢いよくノブを回しました。
「うわっ!!」
「ウォーク!?」
どうやら、熊さんは聞き耳阻止をしようとして居たんでしょうね、ドアが開いた瞬間驚いて掴んでいた鳥さんの服(背中)を離したようです。そんな訳で、予想通り鳥さんが部屋に転がり込んできました。
「聞き耳は良くないと思います」
腰に手を当てて怒った顔を向けると、鳥さんは立ち上がってパンパンと埃を払うしぐさをします。アルシラさんがきっちり掃除してくれたから綺麗ですよ!ついでに、ちょっと乱れた髪も直した鳥さんは、一度レーテミーナ様を見つめて、優しく微笑みました。
そして、私に向き直るときっちり九十度、勢いよく頭を下げて、叫びました。
「ごめんなさい!」
全く、寝起きから謝られまくりです。




