020 悲鳴と共に来るヤツら。
はわわわわわわわ!はわわわわ!
ぎゅって!ぎゅってぇー!!
ドドド、どうする!?
「……すいません」
私の混乱が伝わったのか、熊さんがそっと腕の力を緩めました。
「すいません、何もしません。しないので……」
熊さんの顔を覗き込むと、すごく切なそうな顔をしています。
よくわかりませんが、私まで切ない気持ちになってきました。体は大きいのに、縮こまって泣いている子供みたいだから?悲しいんじゃないけど、なんでこんなに胸が締め付けられるんだろう……?
小学生の時に好きだった同級生に感じた気持ちとも、高校生の時に好きになっちゃった先生を想って泣いた泣いたあの時の気持ちとも違う……
もしかして、これが愛おしいという気持ち?よく、わからないな……
体が自然に動いて、私は熊さんの胸元に顔を埋めていました。
「……リリー?」
ドクドクと早鐘を打つ心臓。この中に、どんな想いが詰まってるんだろう?
「……心臓の音、すごく早いですね」
「そうですね、壊れてしまわないか心配になります」
熊さんが、自嘲気味にクスッと笑いました。
確か、生涯の脈拍数は大体決まってるんだっけ?
「壊れちゃうのは困ります。末永く幸せに暮らさないといけないんですから」
「……そうですね」
私が離れると、そっと、熊さんが左手で自分の胸を押さえ、私は熊さんの腕に頭を置き直して、腕から伝わる生きている音を聴きます。
「あの、リリー……?」
「はい?」
なんだか、気まずそうな様子です?む?
「あのですね、お願いがあるのですが……」
「なんでしょう?」
「もう少し、上に来てもらっていいですか?」
「上?」
「えぇ、腕が首に来るように……」
ぁ?あぁ、そうだよね、腕を頭でひいてたら痺れちゃうもんね。そっかぁ、腕枕って本当に腕を枕にするんじゃないのかぁ……
もそもそと調節すると、首の後ろに腕が入っている状態になって、確かにこのほうが楽でした。なんか頭固定出来なくて寝辛いなぁって思ってたんですよね、実は。多分熊さんも楽なんだろうと思います。でもですね、顔が近くなってしまいましたよ?ひげもじゃな顔なのに、すごく穏やかに見えます。
あれ!?なんか、さっきより恥ずかしいのは何で!?
思わず俯けば、熊さんの胸板が目に入るし!私はどうすりゃいいの!?あ、目を瞑ればいいんですよね!馬鹿か!
ぎゅっと目を瞑ると、熊さんの「ありがとうございます」って声が降ってきました。「いえいえ」なんて言いつつ、寝なきゃ、寝なきゃと念じます。
…………
……………………
………………………………なんか香るよ!
ヤな臭いじゃないんだ!どっちかっていうと、いや、どう考えても明らかに好い匂いなんだ!なんかドキドキするよ!?
「……リリー?」
「はい!いい匂いです!!」
はぅあ!!
あぅ……絶対熊さんの顔見れないです今……
「えっと……それは良かったです……」
「あ、いや、おやすみなさい!」
「……はい、おやすみなさい」
熊さんが、そっと私を抱きしめました。
ほんと、私この失言癖直そう……
~ちょっぴり、サイド・熊さん~
彼女の寝方は、少し予想外…いや、ある意味彼女らしいと言えた。
壊れそうな心臓と、切なくてどうしようもない感情を押さえつける。
胸元で鼻をすするような音がしたので、泣かせてしまったのだろうか、やはり私といるのが辛く無理をしているのだろうかと不安になる。聞くことが怖ろしい。もしもそうだと言われたら……しかし、気付かない振りをするのは逃げだ。嫌なのだと言われたらそれを受け止めなければ、言えないのならそれを汲み取る努力をしなければ、この人に相応しい男になることは出来ない。私は、そっと声を掛けた。
まさかの返事に、固まった。だが、泣かれていなかったことに安堵する。そっと抱きしめて目を閉じると、しばらくしてリリーの寝息が聞こえた。私も次第にうつらうつらしてきたが、その時彼女がモゾモゾと動き出し、私の腕の下に潜り込んだ。
布団を少し上げ、中の様子を見ると、まん丸に丸まった彼女の姿。
「本当に、猫ですね……」
自由になった腕に空気が触れて、温かみが消えてしまったことに少し淋しい気がしてしまう。
そうか、苦しいかもしれないと思い、空気が入るよう布団を少し上げると、彼女は無意識だろう、開け口を閉じてしまう。この寝方が板についているらしい。もしも私達が夫婦らしくなれたら……、彼女が私を拒絶しないでくれたら、今後ずっと、こんな風に寝るんだろうか?もしも、エレースも一緒に寝ることになったら、どんな寝方になるのだろう。
そんなことを考えていると、胸の内が温かくなった。出来ることを超えても、努力をしよう……
「――――――――――――――!!!」
ふぇ?なんか聞こえた?どうやら、いつも通り丸まって寝ていたらしいので布団から這い出そうとすると出れない。んぐ?枕のほうに出れないんじゃこっちかと思って、サイドから出ようとしたら温かいのに硬い何かが手に当たる。ん?ん?なんだこれ?
「リリリ、リリー?」
布団がばさっと跳ね上がる。光に照らされて見えたのは、肌蹴たガウンから見える見事なややマッチョと、その腹筋をペチペチしてたらしい私の手だった。よかった…おとこの「と」の字のとこじゃなくて……。って…違くて!!
「……うきゃーーー!?」
ごめんね、悲鳴が乙女らしくなくて。
「お、落ち着いてください」
「ぉぉぅ、そうですね、すいません。や、ペチペチすいません、程よい腹筋の良いお腹ちゃんですね」
「ですから落ち着いて、リリー!」
はっ!
「あ…すいません」
ベッドの上で何やってんだ私は。ぺこりと頭を下げてから熊さんを見ると、恥ずかしかったのかうっすら目元が赤い熊さんも「こちらこそ」と頭を下げた。
互いにたははと笑っていると、ドンガチャン!のでかい音ときたものです。もう、分かってるよ、彼女ですよね……
「私っ!!ウォークがっ……きゃぁああああ!!!!」
どおう!乙女の金切り声は寝起きにはきっついよ!私も叫んでたけど!
「ミーナ!?どうしたんだい!!」
増えた闖入者のほうを振り向いたレーテミーナ様はまたしても。
「きゃぁああああああああ!!!!!」
あぁ、もう、なんなのこの状況……
「ウォーク、せめて上着を……いえ、着替えに行ってください」
そう言いつつ熊さんがガウンをきっちりと着直す。私の視界を背中で塞ぐことも忘れない。
えぇ、鳥さんは上半身裸でした。下は見てないから知らないです。さっき聞こえた音は多分レーテミーナ様の悲鳴だったんだろうなぁ。
「別に気にすることじゃないでしょ?」
「気にします。私は妻の寝巻き姿を他の男に見られたいとは思いませんから」
あ、そっち?そういえば、そうですよね。私は熊さんの背中に隠れてもそもそと布団を引き上げます。
「……妻に私以外の男の体も見せたくありません……」
おわ、ちょ、そのボソッと聞こえてますからね!?恥ずかしいことさらっと言わないで!
「いいなぁ。ボクたちもこんな夫婦になろうよミーナ」
沈黙です。ちょっと気になって、熊さんの背中越しにチラ見をしてみます。あぁ、レーテミーナ様石化してら。
「……いけませんよ、リリー」
おっと、窘められました。お行儀悪かったですね。まぁ、チラ見した鳥さんはちゃんとズボン穿いてたし、細マッチョには興味も無いのですが、熊さん的にも貴族の奥様的にもNGでした。しっかり布団を被って後ろを向きます。
って、窓ガラスで逆にしっかり見えるし!まぁいいか。誰も気付いていないようですからね!
う~ん、鳥さんは均整の取れた体ってやつなんでしょうね。綺麗過ぎる顔も相まって某男の子だけの事務所の子たちを思い出す体つきです。うん、興味ねぇ。布団を頭から被り直して……寝ちゃおっかな?
駄目だよね。それじゃあ真っ暗実況です。ベッドがギシッと動いたことで、熊さんがベッドから離れたのがわかりました。
「ウォークは早く部屋を出てください」
「えー?なんでボクだけさ?」
「貴方が居ると女性陣が困るからです。とにかく服を着て、談話室…いや、食堂に」
食堂ってダイニングのことです、はい。
「わかった、わかったよ」
なんか、熊さんに叱られたって感じですね。声が拗ねてます。ドアの開閉音がしたので、鳥さんは出て行ったのかな?
うおっ?布団が!
顔を上げると熊さんがクスッと笑います。
「本当に猫のようですね」
「猫じゃないですよ」
確かにちょっと香箱座りっぽくなってたけど、猫っぽくは無いと思います。
「私は着替えを持って隣に行きます。……レーテミーナ嬢を…お願いしてもいいですか?」
ん、あぁ、確かにそうだよね。未だに石化してるもんね、レーテミーナ様。
「大丈夫ですよ」
「……すいません、よろしくお願いします」
まぁ、私とかはぶっちゃけ村娘なので、仕事終わりに男どもが上半身裸で水掛け合ってるのとか、むしろ現じゃちょっとした雑誌に何故か男性タレントがセミヌード披露してるのとか見てるから免疫あるけど、ご令嬢には無いよね。
さて、レーテミーナ様は昨日のワンピースのままだし、まずは私も着替えちゃおう。熊さんが隣に移ったのを確認して、私も布団から這い出て服を引っ張り出す。う~ん、どうも紫系の色で服が統一されてるんだよなぁ。私的にはベージュとか、カーキっぽい?まぁ、緑系とかこの髪色に合うと思うんだけどなぁ。後は白だけど、白は貴色とされてるから避けるものだし、まぁしょうがないよね。あ、ピンクは却下で。なんか恥ずかしいの。
そんなわけでサクサク着替える。着替え終わってレーテミーナ様を良く見てみると、ちょっと髪の毛がボサボサだったので、ベッドに座らせて髪を梳いてあげた。しかし、燃え尽きてるなぁこの人。ちょっとレーテミーナ様に対するイメージが変わりますね。
うん、まぁこれでいいでしょう。
「レーテミーナ様、レーテミーナ様?」
駄目だなぁ反応無いですよ。そこまで放心することかね?
「おーい、レーテ様~ミーナ様~、ミーナちゃーん?」
うむぅ、どうしたもんか……
「よし……あ!裸のウォークが!」
「いやぁーーーー!!!!」
またもや鼓膜に響く声を上げて、レーテミーナ様が私に飛びついた。




