013 ご令嬢が厄介です。
えっと、確かこのご令嬢、立ちくらみ起こしたから休ませろって言ってたんだよね?なんか今、自慢げに別荘紹介されてるんですけど、なんなんですかね?
「こちらが、一番大きな客室ですわ」
この別荘には、主人の部屋みたいなものは無いらしい。って事は多分この部屋が主人用なんだろう。
熊さんにお茶用意してから、アルシラさんはとりあえず使う部屋を換気するって言って、部屋を回っていた。2階で窓が開いてる部屋はここだけみたいだから、使うのはこの部屋だけなのかな。あー、つまり数日間、私はこの部屋で寝るわけですね。
ん?……えっ!?つまりそうなの!?つまりそういうことだよね!?
突然、言葉を無くして真っ赤になった私に、レーテミーナ様が怪訝そうな顔をして……気付いた。凄い苦々しげな顔になる。
「ま、まぁ?隣の部屋はこちらの部屋より狭いですが、景色もいいですし?ミーレリリー様はそちらの部屋を使われるとよろしいのではなくて?」
私が反応出来ずにいると、丁度シーツを持ってアルシラさんが通りかかる。
「あら、やめて下さいよ。今回はお二人で静かにお過ごしになるってんで、最低限の人数しか来て居ないんですから。二部屋も使われたら他のところに手が回らなくなってしまいます」
アルシラさんの言うとおりで、今回の静養についてきたのは、メイド長のアルシラさんと御者さんに、料理人さんの三人。別荘の管理人さんがちゃんと居て、十日に一度程度は掃除をしているそうなので、綺麗は綺麗なのですが、やることは一杯あるようです。
「ごめんなさい、アルシラさんばかりに負担を掛けてしまって。私にも出来ることがあれば、言ってくださいね」
申し訳ないという気持ちもあって、咄嗟にそう言うと、レーテミーナ様が眉を思いっきり顰める。
「まぁ!ミーレリリー様ったら、ずいぶん使用人に気安くていらっしゃるのね!」
おっは、嫌味がダイレクトに到着しやがりましたよ!いや、確かに侯爵夫人なんだから、手伝うとか言っちゃ駄目だったかもしれないけど……
「まぁまぁ!本当にミーレ様はお優しくって……。使用人も人間だって事をよくわかっていらっしゃるから、そんなところが旦那様のお気に召したんでしょうねぇ!」
アルシラさんの援護射撃強力過ぎです……逆に心臓に悪いです……怖くて、レーテミーナ様を見れません……
「……そうですわね、本当に、ミーレリリー様は、お優しいのが、この短い時間でも、わたくしにも、よく、わかりました、わ」
声が…声が物凄い震えてますよ、レーテミーナ様……ブツブツ切りながら喋られると怖いよ、マジで!
「そ、そんなことありませんわ……、私なんて、至らないことばかりで……」
至らないことばかりって言うか、まだ一日目だから何もしてないけどな!
「お父様は男爵でいらっしゃるんだったんでしたわよね?」
なんか、レーテミーナ様も喋り方おかしくなってきてるよ!大丈夫なのか!
「えぇ」
「きっと、上流貴族の風習といったものにお詳しくないでしょう?」
決め付けです。暗に馬鹿にされてますか?いや、暗もなにも、見下されてますよね。事実だから別にいいけどね。
「そうだわ!わたくしが教えて差し上げます。それがいいわ!そう致しましょう!」
へっ?いや、あのぉ……私あまり貴女と関わりたくないって言うか……
「私も少し体調が優れませんし、ゆっくりお話しながら色々と教えて差し上げますわ」
アルシラさん!アルシラさんはどこですか!
キョロキョロ周囲を探してみるけど、本気で忙しいアルシラさんの姿は既に消えていた。
「そうですわね……では、わたくしはこちらの部屋を使わせて頂きますわ」
泊まる気かよ!
黄色の髪の人って、自分勝手だな!そうそう、レーテミーナ様は髪が黄色系(ノット金髪!)なので多分属性的には風の人だと思います。え?風なら緑じゃないかって?緑の髪の人の属性は樹木でござるよ。レーテミーナ様の髪の色は正確には、柿の色を薄くしたような?多分、赤も混じってるんじゃないですかね。怒らせると怖そうです。正確に伝えられてないな……うん、気にしたら負けてしまいますよ!
「わたくしの部屋も整えなくてはなりませんね。さっきのメイド……は、居ないですわよね」
なんて言いながら、レーテミーナ様が出来れば見つけたくないといった様子で辺りを見渡す。
「困りましたわ。誰か部屋を整えてくれないかしら?」
あれだよね、それは、あれだよね、私にやれって言ってるよね?はぁ……。まぁかまわんけどね。
「とりあえず、換気を致しましょう」
なんて、言いながら窓を開けつつ「シーツを持ってまいりますわ」と続けて、私は逃げることにしました。レーテミーナ様は優雅に「ありがとう」と言って、私よりも先に階段を下りていきます。
「お待ちしている間、わたくしはフィオ様とお茶してますわ~」なんて楽しそうな声が届きましたが、もうなんか、どうでも良くなってきました。
アルシラさんは本当に忙しなく働いてくれているらしく、捕まえることが出来ません。まぁ、シーツがある場所はすぐに分かったので、それを持って二階に上がります。お嬢様が何を言い出すかわからんので、私達の部屋に飾られた花瓶をそのまま、隣の客室に移します。ごめんね、アルシラさん。ベッドも綺麗に整えて、目に付いた少ない埃も払いました。なんか、やってるうちに楽しくなってきちゃったので、結構頑張りました。私、何やってんだろ……
部屋を見事に整えて談話室に戻ると、レーテミーナ様が恋する乙女の瞳で熊さんに超話しかけてます。どうやらなんかのお茶会で容姿を褒められたとか、求婚が多くて大変だとか。熊さんの気を惹きたいみたいですが、明らかに話題を間違ってます。熊さんに「良い相手が居るといいですね」的なことを言われて凹んでます。まぁ、微笑ましいような気がしないでもないですが……必死な(間違った)アピール対象のその熊、私の旦那ですよ~?ちなみに熊さんは一人掛けのソファに体裁振った座り方をしています。内心困ってるのが丸分かりです。あの熊さんは実はへたれだからな!
「あぁ、リリー!」
熊さんとても嬉しそうです。私が来たことに気付き、立ち上がってこっちに寄ってきます。可愛いです。でもレーテミーナ様怖いです。優雅に立ち上がって、威厳たっぷりの顔してます。
「終わりまして?」
「えぇ、お気に召していただけるといいのですが……」
レーテミーナ様、私の事メイドさんか何かのように認識してませんか?
「ありがとうございます。ですが、ミーレリリー様、その様な雑事は侯爵夫人のなさることではありませんわ」
えぇー!!やれって言ったのそっちじゃん!
あ、いや、私にやれとは言ってないよね。明確には言ってないよね。なんか悔しいよ!
「レーテミーナ嬢?」
熊さんが眉を顰めます。ダンディボイスを遺憾無く発揮しています。
「わたくし、ミーレリリー様に貴族としての礼節指導をお願いされましたの。ですから、ミーレリリー様の行動を試したのですわ」
頼 ん で な い よ !
なんか凄いドヤ顔で言いやがったよ、この人!もう、どうすりゃいいのかさっぱりわからんよ!
「…………」
熊さんが困ったような顔で私の事を覗き込みます。多分私も同じような顔してると思います。なんか今、心が通じ合ってる気がする!
「……あのぉ…」
微妙な空間におずおずとした声が響きます。
「お茶のおかわりはいかがですか……?」
あぁ料理人さんですね。アルシラさんが忙しいので、料理人さんがそこら辺のことやってくれているようです。
「そうですわね。お願い」
レーテミーナ様はあくまで優雅です。ほんと、振り回されてるなー私。
レーテミーナの髪色は「洒落柿」って色です。




