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転生チートの意味がない。  作者: おうさとじん
1章:奥様になりました。
12/67

010 ――サイド・熊さん―― 2

2013/04/28 後半を超改稿。

 彼女との再会は、意図したものではなかった。


 ヴァーラント卿とは、特に面識が合ったわけではない。ただ、ヴァーラント領は良質な麦の産地で、飲食部門が弱いと文句を言う部下が、ヴァーラント卿と面識を持ちたいと言うので、招待状を貰える様手配した。

 行くつもりはなかった。けれど、早めにヴァーラント領に入れば、イルラン村を覗けるかもしれない、少女を少しでもこの目に映すことが出来るかもしれないと考え、出席するかどうかは別として、ヴァーラントへ赴くことだけは決めた。

 結果、早朝イルラン村へは着いたのだが、少女を見ることは出来なかった。部下からの報告は一月に一度。少女が居ない理由を知らなかった私は、ただ会えなかったことに落胆した。

 一人、帰ろうかと思ったのだが、私に特に予定が無いことを知ると、部下の一人が、ぜひ一緒に行こうと言い出し、他の者達も賛同した。変人で通っている、強面こわもての私が顔を出すのもどうかと思ったが、部下と言っても彼らは伯父上が先頭に立っていた時代からの役員が主で、十以上年が下である私が逆らえるわけも無かった。

 ヒゲが生えていなかった頃から、私は妙に目立つと言うことは自覚していた。だからなるべく目立たぬようにとカーテンの陰に隠れるようにしていた。


 あんなにも、心の拠り所にしていたと言うのに、斬新な型のドレスに関心が行って、あの少女であると言うことに私は気付かなかった。

 最初に目に付いたのは、美しい曲線のくびれから下半身、そして足元。ここ十年で爆発的に発展したご婦人方のドレスは、どれもやたら胸を強調することに固執し、それ以外はかさばるスカートで隠してしまうもので、いや、型自体は悪くないが、いかに煌びやかにするかを競い合い、男としては見ていてゴテゴテとした重いモノ、としか認識出来なくなっていた。

 そんな重苦しいドレスの群れの中、まるで波間の水自体が魚となって泳いでいるような美しさに注目しない者は居なかったと思う。

 広がる裾は、波でもあり、ヒレでもあり、その美しい揺らめきから視線を上げていけば、そこに人の顔があることが信じられない、まさに人魚といえるドレスだった。

 しかし、感心する心境はそこで驚愕に変わった。


 藤色の艶やかな髪、好奇心に満ちた菫色の瞳……

 五年前の少女の笑顔が突然目の前に浮かび、瞬時に消えた。


 「ミーレ…リリー……嬢?」


 気付いた瞬間、背中を何かが走りぬけた。今までのように少女を想っていた時の幸福感ではない。初めての感覚だった。鳥肌が立って、頬からコメカミの範囲が燃えるように熱くなった。

 見ていられなくて、カーテンの奥に逃げた。

 壁に凭れて、目を閉じる。と、ひらひらと泳ぐ綺麗な魚が目の前を横切り、焦って目を開ける。それを数度繰り返し、私は自分の胸に手を当て天井を仰ぎ見る。

 何故私はこんなにも動揺しているのか、少女を想うといつも暖かな気持ちになっていたと言うのに、ちらりと見ただけの彼女に、何故こんなに胸が痛くなるのか。

 そろりとカーテンに隠れつつ、彼女を探す。すると、私同様カーテンに隠れるようにして、彼女はフェッゾを食べていた。どうやら、口に合ったらしく表情を緩めた。

 そんな姿を見てしまい、私はまたも急いでカーテンの奥に隠れる。強く、ざわざわと体中を流れる血の動きを感じる。収まらないその血の流れに、私は胸を叩いた。

 深呼吸をして、もう一度彼女を見る。確かに少女の面影がある。確かに彼女だ。しかし、たった三年でその顔から幼さが消えている。大人の女性となった彼女は、とても美しかった……


 私の記憶の中の、幼い少女の笑顔がぼやける。


 その時の私は、変人と言われるのも致し方ないぐらいに、おかしかっただろうと思う。

 この巨体を出来る限り小さくし、カーテンから彼女を覗き見ては隠れ、見ては隠れ……

 私の奇行に、部下達が笑いを堪えたような、不自然な笑顔を向ける。

 「グラフ候、そんなに気になるのでしたら、ダンスに誘ってはどうです?」

 声を震わせながら、服飾部門を取り仕切るファーリンが言う。

 「話しが弾みましたら、ぜひあのドレスの型の図案者を聞き出してくださいませ」

 そう言って、私の背中を押す。

 踏鞴たたらを踏んで、私は広場に飛び出した。こうなると、妙な度胸というかやる気が出て、私は靴音を響かせつつ、テーブルに移動していた彼女のそばに向かう。

 失礼にあたらない程度の距離で止まろうと思ったのに、勢いあまって近づき過ぎた。

 すると、彼女は私に気付き、驚いたように面を上げた。猫のような目をまんまるにして固まっている。焦って謝ると、彼女は私が何故謝ったのかわからない、といった表情で返事をくれる。

 私自体、何故謝ったのか分かっていないので、彼女の表情ももっともだろう。私は彼女を見ていることが出来ずに視線を落とす。すると、彼女の胸元の命卵に目が行った。柔らかな光を受けているその命卵の数は四つ。私の命卵の数と同じだと言うことに驚いた。元々、彼女を知ったのは命卵の数が同じだったからだと言うのに。

 そのまま固まっていると、彼女は皿に伸ばしかけて止まっていた手を動かし、最初から決めていたのだろうフォンアルクを持って儀礼的に礼をして去っていこうとする。

 遠ざかる背中に、思わず声を掛けた。しかし、彼女の耳には届かなかったようで、そのまま行ってしまう。ため息が漏れた。私は何をしているんだろうか?肩を落として部下達の元へ戻ると、ファーリンに肩を叩かれた。

 その場に居た皆に励まされ、情けない気持ちになっていると、食品部のゴージがわざわざ私の耳元で、くだんの彼女がこっちを見てると告げる。その言葉に顔を上げると、確かに彼女が好奇心(あらわ)にこちらを見ていた。そして、目が合ってしばらく、彼女が微笑んだ。


 柔らかな風が吹き抜けた。

 降り注ぐ光の下、緑の丘に咲く一輪の花を見た。

 優しさを目に宿した笑みが、私の心に鮮烈に焼きついた。

 笑顔が重なる。


 胸が、強く心を叩いた。耳の後ろを脈打つ音が響く。痛いほどに胸が高鳴った。

 彼女がカーテンの奥に隠れてしまい、その姿が見れないことに切なさを覚えた。


 あぁ、私は今、恋に落ちたのか


 そう気付いた瞬間、穏やかな色に包まれていた世界が、光に満ちた鮮やかな世界へと変わった。

 しかし、どうすることも出来ないことは分かっていた。だから、これ以上彼女を見ないで済むよう、主催であるヴァーラント卿に挨拶をして会場を後にした。部下達はもう少し居るというので、この地にある別荘へと戻る。


 しばらく、一人で蒸留酒を傾けていると、部下達が戻ってきた。少し気まずそうにしているので、理由を聞くと、私の気にしていた女性が結婚するかもしれませんとのことだった。

 気まずそうにする理由がわからなかった。変人侯爵と呼ばれる私が彼女との結婚を望む訳もなく、昔から、ただ彼女が伸びやかなまま幸せであることを願っていたのだから。

 「良いことではないか」

 そう言うと、その話しを聞いてきた張本人のゴージが、顔を顰めた。

 「いやぁ、どうでしょうね?」

 「……どう、とは?」

 「まー、これから結婚の申し込みに行くみたいなんで確定じゃないし、断る可能性もあるんだろうけど」

 ゴージは味をみる舌は確かだが、逆に舌が回り過ぎるらしく、話しが回りくどい。しかし、遮ることなく話したいように話しを続けさせる。

 「なんか、申し込むのはアルガっていう奴みたいですよ。卿の甥っ子っぽかったですね、聞いてた限り。なーんかヤな感じしましたねー。体の線がなんちゃらこうちゃら。いやーな目で見てましたよ。しかもヴァーランド卿がね、なんかあのお嬢さんの親御さんに土地をあげたらしいんですよね。なんかそれって怪しくないですかね?」

 「調べてみましょう」

 間髪いれずにそう言ったのは、ファーリンだった。

 「私は候が帰られた後、たまたま彼女の両親とお話しをさせて頂いたのですが、どうやらあのドレスのデザイン…服に限らず設計や図案のことをこう言うそうです。なにやら、とても新進的な言葉だとは思われませんか?……あ、いや失礼。あのドレスのデザインは彼女が起こしたそうなのです。聞けば、今、社交界で主流のドレスのデザインも元は彼女が起こしたものだそうで。地方貴族の妻として家庭に入ってしまっては、彼女のデザインの才能を埋もれさせかねませんよ」

 「いや、あの方は現示者ですから、現にある知識かもしれませんよ?」

 そう口を挟んだのは、広報部という名目で彼女の監視をしているアムイだった。

 「ほう!ならば他にもこちらにはないデザインを知っているかもしれませんな!」

 デザインという言葉が気に入ったのか、ファーリンはやけに強調してその言葉を口にする。

 「ちょっと、話しずれてますよー。今は、アルガは怪しいってはなしでしょうに。いや、ヴァーラント卿かな?」

 確かに、初対面の女性の…その、体の線を気にしたりするのは紳士としては如何なものかと思う。理由なく土地を譲るというのも納得出来るものではない。

 元々、イルラン家とヴァーラント家には土地に関する確執が存在する。広大な土地を奪われ、小さな町一つを返され、そして今回新たに土地を貰ったとなると、ヴァーランド卿から甥との結婚の話が行って、断りたいと考えても断れないかもしれない。

 アルガという男が、彼女を幸せに出来るような者ならば問題は無いが……

 「アムイ、そのアルガという青年を調べてみてくれるか?」

 「あぁ、それでしたら既に調べました。調べたというより、会場にいらっしゃったご婦人方が勝手に喋っているのが耳に入ったという感じですが」

 「ふむ、それで?」

 「どうにもかなり手癖が悪いようですね。若い頃は貴族のご婦人方に手をだしたりしていたようですが、一度手ひどい目に合ったようで、最近ではもっぱら街娘や使用人を相手にしているみたいです。ご婦人方の噂ですから真相はわかりませんが、どうやら使用人を身篭らせたこともあるようです。……無事に生まれはしなかったようですが」

 アムイの言葉に、愛らしく笑うエレースの姿が浮かぶ。湧き出た怒りが外に出ようとするのを必死で押さえ、とにかく彼女のことを考えた。

 「候が結婚しちゃったらどうです?」

 「……そんなこと、出来るわけがないだろう」

 「するわけ~じゃなくて出来るわけ~なんて、お嬢さんのこと好きになっちゃったんですねぇやっぱり」

 茶化すような言い方に、眉を顰める。

 「そんな顔したって駄目ですよ。今日は笑い堪えるのが大変だったんですから。グラフ候がこんなにうぶだとは思いませんでした。いいじゃないですか、アルガって奴は三十三だそうですよ。奴に比べたら候の方がお嬢さんとは年が近いわけだし」

 「あぁ、それは名案ですな。候があの方とご結婚なされれば、服のデザインについての話をする機会も多く持てましょう」

 銘々(めいめい)自分勝手に意見を述べる。

 「確かに、それは有りな気がしますね。グラフ様が先手を打って彼女に結婚を申し込めば、ヴァーラント卿は手出しが出来なくなります。どうせ身分差を理由に断ってくるでしょうから、お断りの話しが来るまでの間に何か対策を立てればいいでしょう」

 「ふむ……」

 「私としてはぜひあの方と繋がりを持ちたいのですが……」

 「別に、身内にならんでもお嬢さんと仲良くなる手段はあるでしょ、結婚にこだわる必要はないと思うけどねぇ。まぁでも、候が面白かったからそのまま結婚ってのもありだろうけど」

 「全く、貴方方は……」

 伯父上が集めた人材だからか、灰汁の強い人だらけだ。

 「正直な話、今は頭が回らぬ。混乱、しているのだ」

 私が願っているのは、ただ彼女が幸せであること。それだけだ。アルガと言う男が、その真心をミーレリリー嬢に捧げるのなら、幸せになれるのではないか?

 しがらみの多い、変人侯爵に……私なんかに――

 「何を考えているのかわかりませんがね、あのままでは彼女、不幸になると思いますよ」

 アムイが断定する。

 「……何故だ?」

 「私はずぅっと彼女を見てきましたけどね。自愛に満ちた子ですよ。中央の知り合いに資料を見せてもらったのですが、ジャパーン国と言う国の出身だそうです」

 「それは、以前聞いたが……」

 「えぇ、ジャパーン人は往々にして努力家で、機微に聡く、調和を愛する国民性を持っているそうです。それ故に自己を主張することはあまりなく、相手に合わせることが多いそうです。なんと、合わせすぎて死んでしまうこともあるそうで」

 「死っ……!?」

 「えぇ、わーかーほいっくとか言う状態に陥ると、体が弱って死んでしまうそうです」

 わーかーほいっく……いや、多分アムイが言いたかったのは『ワーカーホリック』か。

 ふと思い出す。私が学んでいた学園で、副長がいつもその言葉を学長に投げかけていた。

 「過労死、だな」

 「あぁ、そういう意味だったんですか。まぁ、なんかそういうことが多い国民性だそうで。実際彼女はいつも何か人の為に動いてましたしね。ま、それこそが彼女の美徳ですが……」

 そうだ。光り輝く太月の元、彼女はいつも人の為に動き、そして笑っていた。

 「その美徳がですね、アルガのとこに嫁いだら悪用されてしまうと思いますね。知ってるでしょう?ここ十年の衣装を爆発的に発展させたのが誰か……」

 彼女だ。

 「なんか、ヴァーラント卿出資でアルガが被服店を開くらしいですよ?」

 随分と簡単な図式だな、と思う。つまりアルガは彼女を見初めたのではなく、彼女の描き出す服の図案が欲しいのか。彼女が……デザインした服は貴族女性の間で爆発的に流行り、その図案を元に発展した。原点を作り出せる女を長期的に安く手に入れるには婚姻が一番、ということ、か。

 沸々と湧き出るのは怒りだった。


 夜も更けて、部下達も開放した別荘の部屋へと下がった。

 ゆらゆらと燃える蝋燭の炎はいつの間にか幽かなものになっていた。重厚なカーテンで閉じられた静かな部屋に、グラスの中の氷が溶けてカランと音が響いた。

 私に出来ることは何か。一人になってからずっと考えていた。彼女の人生に直接的に関わるつもりはないのだ。もしもアムイの提案に乗ったらどうなる?伸びやかな彼女が変人侯爵の妻になって苦しい思いをするのではないか?

 王家に敵視されていると噂の流れる侯爵家だ。ヴァルナトを匿っていると、いや……怪しい実験の為に飼っているなんていう見下げ果てた噂まで流れている。

 馬鹿げた噂、怒りに震えない訳ではない。

 それでも、貴族としての当家にその噂を払拭するような力はない。変人侯爵が喚きたて噂を否定すればどうなる?返って信憑性が高いと言われるのが目に見えている。

 だから私は、決して王都には近寄らぬことで敵意がないことを示し、エレースを柔らかな鳥篭に閉じ込めているのだ。

 心の内で窘める声は勿論存在する。


 ――フィオ、君は怖がってるだけじゃないか

 彼女の為に変わろうって誓ったのに『ボク』みたいに怯えて自分の世界に閉じこもってるだけじゃないか――


 樺茶かばちゃ色の目をした小さな子供が震えながら問い掛ける声が、確かに聞こえる。

 それも事実かもしれない。緩やかに手に入れた鳥篭の中の今の幸福と、貴族に対峙してでも空を飛ぶ自由を天秤にかけている。

 傷付くのが怖くないとは言わない。けれど私が一番恐れているのは傷付けることで、私が何か行動を起こすことによって辛い目に合う人が必ず出てくる。

 それが怖い。

 だから、<もしかしたら>に縋りたくなるのだ。

 もしかしたら、アルガはミーレリリー嬢を本当に愛しているのかもしれない。もしかしたら、生き生きと彼女らしく生きていける場所を作る為に事業を展開しようとしているのかもしれない……

 その<もしかしたら>が、あまりにも滑稽な仮定だと言うことに、気付いているのに。

 私は、やはり自分が傷付きたくないだけなのかもしれない……


 「あーあ、ぐーるぐるに悩んじゃってますねぇ」

 一人掛けのソファに巨体を納めていた私に、別荘の一室に下がっていたはずのアムイが声を掛けてきた。

 「もう、おやすみになられたら如何ですか?」

 「私は…もう、少し……起きています」


 アムイは何も言わず、静かに退室した。

転生チートな理由って、日本語英語デザインとかホールとか使えるからだよね。

異世界との違いを解説出来るからだよね。

ドレスって言葉は現示者から伝わったってことにしとこう。ね?


フェッゾが何かは決めてません。リリーの様子を見るに、美味しいようです。

フォンアルクはショートケーキのことです。どうやらフォン=ケーキのようです。

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