008 堂々、またはほんわり、時にへたれ、所によりどえ…っえ!?
2013/04/28 微修正。
嵐のように可愛い子が去って、ちょっと空間を持て余しています。
妙に恥ずかしいのは私だけでしょうか。
「ありがとう……」
「…へっ?」
まったく予想しなかった言葉にうっかり、間の抜けた声が出ました。
「エレースのことです。あの子は、私の従姉妹にあたる人の娘で……いや、この話はまたいずれにしましょう。とにかく礼を言います」
そう言って、熊さんは私を見つめます。
「ありがとう、リリー」
ひげもじゃなのに!なんかカッコいいです!なんか困る!
「あ、いや、いいのいいの!可愛いって思ったのは事実だし、仲良くなりたいのもホント!それに、さっきも言ったけど、私のいた国じゃ…日本って言うんだけどね、本当にみんな黒髪だったんだわ。だから、私は全然、そういうの抵抗無いっていうか、むしろ日本じゃ髪染めるのが流行って、あ、私もちょっと染めてみたいなーとか思ったりしたこともあったけど、黒髪っていいと思うんだ!えっと、みどりの黒髪って言って……」
「リリー」
「あ、え、な、なに?」
なんでか慌ててしまう私の取り留めの無い話を、優しい声が遮る。そして、ふふっと柔らかな笑いが聞こえた。なんかどきっとするぅ!
「いいですね、こういうの」
「え…っと……?」
「貴女の話し方です。さっきのように、お嬢様然とした話し方よりいいです」
「あっ……」
どうにかこうにか可愛子ちゃんの心を開くことに躍起になってて、自分から猫剥がしちゃったんだった!
「申し訳ありませんっ!私ったらはしたない……」
「そんなことありません。私は、ありのままの貴女を見て、ありのままの貴女と愛を育みたいと思います」
そっと、熊さんが右手で、私の頬に触れる。
ぎゃああああああああ!!!!なんか恥ずかしいぃいいいいいいいいい!!!!!!
へたれどこに消えた!へたれを返せ!やめろぉおお!熱い目でみないでぇえええええ!!!
「そ、そういうフィオ様こそ、執事さんがいた時の喋り方と今は違うですよ!」
……だめだ…言語機能が麻痺してる…………ですよってなんだよ、ですよって……
「あぁー……、今が私の素ですね。我がリヒティエリュート家は侯爵の爵位を頂いていますから、普段は格式ばらねばならないんです。あ、いや、今後は貴女もですね」
ぉぉぅ、そうですよね。私もでした。にこっと笑われて、引きつった笑みを浮かべてしまいます。
「窮屈な思いをさせると思いますが、それでも私と……」
笑顔から一転、少し苦しそうに顔を歪める熊さんです。
「あぁ、もう!大丈夫です!確かに家はほぼ農民な、なんちゃって貴族でしたけど、ちゃんと頑張りますから!ちゃんと良い妻してみせますよ!」
「……ありがとうございます、リリー。初めは大変なことも多いでしょうが、よろしくお願いします」
再度にっこり笑う熊さんに、「こちらこそ」と言いつつ、私は照れ照れお辞儀を返す。
「ゆっくり、夫婦になっていきましょう」
なんて言われれば、あぁ、この人とだったらずっと幸せに暮らせそうだななんて思ったり……
「それで、熊さんとはなんです?」
思っ…?……思っ…あれ!?なんか笑顔がサドいよ!?!?!?
やっぱり原色組みは度し難いです……色が濃い分、うちの両親より大変な気がします。
熊さんは「堂々、またはほんわり、時にへたれ、所によりドS」でした……
必死に言い訳しましたよ!
「いや、あのですね、ほら、フィオ様って背が高いから、それに茶色なイメージだし、おひげもフサフサで、いやね、元の世界にはテディベアってぬいぐるみがあって、要するに熊のぬいぐるみなんですが、可愛いんですよ!そう、可愛いんです!だから、熊さんも、別に悪意あってフィオ様なんじゃなくて、なんか可愛いなーって、その、ね!?」
なんて、必死になったら、「可愛いですかぁ」とかのんびり言われて逆にヒヤッてしたよ!?しまいにゃ「では、今後は私のことを熊さんと呼んで下さい」なんて言われてほんと、焦りましたよ!?
でも、結局サドっぽく感じたのは、私の勘違いなのか、熊さんはなんだか、おかしそうに笑って、「貴女が呼んで下さるなら、どんな呼ばれ方でも嬉しいんですよ」って言ってくれました。
サドいんじゃないんだよね!?サドいんじゃないんだよね!?
疑心暗鬼になる私に熊さんはもう一度優しく笑いかけると、「じゃあ、私が熊さんで、貴女が猫さんというのはどうでしょう」とか言い出しました。
なぜ猫!!どう考えても私は猫っぽい性格ではありません!むしろ猫っぽいのは、過去世の私の親友です!もう、原色の思考回路理解できないっ!!
なんて、大混乱している私をよそに、熊さんはにこやかに席を立つと、「朝食でお会いしましょう、猫さん」と言い残して、部屋を出て行きました。
サドいんじゃないんだよねぇ……!?
朝食です……。
あの後、大混乱の私でしたが、やってきたメイドさんたちにさっさか着替えさせられて、ダイニングに引っ張られました。
取りあえず、ダイニング馬鹿デカイです。縦方向に十人くらい座れるドでかいテーブルがデデンと鎮座してるんだから、広いのも納得です。でも上座に熊さん、その右隣に私で左にエレースちゃんと、テーブルが全く使いきれていません。これ最大二十二人座れるよね?しかも余裕で。
後、召使さんの数多過ぎです。侯爵は伊達ではありません。今だけで、八人待機しています。可哀相だから、せめて座らせてあげてって思いますが、それも召使さん、もとい使用人さんたちのお仕事だと思うと何も言えません。総勢で二十人を超えているそうです。ちなみにメイドさん達を統べるのは私の仕事らしいですが、そんなこと出来る気が…あぁ、いや、頑張ります。家令のおじいちゃんの名前はセンティエさんと言うそうです。セ繋がりでセバスチャンとか呼んでみたいです。多分、ぽかんとされるのでやめておきます。
思考回路がショート寸前どころか、ショートしたままです。
ちなみにマイエンジェルエレースちゃんは、不機嫌顔で、フォンリッタを食べています。名前が違うだけでホットケーキです。幸せそうな顔になる度に、はっ!と気付いて、不機嫌顔に戻ります。ハゲ可愛いです。コルコア飲んで幸せそうな顔になります。んで、やっぱりはっ!ってなって顔を顰めます。私、エレースちゃんには暫く触れないことを決意しました。うっかり抱きしめ殺してしまいそうなほど可愛いです。あ、コルコアはまんまココアです。多分、訛りの強い現示者が広めたとかでしょう。
熊さんは、威厳たっぷりです。朝に私を見て逃げ出した面影はどこにもありません。
「どうしたリリー、食が進まないようだが」
ひげもじゃで、厳ついです。やっぱりみんなの前では猫さんとか言わないようです。
「胸がいっぱいで……」
私も、お嬢様っぽく対応します。こんな状況でも、猫はばっちりです。正直頭がショートしてて、脳と体がうまく信号を通せていないだけです。お腹は空いています。
「おねぇちゃまは、しあわせだもんね!」
ぷんすかって擬音がぴったりくる声で、エレースちゃんが皮肉ります。今時の四歳児は侮れません。言葉が達者過ぎて驚きます。私が過去世で四歳の頃、もっと馬鹿だったと思います。エレースちゃん可愛いです。
はっ!猫さんって猫被りの猫か!!だからか!!!
やっと判明したとたん、頭が回りだしたよ!!!やっぱり、熊さんはちょっとSっ気あるんだよ!まったく!
「食欲がないのなら、後で何か運ばせるが……」
「いいえ、フィオ様、私は大丈夫ですわ。こんなに美味しそうなのに、私ったらぽーっとしてしまって……」
なんていいつつナイフとフォークを手に取ります。ちなみに、エレースちゃんはフォンリッタですが、熊さんと私は、王都で一般的なブレックファーストです。
オニオンスープに、サラダと、卵は茹でか、スクランブルか、サニーサイドかを選びます。あ、ターンオーバー忘れてた。お肉はベーコンか、カルビ?の薄切りです。腸詰めの文化がないので、ソーセージは存在しません。パンは五種類くらいから選びます。後は、紅茶かコーヒー(それぞれ、この世界風の呼び名があるけど、めんどいので現バージョンで進行させて頂きます)を選びます。
そんな感じの朝からもっさりご飯です。美味いです。ただ、無類の米好きとしては、朝は味噌汁にお漬物と米があれば幸せです。納豆食いてぇ……
なんて考えていたら、完食しそうになってました。いけね、食い過ぎ注意。まぁ、パン一個しか手に取ってないから、完食しても問題はないだろう。熊さん三個食ってっし。貴族のお嬢様、奥様は小食が基本です。その代わり、自分の部屋でもっさり、サンドイッチ的なものを食います。見かけだけなら、ちゃんと朝昼晩食べればいいじゃん!貴族の世界は難儀です……
そんなこんなで朝食が終わり、エレースちゃんは教育係に引っ張っていかれました。ちなみに、私たちは絶賛ハネムーン中なので、今日からリヒティエリュート家所有の別荘で過ごします。本当は二、三日お屋敷でゆっくりしてから、さらにゆっくりする為に別荘。だったのですが、初夜無かったおかげで新婦が元気!じゃあ別荘行っちゃおうぜ!見たいな事らしいです。熊さんの性格が把握出来ません。
使用人さんたちが忙しなく準備をしてくれています。正直手伝いたくてウズウズするのですが、手伝っちゃ駄目だって!お仕事盗っちゃいけないんだよね!しょうがないので、熊さんと和やかにお茶飲んでます。
そうそう、私たちが別荘に行くことになったことをエレースちゃんに告げると、「かってにしてよ!」って言われました。正直、溝を埋める為にも一緒に連れて行きたいのですが、家令さんに駄目って言われました。家令さんは、結婚式の準備進行で大変お疲れだったのに、昨日の晩から朝方まで熊さんに従って私の部屋の前で眠い目こすってフラフラする羽目になったわけで、さっさと私の部屋に熊さんが入ってこれる関係になって欲しいそうです。こっそり言われました。ほんと、すんません……あぁ、家令さんとメイド長(侍女頭って言うらしいです)さんだけは熊さんのへたれっぷりを知っているそうです。
あ、準備が終わったようです。家令さんは、お屋敷の管理、メイド長さんは別荘に滞在中のお世話ということで、今後絡みが出てきそうです。メイド長さんとは朝食の時に顔を合わせただけなので、ちょっとドキドキです。
それでは、オチも何も無く行ってきます!
たまーに出てくる過去世の親友は、交通事故に合いかけた所をリリーに助けられ、現で平和に暮らしています。
リリーが生涯で一番の親友です。彼女はお医者さんになりました。




