非実在
Twitterでなんとなく書いたもの。番号はツイート順です。
1.
人影もまばらな夜の街。その中にあって眩しい白光をばらまくコンビニに、一人の若者の姿があった。
彼はコピー機に向かい、一心不乱に書類をコピーしている。
彼以外に客はおらず、店員すらいない。しかし、監視カメラだけは彼の行動を見ていた。
2.
「ちょっと、君」
「は、はい、なんでしょうか?」
若者に声を掛けたのは、白ひげを生やした老年の警察官だった。カメラからの通報を受けて来たらしい。
「その紙を見せてもらえるかな」
「いえ、これはその、ご覧になるほどのものではないので」
3.
「見せなさい」
警察官の有無を言わせぬ口調に若者は屈し、手にした書類を渡した。
そこに描かれていたのは漫画だった。精緻に書きこまれたその漫画には、荒廃したスラム街で盗みを働く少年の姿が描かれていた。
4.
「これは……いかんな」
「どうか、見逃していただけないでしょうか」
若者は懇願したが、警察官は答えの代わりに手錠を取りだした。
「非実在人物への窃盗は重罪だよ、君」
5.
パトカーで護送される途中、若者は路上で殴り合う二人の人物を見かけた。
「お巡りさん、喧嘩ですよ」
警察官は外を見ようともせず、呆れたように言った。
6.
「実在人物の喧嘩を罰する法律なんて、もうなくなったよ。実在人物の数は、今や非実在人物の千分の一だ。ほとんどいないものに対する規制なんて馬鹿馬鹿しい」
パトカーの静かな走行音が、人影もまばらな夜の都心に響いていた。