第21話 銀の小鹿亭の夕食
ユウマは部屋のベッドから立ち上がった。
「そういえば夕食付きって言ってたよな」
さっき階段を上がってきたとき。
かなりいい匂いがしていた。
腹も減っている。
森で戦いっぱなしだった。
「下に行けばいいのかな」
ユウマは部屋を出て階段を降りた。
一階は食堂になっていた。
木のテーブルが並び、
ランタンの灯りが柔らかく揺れている。
冒険者らしき男達が
酒を飲みながら笑っていた。
「今日はウルフ三匹だぜ!」
「お前また嘘だろ!」
ガヤガヤした雰囲気。
だが不思議と落ち着く。
ユウマがキョロキョロしていると
カウンターの奥から宿の主人が声をかけてきた。
「お、兄ちゃん。泊まり客だな?」
「あ、はい」
「夕飯だろ?」
「そうです」
主人はニヤッと笑った。
「今日は当たりだぞ」
「当たり?」
「オーク肉が手に入った」
「オーク!?」
ユウマは思わず声を上げた。
森で遭遇したあの魔物。
大きくて筋肉の塊みたいなやつだ。
主人は笑う。
「心配すんな。ちゃんと料理すりゃあ最高の肉だ」
そう言って厨房の方へ声をかけた。
「おーい!一人前追加だ!」
奥から元気な声が返ってくる。
「はーい!」
しばらくすると。
皿が運ばれてきた。
テーブルに置かれた瞬間――
ジュウウゥ……
いい音がした。
「おお……」
ユウマは思わず声を漏らした。
皿の上には
厚く切られた肉。
こんがり焼けている。
表面は香ばしい焼き色。
肉汁がじわっと溢れている。
上には刻んだ香草。
横には
焼いた野菜。
人参。
玉ねぎ。
そして丸い芋。
さらに黒パン。
そしてスープ。
「これが……オーク肉」
主人が腕を組む。
「オークステーキだ」
「ステーキ!?」
ユウマはナイフとフォークを手に取った。
恐る恐る肉を切る。
スッ。
「柔らかい……」
ナイフが簡単に入った。
中はほんのり赤い。
肉汁が溢れる。
ユウマは一口食べた。
「……!!」
思わず目を見開く。
「うまっ……!」
めちゃくちゃ美味い。
豚肉に近い。
だがもっと濃い。
旨味が強い。
噛むと肉汁が口いっぱいに広がる。
香草の香りが
さらに味を引き立てている。
「これオークなのか……」
森で見たあの魔物。
あれがこんな美味いとは。
主人が笑った。
「だろ?」
「オーク肉は高級なんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。強い魔物だからな」
ユウマはもう一口食べる。
ジュワッ。
肉汁が溢れる。
焼いた玉ねぎも甘い。
芋もホクホクだ。
黒パンをスープにつける。
これも美味い。
「最高だな……」
森での疲れが一気に抜けていく。
ふと周りを見る。
冒険者達も
肉料理を食べながら酒を飲んでいる。
笑い声。
皿の音。
温かい空気。
(なんかいいな……)
この世界。
最初は怖かった。
ゴブリン。
フォレストウルフ。
オーク。
命がかかっている。
だが――
こういう時間もある。
「うまい飯が食えるなら悪くないな」
ユウマは笑った。
その時だった。
隣の席の冒険者が話しているのが聞こえた。
「聞いたか?」
「何を?」
「森の奥だよ」
「フォレストウルフの群れ」
「なんかおかしいらしい」
ユウマは手を止めた。
冒険者が続ける。
「群れのボスが出たって話だ」
「マジか?」
「アルファウルフだよ」
ユウマの背中に
少し冷たいものが走った。
(やっぱり……)
あの気配。
間違いじゃなかった。
森の奥では
何かが起きている。
ユウマはステーキを食べながら
静かに考えていた。
「明日は……」
森へ行くか。
それとも
別の依頼にするか。
窓の外では
夜の街の灯りが揺れていた。
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