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灰色天使と白い天使

作者: 木村屋珈琲
掲載日:2026/03/02

 天空の神殿は、光を含んだ雲の神殿であり、神の子供達である天使達が、白い羽を広げ飛び回り、「継承の儀式」の準備の為 神の座る大座を整えたり、光の珠で飾る仕事をしながら笑い合う声で溢れていた。


小天使から大人の天使全てが、式典の準備に忙しく動き回る中、壁に寄りかかり灰色の羽に灰色の髪の毛を頭頂部に結い、人間界で見付けたみすぼらしいデニムの短パンを履いた15才のモノはいつも以上に目立っていた。「モノ様あ、今日も羽根の色は戻さないのですかぁ?」弟身分の小天使が甘えるように、モノの背中の大きな羽にくるまった。「いいの!僕は身も心もこの色だから!」モノは口を尖らせ答えた。「父上の世継ぎはサイファに決まっているんだ」何につけても不服そうな表情と、自分の体の形も色も自由に変化出来るのに、モノは天使としてふさわしく無い姿で居た。モノは小天使達の手伝いもせず、いつも通り腕を頭の後ろに組んで壁に寄りかかっていた。大人の天使はけげんな表情でモノを見たり咳払いをして通り過ぎていく。

「やあ、モノ。今日は父上に会えるね。嬉しいよ」サイファは、モノと同じ日に光の蓮から生まれ出た天使だが、モノとは真反対の見た目で、正しく規律を守り従順な正統派天使であった。今日は人間界で見付けた白いスーツをまとい、くるくるとした金髪に、白に輝く羽を広げて父上であるゼウスが座る大座の前に立った。


間もなく大座の光が大きくなり「地球の父」である神、ゼウスが現れた。ゼウスは長い髪の毛と髭をたくわえ優しい眼差しを子供達に向けて現れた。神殿中の小天使から、大人の天使達が集合し喜びに眼を輝かせた。


 ゼウスは言った。「愛しい我が子共達、天使達よ、世継ぎの式典に集まってくれてありがとう。私はこの日を千年待った。早速始めよう。後継者に推薦された2人よ、前へ!!」

サイファが、背筋を伸ばして前に出た。彼は会場の天使の推薦を全てに受けていた。そしてもう一人は、1つの票だけ入ったモノであり、モノも嫌々サイファの隣りに並んだ。周りの大人天使からは、サイファへの期待の眼差しが集中していた。


 ゼウスは愛おしそうに2人を見詰めた。「それでは1年前に提示した2つのテストを見て行こう。先ずは2人に作らせた、生け花を見せてくれ」

ゼウスの言葉に天使達がそれぞれの作品を持って来た。サイファの前には、日本の伝統である「盆栽」の松の木が置かれた。それは見事に枝と葉のバランスが取られ、雄雄として厳かで美しかった。天使達は称賛の溜息を洩らした。

モノの前には、揺ら揺ら動くコスモスの花は美しいが、地面から、シャベルごと、ごっそり土と根ごと掘り上げてバケツに乗せただけの物が置かれた。作品とは言い難い代物だった。天使達の顔は、ゼウスが不機嫌に成らないかとハラハラしていた。

ゼウスは、2つの作品をじっくり眺め、噛みしめるようにうなづきながら見詰めていた。

しばらくしてゼウスが声をあげた。「よし、それでは、私が提示した、地球に住む人間に対して2人が行った行動をそれぞれ報告してくれ」

大人の天使が2人出て来て空中に、大きな水晶玉を出現させた。そこには、ロシア人の18歳の盲目の少女が映し出された。彼女は生まれつき全盲で、赤ん坊の時は仲の良かった両親だったが、彼女が全盲だと分かると夫婦は悲しさと戸惑いから言い争うように成り、父親は家を出た。38歳の母親は農業をしながら娘を育て点字を教える家庭教師を呼び、自給自足で細々と暮らしていた。ゼウスが提示したテスト内容は娘に会いに行き、天使としての愛の行いをするようにというものであった。

「先ずは、サイファの行動を報告致します」大人天使が声をあげた。「サイファは、娘とその母親の夢である、全盲を治し、互いの顔を見る事を可能にしました。親子は奇跡が起きたと、喜びの涙を流し抱き合っておりました」会場も喜びの空気に包まれた。


「次にモノですが・・・」大人天使の声が、くぐもった。


「何もしませんでした」


会場がざわめき始めた。

「モノは、娘に声を掛け、叶えたい希望を聞き出しました。その上で、何もしませんでした」会場から、落胆の声があがった。非難とも取れる声だった。

サイファは、心配そうに兄弟であるモノを見た。モノはその時、不貞腐れる表情というより、悲しそうにうつむいていた。


 ゼウスは、同じくモノを見詰めた。そして立ち上がった。

 「慈悲深い天使達よ、聞いて欲しい。実は、今日は継承者を選ぶ日では無い。継承者は既に決まっていたのだ。今日はそれを公表する場であったのだ。」

会場がどよめいた。しかしその後 静かに耳を傾けた。


ゼウスは言った。


「次の継承者は、モノである」 


「何ですって!?」

会場は驚きの声で溢れ返った。サイファも驚いてモノを見た。モノは驚いた様子も無く、下を向いている。不安な表情を浮かべて・・・。


 「静粛に。黙っていて悪かった。」ゼウスは言った。「天使の寿命は、約百年だが、後継者の寿命は約千年だ。それは生まれつき決まっていた。モノの寿命は私と同じなのだ」ゼウスは、冷たい視線からかばうようにモノに近付き、肩を抱き寄せた。そして続けた。

「例えるならば、地球に生存する、蟻という生物が居るだろう。蟻は、女王蟻が居て、一匹の女王蟻が卵を産み続け、子供達は女王蟻を守りながらそれぞれの役目を果たしながら生活していく。モノは千年の寿命を持ってして生まれた。1年前、私が2つの課題を提示し、天使全員が投票したサイファの行動とモノの行動を比較させる事により、モノへの理解を皆に貰いたかったのだ。モノに投票したのは、この私だ」


ゼウスは、サイファも抱き寄せ、壇上に2人を連れて雲の椅子に座らせた。そして続けた。

「初代の神は、地球という生命体を作り、命を育むように作った。そして愛を持って育むように。その証拠に人間は、生まれ出でた時、親、もしくは他人が愛情を込め、話し掛けてやらないと互いの視線を合わす事も出来ず、会話する機能も発達しないように出来ている。これを見てくれ」ゼウスは水晶に、産まれてから親の病気やネグレクトのせいで、数ヶ月に渡りほぼ放置状態に合った子供達を養護する施設を映し出した。そこには、生後8ヶ月を越えてもボランティアの育児師に抱かれながらも、視線が空を泳ぎ、哺乳瓶を含めない子供達が映し出されて居た。「人間は我々に近く似ていて感情移入し易い生物だ。人間同士は言語が違えば会話は難しいが、天使は人間の言葉や意思を理解出来るし、病気や怪我を治したり、彼等の前で姿を見せたり消したりする事が出来る。人間から見たら魔法使いだ」少しゼウスはニコリと笑った。「しかしモノには、人間の他に、全ての命の声が聞こえ意思や感情が聴こえるのだ。私が提示したテストの生け花を見てくれ。」


天使達は、改めてモノのコスモスを見詰めた。ゼウスが言う。「モノは、草花が刈られる時の悲鳴や嘆きが、人間のものと同じように聴こえるのだ。だから根ごと掘り上げる事を選ばざるを得ない。花々から「私を摘んで、綺麗でしょ、香りを嗅いで」とせがまれる事も有るがな」ゼウスは、サイファの松の木に目を移した。

「盆栽は、小苗に添え木をし、成長に合わせ、創りたい形に成るよう、枝の生え方を強制して行く。不要な枝や葉は、切り落としたりもする。サイファはしなかったが、人間は、思い通りの見立てにする為に、針金を木の枝や幹にグルグル巻き付け、絞りあげて作る。モノへは、草木からの悲鳴や非難が直に聴こえるのだ。だから、生け花も盆栽も出来ない。

しかしゼウスが、サイファの松の木に耳を近付け言った。

「お!この松がな、サイファが自分を作った。私は立派だろう、よく見ろ」と私に訴え続けているよ」そうサイファに伝えてウィンクした。


「そして、2つ目のテストだ。」ゼウスは、水晶に手を充て、ロシアの少女を映し出した。そこには、目が見えるように成り、母と娘で楽しそうに夕食を作る、幸せそうな家庭が映し出された。しかし、ゼウスの目からは、悲壮感が浮かんでいた。


「少女は、家庭教師のある男性教師に恋心を持っていた。しかし、男性教師は、彼女の母親と恋人関係にあった。」

そう聴いて、サイファが驚きの表情を見せた。「この後、少女は嫌でもそれを知る事に成る。そして失恋した少女は、母親を恨み、家を出て行くのだ。生物の感情の他、数年先の未来が見えるモノには、それが見えた為、盲目である事を治す選択に踏み込め無かったのだ。」

ゼウスは、そう言うと下を向いたままのモノに向い、話し出した。モノは不安そうな瞳で、父の顔を見た。「モノは、まだ15歳。これから、成長と共にもっと先の未来が見えるように成り、自然の言葉・・風の囁き、炎の怒号、分子の結合音、そして、天使である我等の感情も聴こえ、知り得るように成る。辛い時、耳を塞ぐ事は出来るがな」


「・・父上・・」


モノが声を振り絞って呼び、泣いた。 


「ありがとう。そうだよ。ずっと君と同じように、自然の声や、周りの声を聞いて、苦しかったさ。同情してくれて、ありがとう」


周囲の天使達は、理解した。そこにはモノへの批判的な空気は無く、むしろ憐れみと慈しみの空気に変化していた。

ゼウスは言った。「神は、命の為に存在しなければ成らない。太陽の光、引力と同じ存在だからだ。神が居なくなれば地球の生命体も消滅してしまう」

ゼウスは、サイファの顔を見詰めた。「サイファ、君はずっと、モノを心配していたね。そして、父である、私を想い、後継者に成り、支えようという気持ちで居てくれた。君の深い愛情は、ずっと感じていたよ。でも、真実を知った今日から、モノを今まで以上に支えて欲しいんだ。この場に居る、全員にも同じ事を願う」

サイファはキリッとした表情を戻し、大きく頷いた。そして、モノに向かって話し出した。

「モノ、今までだって、これからだって、ずっと大好きだよ。僕に出来る事があったら、遠慮なく言って欲しい。僕はね、大好きな仲間や、父上の力に成って支えたいんだ。父上の後継者に成りたい訳じゃないんだ。・・こんな事、言わなくても、モノには分かってるよね」照れながら、サイファは言った。


喜びの涙が、モノの瞳から溢れ出した。

モノは知った。

理解者が出来た事。そして、今までも、理解者が居た事を。










 






 





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