第47話 光剣の輝きと迫る影
朝の訓練場に再び緊張が走っていた。
昨日と同じ布陣で立つ団長たち。その前に並ぶリオたちは、昨日とは違う決意を瞳に宿している。
「昨日の借り、今日返せるか見ものだな」
レオンの声が重く響く。
「絶対に昨日より強くなってみせる!」
リオは新たに腰へ差した剣――ライトブリンガーを握りしめ、力強く答えた。
模擬戦の合図が響く。
リオは真っ先に駆け出した。
刃を振り抜くと、青白い光の軌跡が空を裂き、自然と光精霊魔法の力が乗る。
昨日とは明らかに違う重みと速さ。レオンが剣で受け止めた瞬間、わずかに押し返される。
「……ほう」
レオンの目が細まる。
ファルトも負けじと突撃し、銀色のオーラをまとう一撃でカイルを押し下げる。
よろめいたカイルに、ミラがすかさず詠唱を紡いだ。
「逃がさない……《ファイアランス》!」
轟音とともに炎の槍が奔り、一直線にカイルへ迫る。
カイルは咄嗟に剣を振り抜き、火花を散らして軌道を逸らしたが、衝撃でさらに数歩後退する。
熱気が頬をかすめ、眉がぴくりと動いた。
「くっ……昨日よりも、連携が速い!」
クラヴィスがにやりと笑い、両手に炎と石の魔力を同時に溜めはじめた。
「さて、のぅ……今度はどう受ける?」
轟々と渦巻く二重詠唱。その瞬間、セフィーナが一歩前に出て声を張る。
「そんなの、させないわ!――《ウィンドウォール》!」
巨大な風の壁が立ち上がり、炎と石の奔流を正面から受け止めた。
轟音と砂塵が訓練場を揺らすが、仲間たちの体はしっかり守られる。
「みんな、今のうちに……!」
セフィーナの声に、リオはすぐさま視線を合わせ、アストルとアネリアに合図を送る。
――だが、クラヴィスは笑みを崩さない。
「風で押し返すか。だが、まだ終わらんぞ」
隣に立つセレオスが静かに祈りの言葉を紡ぐ。
「――《マイトマジック》」
クラヴィスの全身を淡い光が包み、魔力が一気に膨れ上がった。
「ありがたいのぅ! では――《フレア》!」
轟きとともに炎が爆ぜ、訓練場一帯を包み込むほどの業火が放たれる。
熱風が襲いかかり、リオは思わず目を細めた。
「うわっ、やばい!」
ミラが叫び、セフィーナも防ぎきれぬ炎の圧力に唇を噛む。
そのとき、アストルがリオの肩を叩いた。
「リオ! その剣だったらできると思う! ――切っちゃえ!」
「えっ……炎を、斬る!?」
「うん! やってみよー!」
リオは大きく息を吸い込み、ライトブリンガーを構えた。
青白い光が刃に宿る。それはただの輝きではない。
――光精霊魔法そのものが剣に融合した、“魔法を斬り裂ける属性剣”。
炎の奔流を前にしても、不思議と恐怖はなく、確信だけがあった。
「斬れる……!」
リオは渾身の力で振り抜いた。
――ゴォッ!
炎の奔流が裂かれ、二つに割れて左右へ吹き飛んだ。
訓練場に驚きの声が響く。
「まさか……炎を斬り裂いた、だと……?」
カイルが目を見開き、セレオスでさえ表情を動かす。
クラヴィスはわずかに沈黙したのち、低く笑った。
「……これは面白い。光の導き手、底が知れんのぅ」
リオはすぐにセフィーナと視線を交わし、再び合図を送った。
アストルとアネリアも頷き、四人は魔力を束ねる。
「いくよ!」
「うん、任せて!」
アストルが光の魔力を、アネリアとセフィーナが風の精霊魔法を重ねる。
リオはライトブリンガーを掲げ、全ての魔力を束ねた。
四人の魔力が渦を巻き、轟音とともに解き放たれる。
「ライジングストーム!」
稲妻を帯びた暴風が訓練場を切り裂き、轟雷とともにセレオスへ直撃する。
《ディバインシールド》が砕け散り、セレオスが思わず後退した。
「なっ……!?」
クラヴィスも即座に《マジックシールド》を展開して衝撃を防ぐ。
しかし、初めて後手に回ったその姿に、場の空気が大きく揺らいだ。
「……これは、やるのぅ」
クラヴィスの声音にわずかな焦りが混じる。
レオンが一歩、ゆるやかに前へ出た。
その剣身に銀のオーラが凝縮し、眩い輝きが刃を走る。
空気が震え、訓練場全体が張り詰めた。
「よく見ておけ――これが《オーラ・スラッシュ》だ!」
剣が振り下ろされた瞬間、銀光が奔り、空そのものが裂けるような轟音が響き渡った。
リオはライトブリンガーで受け止めたが、膝が沈み、耐えきれず吹き飛ばされる。
地面に膝をつき、息を切らすリオ。
それでも昨日のような無力感はなく、確かな手応えを胸に刻んでいた。
レオンが剣を収め、戦いの終わりを告げる。
「ここまでとは思わなかったぞ。昨日とはまるで別人だ」
カイルも頷きながら、リオを見やった。
「剣の扱い、見違えたな。昨日まではただ振っていただけだが、今日は“切り結んでいた”。」
クラヴィスは口の端を上げる。
「ふぉっふぉ、炎を斬り裂くとは……正直、驚かされたわ。光の導き手というのは伊達じゃないのぅ」
セレオスは静かな声音で、仲間全員へ目を向ける。
「防御も連携も、昨日と比べて格段に向上しています。特に……互いを信じて動く姿勢が素晴らしい」
それぞれの言葉に、リオたちは顔を見合わせ、小さく拳を握りしめた。
昨日の惨敗から一夜で、確かに前へ進めたことを実感する。
「今日はここまでだ。そして明日は休め。収穫祭だからな」
レオンの言葉に、仲間たちの顔が一斉に明るくなる。
「やったー!」「祭りだ!」
声を弾ませ、互いに笑い合うリオたち。
訓練場を後にすれば、王都の街路は祭りの準備で彩られていた。
旗が揺れ、花飾りが並び、人々の笑顔と笑い声が溢れる。
その光景に、リオも自然と笑みをこぼした。
――だが。
夕暮れが迫るころ、東の空に異変が起きた。
ドォン、と鈍い轟音が地を揺るがし、遠くの地平線から黒々とした煙が立ち上る。
それはただの煙ではなく、重く淀んだ瘴気を含んでいた。
祭りの飾りを揺らしていた風が、一瞬にして冷たく凍りつく。
「……瘴気……!?」
リオの顔が強張る。
東の方角に広がる影は、やがて王都全体を覆わんとしていた。
お読みいただきありがとうございます!
今回は新しい剣ライトブリンガーの真価と、仲間たちの連携強化を描きました。
セフィーナやアストルの支えで「炎を斬る」場面は書いていても楽しかったです。
次回は収穫祭――ですが、東の空には不穏な瘴気が……。
物語はさらに加速していきますので、ぜひお楽しみに!




