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第4話 少年は旅立つ、加護を胸に

東の空が白み始める頃、リオはそっと目を開けた。

重たい静寂が部屋を満たし、夜明け前の冷たい空気が、まだ窓辺に漂っていた。

静まり返った館の中、遠くでかすかに鳥の声が聞こえる。


昨夜は、緊張と疲れが入り混じり、リオも母サビアもすぐに眠りについてしまっていた。

王命によって王都へと召される──昨日の出来事が、まだ夢のように思えた。


そこへ、控えめに扉がノックされた。


「おはようございます。お召し替えのご用意ができました」


メイドの女性がきびきびとした動きで部屋に入り、丁寧に支度を整えていく。

リオは挨拶を返し、黙ってその後に続いた。


メイドに導かれ、リオとサビアは朝の身支度を整える。

用意されたのは、平民のものとしては十分すぎる衣服だった。

上質な麻布に、淡い藍色の刺繍が施された旅装束。

リオは慣れない服に戸惑いながらも、それを身にまとうことで気持ちを切り替えようとした。


支度を終えた二人は、ローデン侯の執務室へと案内された。


「早いな。よく眠れたか? 服も大丈夫みたいだな」


「はい。おかげさまで、ぐっすり眠れました」

リオがそう答えると、サビアもそっと微笑んで頭を下げた。

「身に余るご厚意、心より感謝いたします」


ローデン侯こと、ガリウス・ローデンは重厚な木の机の向こうで椅子に腰かけていた。

中年の壮健な男で、飾り気のない深緑の上衣を身にまとい、厳しくも温和な眼差しでふたりを迎えた。


彼は机の引き出しから、布に包まれた何かを取り出し、リオの前に差し出した。


「これは私が使っていたものだが、おまえに預けよう。

道中、剣を携えていた方が、無用な詮索を避けられることもある」


それは、使い込まれたが丁寧に手入れされたショートソードだった。

鍔にはローデン家の家紋が刻まれており、簡素ながらも気品を感じさせる一振り。


リオは驚きながらも両手でそれを受け取り、深く頭を下げた。


「ありがとうございます……大切にします」


「無理に使う必要はない。ただ、おまえも“導かれし者”として見られるようになる。

何事にも気を抜かぬように」


ローデンは静かに、だが力強くそう告げた。


館の正門では、すでに馬車の準備が整えられていた。

エルノ・バレスタは整った身なりで立っており、その傍らには、屈強な体格の男たちが二人立っていた。


「紹介しよう。彼らは私の護衛であり、王都まで同行してくれる私兵たちだ」


エルノは、細身の壮年の男性で、白髪を丁寧にまとめ、凛とした雰囲気を漂わせていた。


護衛の二人は、それぞれヴァルトとオルドと名乗った。

ヴァルトは短髪で鋭い眼光を持ち、オルドはやや面長で飄々とした表情をしている。

口元に自信の笑みを浮かべ、サビアとリオが頭を下げると、にかっと笑って「任せておけ」と心強い声を返した。


リオも小さな声で「よろしくお願いします」と告げ、

サビアも丁寧に護衛たちへ挨拶を返した。


ローデン侯は、館の階段の上から、その背を静かに見送っていた。

朝の陽がようやく昇りはじめ、旅立ちを祝うかのように、あたたかな光が石畳を照らしていた。


こうして、少年とその母は、王都フェルメリアへ向けて──新たな旅路の一歩を踏み出した。

2025/0707 文体を修正、会話を追加しました。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


第4話「旅立ちの朝」では、主人公リオがついに村を離れ、王都フェルメリアへの旅へと踏み出しました。これまで彼にとって当たり前だった日常が終わりを告げ、新たな運命の扉が開きます。


静かな朝の空気、慣れない衣服の感触、そしてローデン侯の剣を受け取ったときの緊張と覚悟。まだ少年であるリオの小さな一歩が、やがて大きな流れとなって物語を動かしていきます。


次回、第5話では、王都への道中や、リオが出会う新たな人物たちの姿を描いていきます。旅の中で、彼の心にどんな変化が訪れるのか──どうぞご期待ください。


もし物語に少しでも心惹かれる瞬間があったなら、ブックマークや感想をいただけると励みになります。


それでは、また次の章でお会いしましょう。

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