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第40話 再び訪れし牙の王

 かすかに耳へ届く笛の音。誰かの呼びかける声。そして、少し冷たくなった朝の空気が頬を撫でていた。


「ん……」


 リオはゆっくりと目を開けた。気がつけばテントの中。記憶を辿る──昨夜は、確か……初めて飲んだ酒で、気づけば意識を手放していた。


(誰かが運んでくれたのか……)


 寝袋を押しのけ、外に出る。朝の光に目を細めながら背伸びをしたその姿を見て、ミラがくすりと笑った。


「まだまだ、かわいいわね」


 リオは思わずむっとして目をそらす。恥ずかしさと共に、なんとも言えない安心感が胸に広がった。


 その後、朝食を取り終えると、隊全体で陣地の片付けに移った。ティナが、いつものようにせっせと動き回り、細やかな用意を進めてくれていた。リオたちが生活していた数日間の痕跡は、まるで最初から何もなかったかのように、あっという間に整えられていく。


 そして、出発の時が来た。


「全員、配置につけ!」


 カイルの号令が野営地に響く。殉職者の遺品は慎重に馬車へと収められ、それぞれが静かな決意を胸に抱いていた。


 第1部隊はリオ、ファルト、剣兵2名。第2部隊にエルバ教官と槍兵3名。第3部隊は弓兵4名で構成され、第4部隊はミラ、セフィーナ、魔法兵団2名、クレリック2名。そして第5部隊は今回をもって解体された。


 村の入口には、大きな荷を抱えたエルヴィンの姿があった。


「お、来たか」


 声をかけたのは、カイルだった。


「……王都に戻るの?」


 リオの問いに、エルヴィンは少し照れたように頭をかく。


「もともと好き勝手やって煙たがられてたが……今回の瘴気事件で、そんなこと言ってる場合じゃないって気づいてな。隠遁生活も終わりだ。


 それに──  リオ、お前らが頑張ってくれてるのは聞いてる。」」


 エルヴィンが王都に戻ってくれる──それが、リオにはなんとなく嬉しかった。


「うん、エルヴィンのおかげだよ。もらったポーション、前の戦闘ですごく役立った。ありがとう」


 リオの言葉に、エルヴィンは照れくさそうに鼻を鳴らした。


「ふふ……あなたの魔力回復ポーション、効き目が普通よりある気がするわ」


 ミラが言うと、セフィーナも頷いた。


「確かに。持続時間も長い気がします」


「まぁな……」


 エルヴィンは嬉しそうに頭をかいた。


 その言葉に、誰もがわずかに笑みを浮かべた。

 


ダリウスが「さぁ、行くぜー!」と陽気に声を上げ、馬のたずなを引いた。


かくして、一行はフォルン村を後にする。


 行軍は慎重に、だが確実に進んでいった。道中、何度か魔物の襲撃に遭ったが、リオたちは以前とは違っていた。ゴブリンキング戦を通じて得た経験と、確かなレベルアップ。


 それを見守っていたエルバ教官が、満足げに顎を撫でながら呟いた。

「一皮むけたな」


「リオー、すごいね今日も!」


 アストルの声が耳元で弾む。普段は目立たぬよう隠れているが、今日はずっと近くにいて、隠れながら耳元でささやいた。


 隣を歩くファルトの背中にも、かつての余裕とは違う、強い決意が滲んでいた。


(……誰も、死なせたくない)


 その想いが、前へと進む力になる。


 そして、かつて野営をした場所にたどり着いた頃、日が傾き始めていた。


「よし、前回と同じくここで野営する。設営を急げ」カイルが声を張った。


 準備が進む中、アストルがふと眉をひそめる。


「……なんか、嫌なにおいがする」


 その言葉と同時に──


「ぐあああああっ!」


 第1部隊でともにいた剣兵の叫び声が響いた。つづけざまにカイルの怒声が響いた。


「敵襲!全員、戦闘配置だ!」


 非戦闘員であるダリウス、ティナ、エルヴィンらが馬車へと駆け込む。リオは即座に判断を下した。


「《携帯型・魔物おかえりください 試作一号》、いけっ!」


 手のひらに魔力を集中し、小型の結界装置を馬車に向かって投げる。淡く光る魔方陣が広がり、馬車全体を包み込んだ。


 直後、森の奥から不気味な遠吠えが響いた。


「……何かがおかしい。あの吠え方、ただの群れだけじゃない!」


 フォレストウルフの群れが現れ、野営地を囲むように迫ってくる。


「前と同じ……いや、それ以上だ。王が来るぞ、警戒して!」


 リオが叫んだ、その声に仲間たちが一斉に武器を構える。


 そして、


 大地が震えた。


 それはただの足音ではなかった。獣とは思えぬほどの重厚な気配。血走る目をぎらつかせ、全身に闇のオーラをまとった巨体が現れた。


 前足──かつて切り落とされたはずのその部位は、銀色の義足となっていた。だが、それはただの金属ではない。禍々しい闇の魔力が渦巻いている。


「久しぶりだな、小僧。貴様に裂かれたこの足の恨み、貴様の臓物と引き換えに返してもらうぞ」


 その低く冷たい声に、周囲の空気が凍りついた。


 忘れもしない──母や、護衛だったファルトの父ヴァルトたちを切り裂いたその爪。


ふつふつと……怒りが、胸の奥から煮えたぎるように湧き上がる。リオは、もう抑えられなかった。


「こいつが……親父をぶっ飛ばしたやつか? こっちこそ借りを返してやるぜ!」


(絶対、なんとかしなきゃ……!)


 リオの胸に、静かに、しかし燃えるような決意が灯る。


 ファルトが剣を抜き、大盾を構えて一歩前へ出る。いつでも牽制できるように、身構えた。


 馬車の中、エルヴィンが眼鏡をかけて目を光らせる。


「……おいおい、闇の導き手の眷属だと? そんなもん聞いたことがないぞ」


 その言葉にセフィーナが顔を強張らせる。


「闇の導き手の眷属……原典にも、そんな記述はなかった……」


 かくして──再び、因縁の対決が幕を開ける。

今回は、リオたちの行軍の成果と、再び訪れる因縁の戦いを描きました。

かつての敵が、闇の力によって進化し、再び牙を剥いて現れる──そんな宿命の再戦です。

リオやファルト、それぞれの怒りと決意。そして、仲間との絆がどのように彼らを支えていくのか……。

次回、ついにフォレストウルフ王との決戦へ。

緊迫の戦闘編、ぜひご期待ください!

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