第37話 暁、光に吼える
2025/08/05 闇遁の技名と火炎流コンボと戦闘後の掛け合いを追加しました。
クロキリは霧に包まれた戦場を見やり、リオの覚醒を確認すると、音もなくその場を離れた。
《闇遁・潜影》。
気配を断ち、濃霧の中をすり抜ける。視界は閉ざされているが、わずかな足音と気配の流れだけで周囲を読み取るその動きは、まさに影そのものだった。
やがて、戦場を一望できる高木の上へ跳躍。
そこから見下ろす光景は二分されていた。
第1〜第3部隊はゴブリンエリート3体を押さえ、互角以上に渡り合っている。
一方、第4部隊とカイル副団長、教官エルバがいる戦線は崩壊寸前。エルバは幻惑魔法に翻弄され、カイルもゴブリンキングの猛攻に押されていた。
「……霧を張っているのは、シャーマンか」
クロキリの瞳が鋭く細められる。
次の瞬間、黒影が霧を裂き、シャーマンの背後に滑り込んだ。
「陰流──《二天一対》」
二本の小太刀が寸分違わぬ軌道で交差し、シャーマンの首を断ち切る。
「……ば、かな……」
首が弧を描き、霧とともに虚空へと消えた。
「厄介なのは片付いた」
クロキリの声に、周囲の兵が顔を上げる。霧が晴れ、士気が一気に上がった。エリートたちが次々と倒れていく。
その頃、霧の外からリオ率いる第5部隊と伝令のクレリックが合流した。
カイルが即座に指揮を執る。
「第1・第2部隊、前衛へ! 残りは後衛につけ! 敵は残り1体──全力で叩け!」
咆哮とともに、ゴブリンキングが大剣を振り上げた。
「どいつもこいつも……皆殺しにしてやるッ!」
クレリックの《プロテクト》が前衛を守り、弓兵の《アローレイン》や魔法兵の《ファイアボール》が次々と放たれる。だが、キングは大剣の風圧でそれらを弾き飛ばした。
「ならば接近戦だ! エルバ、第1、第2部隊、俺に続け!」
剣兵の《スラッシュ》、槍兵の《ピアッシングスピア》が突き立つも、分厚い筋肉に阻まれ致命傷には至らない。
怒り狂ったキングが空高く跳び上がり、大剣を振り下ろす。
「《グランドインパクト》!」
地面が裂け、爆ぜる土が兵士を吹き飛ばす。
「俺が受ける! 全員、後ろへ!」
衝撃を受け止めたのはファルトの《シールドプロテクト》だった。
セフィーナが風の精霊アネリアに呼びかける。
「行くよ、アネリア!」
『うん、やっつけちゃおう!』
「巽たつみの風よ、乱れを招け──《ウィンドストーム》!」
唸る竜巻がキングを包み込み、鋭利な風刃が装甲の隙間を切り裂く。
そこへ、ミラの詠唱が重なった。
「烈火よ、我が前に形を取り──《ファイアランス》!」
放たれた巨大な炎槍が、渦巻く竜巻に呑み込まれる。
瞬間、風が炎を抱き込み、轟々と燃え盛る**火炎流**へと変貌した。
赤熱した炎の渦が竜のように咆哮しながら暴れ回り、キングの巨体を何度もなぎ払う。
熱波と爆風が入り混じり、周囲の空気が焼け付くように揺らいだ。
装甲は赤く膨張し、やがて溶け出す。キングの動きは目に見えて鈍っていった。
「やったな、セフィーナ!」
「うん……でも、あれはミラの炎があったからだよ」
「ふふ、風がなければ形にならなかったわ」
二人が短く笑みを交わすと、ファルトが「おいおい、惚れ惚れしてる場合か!」と笑い、戦場にわずかな安堵が生まれる。
リオも思わず笑みをこぼし──しかし、次の瞬間、光の精霊の声が鋭く響いた。
『まだ終わってない! 僕らも行こう!』
「明の位、東方より射す光──《ライトボール》!」
眩い光が直撃し、キングの皮膚を焼き焦がす。
クロキリが再び駆け、
「陰流──《二天一閃》!」
二本の刃が一本の閃光となってキングを斬り裂く。巨体が膝をついた。
『リオ、今だ!』光の精霊の声が急く。
「僕がみんなを守るんだ──《ホーリーエンチャント》!」
剣に宿った光がさらに強く脈打つ。
ファルトが「リオ!」と叫び盾を差し出す。
踏み台にして跳躍し、
「──《ホーリーブレイク》!」
三日月状の閃光が戦場を切り裂き、キングを光の粒子へと変えた。
静寂の後、勝利の歓声が響く。仲間たちが駆け寄り、自然と円陣を作る。
「やったな、リオ!」
「最高だったぞ!」
笑い合いながら、全員で拳を突き合わせた──勝利のグータッチだった。
そこへ、エルバが剣を肩に担ぎながら近づいてくる。
「いい連携だったな。それに……あのタイミングで《ブレイク》まで使いこなすとは、たいしたもんだ」
褒められたリオは少し照れくさそうに笑い、頬をかく。
「えへへ……ありがとうございます。ちょっと緊張しましたけど……」
ファルトが「緊張してあれかよ!」と笑い、再び場が和んだ。
戦闘後、負傷者の治療を終えた部隊は集落奥の洞窟を調査する。
最奥の玉座の間で、黒い宝石の核を持つ瘴気発生器を発見。
「……これが瘴気を……」
セフィーナが《ピューリファイ》を放つも弾かれる。
『これは光の精霊魔法じゃないとダメだね〜』と精霊が告げ、
「光の精霊魔法──《アーク・ルミナス》!」
リオの光が発生器を消滅させた。
洞窟を出ると、空に浮かぶ怪しい影が降りてきた。
圧迫感と共に肌を刺す魔力の重圧。
「やぁやぁ、ご苦労さま。僕の実験を邪魔したのは君たちかな〜? しかも『生瘴石』まで壊しちゃって」
仮面の口元が歪む。
「……なんだ、あいつは……」ファルトが唸る。
「危ない、あれは普通じゃない……!」セフィーナが警告する。
笑っているのは、道化師の仮面をつけた魔族──魔王軍の斥候、ゼインだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
本当は順番に投稿するはずだったのですが……
うっかり35話と36話を同時に公開してしまいました!笑
今回の第37話では、リオたちが初めての大規模戦で勝利をつかみました。
精霊たちとの共鳴、仲間たちとの連携──そして、光の導き手としての覚悟。
少しずつ、彼の中で何かが変わり始めています。
でも平穏は束の間。
次回、仮面の魔族ゼインが不穏な影を落とします。どうぞお楽しみに!




