第31話 はじめての戦場
2025/08/04 スライムとの初戦闘と進軍中の交流を通じて、リオの成長と仲間との絆を描写しました。
角笛が鳴り響き、王都の城門が静かに開かれた。馬車と若き戦士たちを乗せた隊列が、ゆっくりと門をくぐっていく。
それが、少年たちの新たな一歩の始まりだった。
第七前衛中隊は、特務任務のため最前線へと進軍を開始していた。城門を出たのは王城に来て以来初めてで、リオは名残惜しそうに王都の街並みを振り返った。
「私も、訓練場と教会の往復くらいだったもの」
隣を歩くセフィーナが微笑む。ミラと並んで歩く彼女たちの少し後ろに、リオとファルトがついていた。
「僕、生まれた村から王都まで護衛されて来たんだ」
何気ないリオの一言に、ミラが首を傾げる。
「護衛って……加護のせい?」
「うん。王令でローデン侯が任務として、母さんと一緒に護衛してくれたんだ。そのときの護衛のひとりが、ファルトの父さんだったんだよ」
二人は顔を見合わせ、苦笑を浮かべる。
「不思議な縁だね」
「ほんとだな。俺が王都に来たときも、父さんが護衛でついてきたし」
意外な繋がりに、セフィーナが微笑み、ミラも小さくうなずいた。隊列はそんな会話を交わしながら、ゆっくりと前へ進む。
しばらくすると、先頭の第一部隊から魔物出現の報せが入った。だが、対象はスライム一体のみ。
「スライムか……よかった……」
誰かの安堵の声とともに、張りつめていた空気が和らぐ。
「ちょうどいい機会だな。リオ、行ってみろ」
副団長カイルの指名に、リオはやや驚きつつも前へ進み、剣を構えた。
不定形のスライムがぬるりと近づいてくる。
「いきます!」
リオは剣を振るったが、思ったより素早く動いたスライムにかわされてしまう。すぐに《ウォータボール》を放つも、手応えは薄い。
「スライムに水属性は効きづらいわ。それに……相性が悪いときは、形も調整しないとダメよ。刃とか槍みたいに」
ミラの冷静な助言に、セフィーナがリオを応援する。
「リオ、がんばれー!」
焦るリオ。飛びかかってきたスライムに、とっさに手を突き出した。
「《シールドパリィ》!」
意識せず発した言葉とともに、光の盾が現れ、スライムを弾き飛ばす。それは地面に叩きつけられ、動かなくなった。
「おおっ、やるじゃねえか!」
ファルトが歓声を上げた、そのとき──
「おいおい、あーこりゃもうだめだな……って言う暇もなかったか」
にやりと笑って現れたのは、運搬馬車から降りてきた商人・ダリウスだった。
「素材ってのはな、なんにでもなる。たとえばスライムの体液は、ポーションや鎧の素材になったりするんだぜ?」
「……そうなんだ? ていうか、なんでここに?」
「そりゃあ任務の報酬がいいからな。素材も集め放題だしよ。スライムは一撃でやらねえと素材にならねえんだ、頼むぜ?」
笑いながらリオの肩を叩く。
「気をつけるよ」
リオも苦笑し、仲間たちにダリウスを紹介する。
「商人のダリウス。露店もやってるから、よろしく」
「よろしくなー!」
エルバ教官が声をかける。
「動きは悪くなかった。次はスピードを意識してみろ」
再び進軍が始まって間もなく、今度はスライムが2匹現れた。
「リオ、出番だ」
カイルの声にうなずき、リオは踏み込みながら剣を構える。
「《スラッシュ》!」
剣の軌跡が風を裂き、二体のスライムを一閃。真っ二つにされたそれらは崩れ落ちた。
「ヒュー! いいねえ!」
ダリウスが素早く素材を回収しながら笑う。
進むにつれ、魔物の数も増えていく。角の生えた角兎、木のようなストンプウッド……。
「リオだけじゃ厳しいな。全体、戦闘準備!」
カイルの号令に、隊は陣形を取り、剣兵・槍兵・魔法兵が連携して敵を倒していく。素材の回収も協力して行われた。
リオは初めて角兎の皮剥ぎに挑戦するも、父の残したナイフではうまくいかず、ボロボロにしてしまう。
「……失敗した。次は、うまくやる」
唇をかみしめ、拳を握るリオ。
やがて一行は開けた草地に出て、休憩の時間となる。
「やっと休憩だー!」
そのとき、馬車の荷台から見覚えのある少女が顔を出した。
「お疲れさまでーす、皆さん」
「ティナ……!?」
驚くリオに、ティナは笑顔で応える。
「料理番として同行してます。手伝ってくださいね?」
角兎の肉でシチューの準備が始まる。薪を集め、魔法で火を起こし、手際よく炊事場が完成した。
香ばしい匂いに包まれながら、リオの顔に付いた血を見つけたセフィーナが手をかざす。
《クリーン》
汚れが消え、リオは小さく「ありがとう」とつぶやいた。
「えへへっ」
セフィーナは照れ笑いを浮かべ、ミラはその様子をちらりと見て、わずかに目を細める。
食後、鍋が空になるころには、兵たちの表情も和らいでいた。
「うまかったなー、ティナ!」「次も頼む!」
感謝の声が飛び交い、カイルが手を上げて号令をかける。
「満腹になったところで、再出発するぞ!」
荷物を積み直し、整列し直された隊列。その先に、どんな出会いと試練が待ち受けているのか――リオは静かに息を整え、また一歩を踏み出した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今回はリオの初めての実戦、そして仲間たちとの旅の始まりを描きました。小さな一歩ですが、彼にとっては大きな成長の一日です。
次回も、どうぞお楽しみに!




