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第29話 選ばれし者たち

2025/08/01 ロックスパイクをストーンスパイクに修正し、戦闘描写とセリフを自然かつ臨場感ある形に強化しました。

朝の陽が昇る頃、王国騎士団の訓練場には、すでに選抜者たちが静かに集まっていた。

各兵団の中から選び抜かれた精鋭──その顔ぶれを前に、周囲の者たちは息を呑む。

羨望、嫉妬、期待、緊張。雑多な視線のなか、彼らは一列に整列した。


「ほかの者は通常の訓練に戻れ」


静寂を裂くように、カイル副団長の号令が飛ぶ。

鋭い眼差しで選抜隊を見渡しながら、ゆっくりと一歩、前に出る。


「今回の任務では、私が指揮を執る。……わかっている者も多いだろうが、改めて説明する」


カイルの声は低く、だが威圧感に満ちていた。


「かつては軍団単位で任務をこなしていた。しかし、魔族との戦いはその常識を打ち砕いた。

──敵は、広範囲殲滅魔法をためらいなく放ってくる。集団は狙われる。だからこそ、今の戦術は“分散と連携”が肝要だ」


張りつめた空気の中、ざわつく者は誰一人いない。


「今回はゴブリンの討伐任務。模擬戦とはいえ、集団戦の要領を叩き込む。

ファルト隊──お前たちは、他の全選抜隊を相手取って戦ってもらう」


どよめく周囲。だが、ファルトは口元を歪めて笑った。


「へっ、そんくらい上等だ。なあ、リオ?」


リオは小さくうなずいたが、その表情にはまだ迷いが滲んでいた。

彼の中に残るのは──魔法が飛び交う戦場への、漠然とした恐怖。

それが、どこから来るかもわからぬ“死角”から襲ってくるとなれば、なおさらだ。



訓練開始の合図とともに、支給品が配られた。

剣の刃は潰され、矢じりは平たく加工されている。魔法兵の魔法は初級に限定され、殺傷力はない。


リオは鉄の鎧に袖を通し、鎖帷子と兜で全身を覆った。視界は狭まり、ずっしりとした重さが肩にのしかかる。


「……動きにく……」

思わずつぶやいたリオの背中を、ファルトが無言で叩く。


「慣れろ。これが──“戦場”だ」


「初回は、ファルト隊以外の魔法兵団は手を出すな。慣らしが目的だ、やりすぎるなよ!」

副団長の掛け声が響くと、同時に訓練場に緊張が走る。


模擬戦、開始。


「矢が来るぞ! 全員、俺の後ろにっ!」


ファルトの咆哮。四人は一斉に身を屈め、彼の大盾の背に集まる。

次の瞬間、シールドに精霊のオーラが流れ、《シールドプロテクト》が発動。

黄色い光が盾を包み、次々と飛来する矢を弾き返した。


「すご……!」


「感心してる場合か、リオ! 行くぞ!」


「うん!」


リオとファルトが前へと駆け出す。

金属がぶつかる轟音──「ガシャーン!」という激しい音が訓練場に響き渡る。


盾と剣が交錯し、火花が散る。訓練場が、一瞬にして“戦場”へと塗り替えられる。


その隙を突き、側面から槍兵が殺到してくる。


「来るわよ、横からっ!」


ミラが叫び、土魔法ストーンスパイクを詠唱。

足元から突き出した岩槍が、槍兵の足を絡め取り、動きを封じた。


「援護するっ!」


セフィーナの風精霊魔法ウインドカッターが、鋭い刃のように空を切り、弓兵を牽制する。


──だが、その瞬間。


「止まれっ!」


副団長の一喝が、空気を裂いた。


模擬戦、終了。


「……ふう、まだまだだな」

ファルトが肩で息をしながら、ぽつりと呟く。


すぐに教官のエルバが現れ、指導が始まる。


「リオ、前衛に徹しろ。後衛を守る意識が足りん。

ファルト、前に出すぎるな。セフィーナ、魔法のタイミングは合っていた。

ミラ、指示はお前が声に出してやれ。──午後は敵も魔法を使ってくる。地形も考慮に入れろよ」


そうして、午前の訓練は幕を下ろした。



昼食時、四人は食堂の一角に腰を下ろす。


「……にしても、鉄の鎧ってこんなに重いのな……」

リオが苦笑すると、セフィーナも頷いた。


「しかも視界が狭いし、魔法の狙いがずれるのよね」


「ミラ、さっきのストーンスパイク、ナイスタイミングだったな」


「当然よ。あそこで止めなかったら、あなたたち突かれてたわよ?」


「でも、もうちょい連携の精度を上げられそうだ。盾を構えたときに、魔法を重ねたほうが効果が高い」


ふとミラがリオに目を向けた。


「リオ、水魔法もそろそろ実戦に入れていいと思う。

攻撃にも回復にも使えるし、タイミング次第で一気に流れを変えられる」


「えっ、俺が……? う、うん、やってみる……!」


話題は自然と、戦術の反省と改善に移っていく。

どこか心地よい緊張感と、仲間としての絆が、そこにはあった。


──そして、昼下がり。


蝉の声が響く中、再び訓練場に号令が鳴り響く。


午後の模擬戦。今度は、魔法が飛び交う“本気の戦場”だ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

今回は、リオたちが初めて本格的な模擬戦に挑む回でした。装備の重み、戦場での緊張感、そして仲間との連携──まだまだ未熟な彼らですが、少しずつ「戦う意味」と「仲間と動くこと」の大切さを学び始めています。


次回は、より厳しくなる午後の訓練。新たな試練と気づきが、彼らを待ち受けています。

どうぞ、引き続きお楽しみください。

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