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第19話 ふたりの訓練、交差する魔力

午前の魔法の訓練を終え、新しいことができるようになったことで嬉しい気持ちでいっぱいのリオは、昨日も訪れた食堂へと足を運んだ。


食堂は昨日と同じくごった返しており、活気とざわめきに包まれていた。


リオは列に並び、順番を待ちながらあたりを見渡す。すると、ファルトが他の兵士たちと談笑しながら食事をしている姿が目に入り、リオは軽く手を振った。ファルトもにかっと笑いながら手を振り返す。


順番が回ってきたところで、食堂の主人マリアが顔を出し、「昨日はよく食べ切ったね」とにこやかに声をかけてきた。


「今日は普通でいいのかい?」と、ニヤリと笑って尋ねる。


「全然普通で大丈夫ですっ」と、リオは慌てて答えた。


どんと盛り付けられた皿を見ると、パンに鶏肉、スープが添えられており、こんがり焼かれたいい匂いがした。でもやっぱり少し多すぎるようにも感じたが、「ありがとうございます」とお礼を述べて空いている席を探す。


ファルトが他の人たちと食べていたため、今日はひとりで食べようと思い、ようやく食堂の奥に空いている席を見つけて向かった。


席に座り、「いただきます」と心の中で呟き、手を伸ばそうとしたそのとき——


トン、と向かい側に誰かが腰を下ろす気配がした。「ここ、座るわよ」と声がして顔を上げると、そこにはミラがいた。


午前の訓練開始前、すごい剣幕で魔法兵団長の部屋から出ていった彼女の姿が、リオの脳裏によみがえる。


「ど、どうぞ……」と言うのが精一杯だった。


ミラはそんなリオの様子を気にすることもなく、さらりと自己紹介した。


「そういえば、話すのは初めてね。私はミラ。よろしく。魔法兵団所属で、中級魔法使いよ。あなたは?」


「僕はリオ。よろしく。つい先日王都に来て、今は各兵団の見習いってところかな。」


「へえ、あなたが噂の……。おじいちゃんったら、『今日から時間が取れなくなった』しか言わないんだもの。」


「ははは……」と、リオは乾いた笑いを漏らした。


「午前中で、どこまでできるようになった?」


「魔力を、ほんのり手に集めるくらいには……」


「へえ、君、けっこう才能あるかもね。」


「そうなの?」


「普通、それくらいできるようになるまでに一ヶ月はかかるわ。でもあなたは……初日でしょ? 驚異的よ。」


「そうなの??」


「そうよ。面白いわね。……やっぱりおじいちゃんにお願いして、一緒に訓練しようかしら。こういうの、負けてられないし。いいわよね?」


「は、はい……」


リオの瞳を見つめたまま微かに笑みを浮かべた。


会話が一段落すると、ふたりは自然と黙り、お互い食事に集中しはじめた。


しばらくして食事を終えると、ミラが立ち上がりながら言った。


「じゃあ、またあとでね。」


そう言って、そそくさと席を立ち、食堂を後にした。


リオも食事を終え、午後からはどうなるんだろうと、思いを巡らせるのだった。


◆ ◆ ◆


午後になり、リオは再び魔法兵団長の部屋を訪れた。


扉を開けて中に入ると、すでにガリウスとミラが揃っていた。


リオが戸口に立つと、ガリウスがにこやかに声をかける。


「もう聞いていると思うが、ミラも一緒に訓練することになった。すまんのう、わがままにつきあわせて。」


「おじいちゃん!」と、ミラが思わず声を上げる。


「まぁまぁ……。とりあえず、リオ君は先ほどの続きをやってごらん。ミラも、手本になるようにやってみるのじゃ。」


ガリウスがそう言うと、ミラが一歩前に出て自信たっぷりに言った。


「お手本を見せてあげるわ。」


彼女の全身から、うすい膜のようなものが湯気のように立ち上り、手のひらの上には揺らめく球状の魔力の塊が浮かび上がっていた。


「このくらい操作ができれば、適性のある魔法が使えるようになるわよ。」


「見事な魔力操作だ」と、ガリウスが満足げにうなずいた。


「リオ君も、これをお手本にするように。」


ミラは自信満々の表情で、エッヘンと胸を張る。


「はいっ、頑張ります!」と、リオも気合を込めて応じた。


「ではミラ、魔力操作から属性変化までを繰り返し行うのじゃ。基礎は大事じゃからな。」


そう言って、ガリウスは人差し指の先に球状の魔力の塊を生み出すと、それを炎、水、土と次々に属性を変化させていく。


その様子を見ていたミラは、目を輝かせながら「わかったわ」と力強くうなずいた。


◆ ◆ ◆


リオも訓練を開始した。


ガリウスはいつも通り書類の山に向かい、ミラは手のひらに浮かべた球状の魔力を火の属性へと変化させながら、魔力操作の訓練に励んでいた。


リオは、教わった魔力の流れを何度も反芻しながら集中を続けていた。だが、魔力が集まりかけても、すぐに散ってしまう。息を整えて深呼吸をしてみると、少しだけ安定するようになった。


ミラはふとリオに目を向け、その集中する姿に目を細めた。「……悪くないわね、あの集中力。基礎の習得には問題なさそう」と、心の中でつぶやいた。


リオは、やがて、手のひらにうっすらとした魔力の塊が生まれるのを感じ取ることができた。


「……できた……!」


小さな喜びが胸に広がったのも束の間、徐々に頭が重くなり、まぶたが落ちそうになる。


そのとき、書類に目を落としていたガリウスが顔を上げ、


「リオ君、そろそろ魔力が尽きるようじゃ。今日は魔力操作はこのくらいにしておきなさい」と声をかけた。


リオは「はい」とうなずき、その場に座り込んで休憩を取った。


一方でミラは、火の属性から水へと変化させようと、額に汗を浮かべながら集中していた。


ガリウスはその様子を見て静かに言う。


「それが魔力切れの合図だ。よく覚えておくように。それ以上使うと、大変危ない。」


さらにガリウスは、リオに向かって微笑みながら言葉を続けた。


「リオ君、無理してもどうにもならんのが魔法じゃ。……えーっと、あったあった。」


彼は机の脇から一冊の古びた本を取り出し、リオの前に差し出す。


「君にこの、水属性初級の本を貸そう。『水の心・入門編』じゃ。時間のあるときにでも目を通しておくとよい。」


「君は、ほかの訓練もあるので、まず魔力操作の本を見て、寝る前に瞑想をしながら魔力操作を覚えることじゃ。それができるようになったら、水魔法の入門書を読んで実践してみなさい。」


「今日はあとは本を図書室で読んでなさい。訓練終わりの鐘がなったら自室に戻るように。次回までにどれほどできるようになっているか、見せてもらおう。」


「わかりました。ありがとうございます。」


リオは丁寧に礼を述べ、ミラにも軽く会釈をして部屋を後にした。


◆ ◆ ◆


リオは、生まれて初めて読む本に夢中になった。だが、「魔力」「魔力操作」「魔力経路」「瞑想」など、見慣れない言葉ばかりで、書いてあることは今ひとつ理解できなかった。


それでも諦めず、何度も繰り返しページをめくり続けた。


気が付くと、訓練終わりの鐘が鳴り響いていた。リオは本を閉じ、図書室を後にして客間へと戻った。


客間では夕食が用意されており、それを平らげると、昨日教わった剣の訓練を忘れないように、部屋の片隅で素振りを繰り返した。


汗をかいた身体を簡単に拭い、寝る前には再び魔力操作の本を開き、軽くおさらいをする。


瞑想の呼吸法を思い出しながら集中を試みているうちに、いつしかリオは静かな寝息を立てていた。


夢の中、リオはふたたび手のひらに灯る光を見つめていた。それは希望のように、静かに揺れていた。



今回は、リオの初めての魔法訓練を描いた一話でした。


……正直、書くのに苦戦しました!

魔法の原理や訓練内容って、読者にもわかりやすく伝えながら、かつテンポも落としたくないので、バランスを取るのが本当に難しいですね。

特に“魔力操作”という地味だけど重要な工程を、どう魅せるかに悩みました。


ただ、その分リオの成長や、ミラとのちょっとしたライバル関係、ガリウスの優しさなど、少しずつ「王国修行編」らしい要素が出てきたかなとも感じています。


次回はさらに深い訓練や仲間たちとの関係が動き出していく予定です。引き続きお楽しみに!

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