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第10話 目覚めと決意

## 第2章「王都修行編」 開始にあたって


リオはついに、王都という未知の世界に足を踏み入れました。

ここは、剣と魔法、そして精霊の力が交錯する場所。

多くの出会いと、初めての試練が彼を待ち受けています。

2025/07/24 表現の微修正を行いました。


第2章では、リオが騎士団と魔法兵団の両方で見習いとして修行を積む中で、仲間や導き手たちとの関係が描かれていきます。

この章から本格的な「成長」と「選択」の物語が始まります。


新たな物語の始まりを、ぜひ見届けてください。


まぶたが重たい。まるで意識の底から引き上げられるようにして、リオはゆっくりと目を開けた。見慣れぬ天井、静かな空気、そしてすぐ隣にある温もり。


 リオは深い疲労に包まれ、王城の静かな客間で眠っていた。傍らの椅子には、サビアが静かに腰かけている。謁見の緊張は想像以上に心をすり減らし、床についた瞬間、意識が溶けるように眠りに落ちていたのだ。


「母さん……隣にいてくれたの?」


「ええ、ずっとそばにいたわ。あなたが安心して眠れるようにね」


「……そっか、僕、寝ちゃってたんだ」


「謁見は緊張するものよ。無理もないわ」


 リオが母の隣の椅子に腰を下ろすと、サビアはそっとリオの手を取った。


「戸惑うのも無理はないわ……。私も、まだ正直よく分かっていないの」


 ──コンコン。


 扉をノックする音が静かに響く。


「失礼いたします。お食事の時間でございます」


 扉の向こうに立っていたのは、先ほど客間へ案内してくれた若いメイドだった。よく通る声ながら、どこか温かさを帯びている。


「改めまして、私はティナと申します。これからお城に滞在される間、リオ様とサビア様のお世話をさせていただきます。よろしくお願いいたします」


 リオは少し驚きながらも立ち上がり、丁寧に頭を下げた。


「……よろしくお願いします」


「ご気分はいかがですか? ただいま、食堂で騎士団長様と魔法兵団長様がお待ちです。ご案内いたしますね」


 軽く会釈し、リオとサビアは顔を見合わせて立ち上がり、ティナの後ろについて歩き出した。


 王城の一角、高官用の食堂。重厚な扉が開かれると、燭台の柔らかな明かりに照らされた長テーブルが現れる。


 すでに数名が席についていた。正面には騎士団長レオン・ヴァルガス。その隣には初めて見る初老の男性が座っている。鋭い眼光と落ち着いた物腰、威厳ある雰囲気。その瞳は、まるで全てを見透かすかのようだった。


 それが、王国の賢者にして魔法兵団の団長、クラヴィス・ヴァレンティスだった。


 着席を促されると、クラヴィスが静かにリオへ視線を向ける。


「ふむ……君がリオくんか。なるほど、なるほど」


 その目はリオを観察するように細められていたが、どこか楽しげでもある。


 リオは一瞬戸惑ったが、母の隣という安心感もあり、ゆっくりと頷いた。


「はい……」


 クラヴィスはさらに興味深そうに目を細める。


 するとレオンが姿勢を正し、穏やかな声で口を開いた。


「改めて紹介しよう。私は王国騎士団長、レオン・ヴァルガス。そしてこちらが、魔法兵団を率いるクラヴィス・ヴァレンティス殿。王国随一の賢者でもある」


 クラヴィスが軽く手を上げて会釈する。


「食事をしながらで構わない。詳しい話はそのあとにしよう」


 その言葉と共に、メイドたちが料理を運び始めた。リオとサビアの前に出された料理は、まるで芸術品のようだった。金の縁飾りが施された大皿に並ぶ、見たこともない食材と色彩。香りだけで食欲がそそられる。


 領主の館の料理も十分に豪華だったが、それとは比べものにならない。


「……これ、なに……? なんか、白い魚みたいなの……?」


 リオが小声で尋ねると、サビアは苦笑いを浮かべて首を傾げた。代わりに、ティナが笑顔で答える。


「それは“蒸しアリステラの柑橘ソース添え”でございます。王都近郊の湖でしか獲れない高級魚なんです」


「……へぇ……」


 リオは口をぽかんと開けたまま、それがどれほどすごいものかもわからず、ただ感心していた。


 しかし、ひと口食べた瞬間、思わず息を呑んだ。


「……おいしい……!」


 体の芯にまで染みわたるような、やさしく深い味わいだった。リオは目を丸くし、サビアと顔を見合わせて微笑んだ。


 やがて、食事が一段落すると、レオンが本題に入る。


「リオ、君の加護と力は、この国の未来にとって極めて重要だ。我々は君を正式に訓練し、その力を引き出す手助けをしたいと考えている」


「……訓練、ですか?」


「君が望むならば、だ。強制はしない。ただし、危機は迫っている。君の決意が、誰かの命を救うかもしれない」


 リオは拳を軽く握りしめた。父の面影、母の傷、村を襲ったフォレストウルフの記憶が脳裏をよぎる。


「……お願いします。僕、もっと強くなりたいです」


 その言葉に、クラヴィスは満足げに頷いた。レオンもまた、大きくうなずいて微笑む。


「その意志があるなら、道は開ける。頼もしいな、リオ」


「よろしい。では、明日より訓練を開始しよう」


 レオンが補足するように言葉を続ける。


「リオ、君は稀に見る適性を持っている。剣士としての身体能力と反応、そして魔力の流れに対する感覚──いずれも優れている。よって、王国騎士団と魔法兵団、両方の見習いとして訓練を受けてもらう」


 クラヴィスもうなずき、続けた。


「魔法については、私が直接見させてもらおう。君の魔力の扱いには非常に興味がある。だが……」


 一呼吸置き、リオを真剣な目で見つめる。


「精霊魔法に関しては、今すぐ深入りすべきではない。王国には使い手も少なく、制御を誤れば周囲も傷つける。段階的に接触するべきだと考えている」


「二つの分野を並行して学ぶのは容易ではないが、君なら可能だと我々は判断している」


 リオは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに引き締まった表情で頷いた。


 レオンが続ける。


「君たちの王都での住まいだが、現在準備中だ。安全と利便性を最優先しているため、しばらく時間がかかる見込みだ」


「それまでの間は、王城内の客間に賓客として滞在してもらう。必要なものはこちらで手配する」


 サビアが安心したように胸に手を当てた。


「ありがとうございます……」


 レオンはうなずき、明日の予定について告げた。


「まずは騎士団の訓練に参加してもらう。基礎体力と実戦的な動きの確認が主だ。朝も早いから、今夜はしっかり休んでくれ」


 リオは静かに息を吸った。精霊の力──あの眩い光。その本質を、これから知ることになるのだろう。


「……わかりました」


 不安がないわけではない。けれど、胸の奥で何かが静かに動き出すのを、リオは感じていた。


 食後、リオとサビアは席を立ち、レオンやクラヴィスに頭を下げて挨拶を交わす。


 ティナの案内で、ふたたび客間へと戻る。


 満腹のせいか、ベッドに腰を下ろした瞬間、リオのまぶたはまた重くなった。


「……明日から、か……」


 独りごちた直後、リオはすっと眠りに落ちる。


 ふと、訓練という言葉から、父の姿が浮かんだ。


(父さんも……こんなふうに、騎士団で訓練してたのかな)


 そんな思いを胸に、リオは静かに意識を手放した。



今回は、リオが王城での一日を静かに過ごす中で、次の章に向けた心の準備をする回となりました。豪華な食事や新たな出会い、騎士団長や賢者クラヴィスとのやりとりを通じて、彼の世界がまた一段広がったことが伝わったのではないでしょうか。


個人的に気に入っているのは、ティナとのやりとりや「蒸しアリステラの柑橘ソース添え」に戸惑うリオの反応です。王都という非日常の中でも、彼の素朴さや成長途上であることが読者に伝わるよう心がけました。


また、今回の描写では、父という存在への思慕を静かに重ねておきました。次回からは訓練が本格化し、彼の成長や新たな出会いが続いていきます。静かな一日の余韻を残しつつ、次の動きにご期待ください。


それでは、また次の話でお会いしましょう!



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