5,黒と白
俺が目にしたのは、情報収集を兼ねてよく見ている配信者のSNSによる投稿と、その画像だった。画像をタップすると、ライブ映像が流れ始める。
映像は、廃墟ビルと黒い機体。そして、ボスの名前は、自分の名前が映し出されていた。
「そんな馬鹿な!」
自身の声が漏れたと同時に、ある事に気付く。
――黒い機体しか、もういない。
◆
珍しく、マスターの声を聞いた。
それもその筈か。
既に仲間は私以外全滅していた。ほんの少し、マスターの指示が止まった事が原因の一端ではある。未だ私の視界に入る相手の数は万単位
仮に、指示をだし続けたとしても、状況は時間の問題だっただろう。だからこそ、決断。いや、
――思い出してもらう必要がある。
私は周囲の敵を片付けると、マスターの居るビルへと向かった。
◆
絶望の状況を認識し、俺は頭を抱える。最早、こちらに選択肢はない。俺の視線は、「切札」という文字に注がれている。
その時、ふと思った。
何故ここまで俺は追い詰められているのだろうか?
別にそれを選んだとしても、このまま敗北するよりかはいい。それなのに、この手の震えは何だ?何故、ここまで心と体はこの選択を拒否するのか?
アレを失いたくないからか?
いや、経験値を失っても、もう一度やり直せばいい。
全世界が、現実世界のプレイヤーだったからか?
いや、この感情はゲームの憤りではなく恐怖だ。
恐怖?たかがゲームなのに?何故ここまで追いつめられる?
何か、重要な事を忘れている?
そうか、何かを忘れているが、心と体が反射的に怯えている。それなら、納得できる。
だとすれば、一体何を?
――アナタはまた、最初からやり直すのを恐れている。
「え?」
背後から聞こえた声に、思わず振り返る。その先にいたのは、最初の機体。黒い機体。いや、
――もう1人の自分だった。
◆
マスターは、私の声を認識していた。今まで何を語りかけても、周囲で暴れても、この人は、ずっと画面を眺め続けながら、私に指示だけを行っていた。
これはいつからだったろうか?
この人が初めてゲームを起動した時。
「モニター画面に吸い込まれた」と言い出したのが、私との初めての出会い。
最初は、おかしな人だと思ったが、少しずつこの人を知る事で、あの言葉は嘘ではないと分かった。その矢先の事だった。
「切札」を習得した私を、マスターは試しに使用した。すると、その後の記憶がなく、マスターは呆然と私を見ていた。そして、
――切札はもう使わない。
その言葉を最後に、この人はビルの中に引きこもるようになってしまった。それでも私以外の子たちとは、直接話していた。しかし、それも次第に回数が減っていく。
彼のモニター画面には、既にこの世界をクリアしている事が記載されていた。それでも、彼は手を止める事はなく、今に至った。
◆
最初の事を思い出した。
携帯を片手にゲームを起動したあの日。
ゲームのCMと同じ世界に、何故か俺はいた。神様も案内人もなし。そして、その世界には、
――ノーツは存在しなかった。
確かにそこはゲーム内の筈である。模造品は数多くあるが、俺が知るノーツはない。そこで俺は何を血迷ったのか、模造品のロボットの解体と製造を繰り返した。
その理由は、それ以外に現実の世界との共通点がなかったからだ。何の確証もない、それでも何もしないという選択はできなかった。
月日は経過したものの、ようやく「ノーツ」の原型を作り出す事が出来た。それを1人の少年に渡す。それは、この世界のゲームの歴史が「1人の少年が作成したロボット」という事だからだった。
それに意味があるのかは、分からない。それでも、俺はそれが正しいと思った。それから、ノーツは世界に普及した。しかし、俺には何も変化は起きない。それどころか、既に、俺は老体となっていた。
死を目前に、俺がした事は――。
◆
「マスターは、悔やんでいるのですか?」
「悔やむさ、悔やむに決まっている」
「何故?」
「オマエにだって分かっている筈だ!」
「だとしても、私は嬉しかった」
「嬉しかった?」
「ええ」
――他人の命を移し替えた?
「切札を発動した相手と、マスター。いえ、創造主のアナタが入れ替わる。アナタの言う“ゲーム”の世界を踏襲する。それ以外に、アナタを存命させる方法はなかった」
「だとしても、だとしてもだ!いざ、実行してこの体の人は、もう、いない」
「アナタの記憶を一時的だとしても、共有した私にも言える権利がある」
――このままでは、その犠牲すら意味がなくなる。
「今、アナタの現実世界が、アナタを殺そうとしている。つまり、あなたのここでの人生は無意味になる。それでもいいと?」
「――」
「あなたの生きる執着心は、ロボットである私には分からない。それでも、“生き残る”目的が、アナタに偉業をもたらした。それが、全て無駄になっていいのでしょうか?」
「いや、それは違う。それはダメだ」
「何故?」
「俺だけならいい、でもここに“もう1人”いる」
◆
そう言ってマスターは、自身の心臓に手を置いた。
「なら、覚悟を決めましょう」
彼は無言で頷き、私の禁止事項から「切札」を取り除く。
「「Another me」」
重なる言葉は、光に包まれた。そして――。
◆
とある配信者の映像より――。
「1ヶ月記念のイベント、参加された方は、ひとまずはお疲れ様でした。いや――、ちょっと、難易度高過ぎだったな。
第1フェーズの黒い機体。攻撃は当たらない。常に全体攻撃。皆で堪えて堪えて何とか撤退に持ち込んだかと思ったよな。
だけど、第2フェーズで、白の巨大ロボットが急に現れて、たったの1撃で千単位のノーツがロスト。結局、数分と経たずに、ミッション失敗。
正直このイベントは、批判が多いと思うよ。まぁ、それでもさ、その難しさあってのこのゲームだと自分は思っています。簡単爽快もいいけど、
――上手くいかない事こそ、人生。みたいなw」
それから暫くして、ゲームの運営から新たな追加コンテンツのタイトルが、発表された。そのタイトルは、
――創造主と少年。
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