~夏~
この頃の授業はほとんどと言っていいほど、先生の話を聞いていない。しかも明日が大会なのだから当然だと思う。先生たちもさほど気にしていないようだ。
俺はやはり授業内容もノートに書き写していない。頭の中は明日の大会の事でいっぱいだった。
でも、ちゃんと考えればわかる問題だと思う。先生たちも気を使って簡単な問題にしているし、クラスメートはその問題を当たり前のように解いていた。
だが、俺は勉強は全くできない。授業が簡単なのにだ
ただいまの授業は数学であり俺の不得意教科・・・もう最悪だ・・・
その時、美佐が気づいて俺に声をかけてくれた
「龍、この問題わからないの?」
「ああ・・・・全くと言っていいほどに解らないんだ・・・・」
「そう・・・でも、これじゃあ勉強とはいえないけどね」
「なんだだよ?」
「だって、龍の机の上、サッカーの本しかないから・・・・」
「あ・・・いけねえ・・・数学がいつの間にかサッカーの勉強に・・・」
「そんなの言い訳にしかならないよ?」
「そうだよな・・・このままじゃあ高校に行けね気がしてきた・・・・。・・・・・そうだ美佐。俺が引退したら勉強教えてくれないか?」
「え・・・?いいけど・・・なんかやらしいこと考えてないよね?」
「おいおい・・・俺はそんな人間かい?俺はとても健康な中学生だぜ?」
そう俺が言った瞬間に美佐がくすくす笑い出した。
「ふふ・・・そうね・・・・で?どこでやろうと思ってるの?」
「まだ決めてないんだ・・・。まあ、勇とか千春とか誘って美佐の家か俺の家でやりたいんだが・・・・」
その言葉を言った瞬間、美佐は俺に向かって何か言ってたように聞こえた。
でもその言葉は俺には届いていなく。宙に消えてなくなってしまった。
「美佐?今なんて・・・」
「なんでもないよ~それより今回の大会に向けて調子はどうなの?」
「可も無く不可もなくかな・・・点取り屋の俺は気分によって変わるからな・・・試合をしてみなきゃあわからねえ」
「龍。それって点取り屋じゃなく気分屋って言うんじゃないかな?」
「・・・・・そうとも言うかもしれないな・・・・」
どうやら美佐は俺との会話の中でずっと笑いをこらえていたみたいで、ここにきて笑い始めた。まるでワライダケでも食べたかのような勢いで。
「おいおい・・・笑い過ぎじゃねえのか?軽く傷つくぜ?」
「ごめんごめん。点取り屋あたりからもう笑いが止まらなくなってきちゃって・・・」
「まあ・・・いいけどさ・・・で?美佐は今回の大会はどうなんだ?」
このとき、俺はとても後悔した。さっきまで笑っていた美佐がいきなり暗い顔になってしまったからだ。たぶん今回の大会に向けての調整があまりよくなかったみたいだ。
やはり最後の大会だから緊張しているのだろう。
とはいっても俺は全く緊張していない。いや・・・緊張してはいけないのだ。
俺はあまりにも緊張しすぎると体が動かなくなる。昨年のこの大会で緊張して体が動かなくなってしまった。
美佐は俺と同じでリラックスしていないと上手く力が出ない選手だからそのつらさはよくわかる。
「大丈夫。美佐なら勝てるって。俺が保障する」
「うん・・・」
「おいおい・・・そんな気分じゃあ試合を楽しめないぞ?」
「試合なんか楽しめるもんじゃないよ・・・ダブルスなんか自分のミスだけで負けちゃう事だってあるんだもん・・・」
「まあ、そうかもな。・・・でも、気持ちが落ちたままで試合に出る事と楽しもうって気持ちで出る試合は全然違うぜ?」
「そうなの?・・・・・たとえばどんな感じに違うの?」
「落ち込んだ気持ちじゃあ、きつい場面のときに諦めが早くなってしまう。でも、楽しい気持ちならリラックスできるしきつくてもがんばれる」
「そうなのかな・・・?」
「おいおい・・・そんな事言ってると後ろから抱きつくぞ?」
「え?・・・やだ・・・そんな・・・」
「なに赤くなってんだよ?冗談だよ。」
「もう・・・・龍の意地悪・・・・」
「ふう・・・やっといつもの美佐の顔になったな・・・さっきまでひどい顔してたからな」
「そういえば、なんか気持ちが楽なったかも・・・龍。ありがとうね」
「礼ぇなんかいらねえよ・・・」
美佐のそんな顔見たくねえし、美佐には笑っててほしいから・・・・という言葉は言えるはずもなく頭の中で木霊した。
その時、目の前に白い筒状の者が飛んできて俺の脳天に当った。
俺はその衝撃で後ろにふっトンだ(椅子の座り方がいけなかっただけなので吹っ飛んだだけだ)
「コラ!龍!なにしゃべってんだ!!」
担任の・・・・健治だ・・・姓のほうが出てこない・・・・
この担任の健治はこの学校でも有名なチョーク投げの名人だ。健治の投げるチョークはスイカを貫通するとも言われている。いや。・・・まてそんなの食らったら死んでしまうな・・。反抗したいにも、健治は顔がほぼ極道者みたいな顔をしているので反抗が出来ないのだ。俺だけはよく反抗しているが・・・
ついでに健治のあだ名は「スナイパーの健治」だ。
「痛てえな・・・おいチョークの無駄だろうが。スナイパーだがなんだか知らんが痛てえものはい・・・・」
その瞬間二発目のチョークがまた頭にクリーンヒットした。その瞬間クラス全体に沈黙が走り糸が切れたようにみんな笑い出して収集がつかなくなってしまった。
「おい。美佐そんなあ奴に話しかけられても無視しろよ?」
おいおい・・・先に放してきたのは美佐のほうなのに・・・・と心の中で思ったでも当の本人はわかりました~だからな・・・・
その時、美佐が軽く小悪魔に見えた。
そして、あっという間に時間が過ぎ部活も終え、明日には三年最後の大会になった。