三人組がパブにやって来た。中編
今回は、262.です。暴力的な描写があります。
訓辞。教え諭すこと。
アッケルマン砲艦「ロシアは奪い取る」
エージェントさんが話を続けます。
「あいつの家の前に自走砲を止めた。やることは一つしかない。――発射だ」
「はっしゃーっ!」
両手を挙げたべとべとさんは、はしゃぐように叫びました。とても生き生きとしています。
「玄関は完全に破壊され、我々十人は侵攻を開始した。侵略者達への罵倒を込めて、『特別訓辞作戦』とでも名づけようか。玄関の他、二ヶ所も破壊し、三方向から我々は侵入した。ボクを昨日殴ったやつを含めて、屋内にいた全員を、あっという間にグルグル巻きにしてやった」
「迅速なる行動! 敵にはどこまでも真似出来ない!」
隣のべとべとさんの叫びに対して、ジーリエスさんは複雑な顔をしていました。
「血の気の多い仲間の一人が昨日のあいつに対し、よくも昨日は仲間をやってくれたな、これがお前の言っていた集団的自衛権の行使だぞ、うらぁっ! と言って、倒れているあいつを蹴りつけた」
「反撃開始べと!」
「この地は我々にとっても歴史的な領土であり、この家や土地は我々にも所有する権利がある。そうボクが大仰に宣言すると、仲間の一人が、歴史的領土なら武力で奪ってもいいんだよなぁ、うらぁっ! と言って、あいつを蹴りつけた」
「自業自得とさ!」
「敵を拘束した後は、もちろん住民投票だ。我々はこの土地の独立編入を問う住民投票を開始することにした」
「ちょっと待って下さい。エージェントさん達は住民じゃないですよね?」
ジーリエスさんが質問を挟みました。
「汚い民家に突入してから、ちょっとでも住んだつもりでいる。よって、我々は住民だと名乗れるのさ。敵も占領したら好き勝手やっている。だから問題ない。しかも、我々は十人いる民だ。略して十民であり、住民と大差ない」
「大差あるでしょう?」
「大差はないよ」
「お嬢様。大差ない」
ジーリエスさんは一対二で、劣勢でした。侵略者ロシアが劣勢になれば良いのですけれど。
「ここで特別訓辞作戦の意義を説明しよう。ボクや他の仲間が虐殺される可能性を事前に回避するため、ネオナチである敵を非ナチ化しなければならない。また、今後の安全保障対策として、この土地を緩衝地帯として押さえておく必要がある、というものである」
侵略者ロシアを皮肉った説明ですね。
「仲間が住民投票の開始前に、勝てないなら最初からやるな、力の強い奴には降伏しろって言ってたのお前じゃねーか、うらぁっ! と言って蹴りつけ、喚いていたあいつをおとなしくさせた。続けて、停戦と叫ばないのかよッ、うらぁっ! と、別の仲間が蹴りつけた」
「うらぁっ!」
べとべとさんが真似して叫んでいました。
「仲間の一人は、マシンガンを持っていた。我々は優しいから、無抵抗の者を撃ったりはしない。だが、マシンガンの持ち主は、この住民投票はクリーンでオープンだぞ~、うらぁっ! と言って、あいつを蹴りつけていた」
まるで侵略者ロシアのようですよね。エージェントさんはわざと馬鹿馬鹿しく喋っているようでした。
「えいじぇんとBBAの仲間は優しい! うちなら機銃を手にしたら、愚かな敵を速攻で蜂の巣にしてやるべと!」
べとべとさんは過激派でした。もっとも、ロシアと違って実際にはやっていないので、実際にやっているロシアよりも優しいです。
「こうして、歴史的領土を我々の領土として独立させ、編入させることを問うための住民投票が始まった。ボクは自前の投票箱を用意し、仲間達に投票用紙を渡した。結果はすぐに出る。住民投票に参加した我々十人全員が賛成に投票し、賛成率98.4パーセントで独立編入が決定した」
「えっ、おかしくないですか? 十人全員が賛成なら100パーセントですし、小数点以下は出ないはずでは?」
「賛成率は住民投票をやる前から決まっていた。最初から決まっていた数値は、いちいちイジらないでいい。問題はないよ」
エージェントさんが理不尽な説明をし、その件は終了しました。
「そもそも、元々いた人達が住民投票に参加してないですよね?」
「連中の参加は拒否していない。だが、投票用紙が行き渡らなかったんじゃないかな。可哀そうに」
全然かわいそうに思ってなさそうなエージェントさんが理不尽な説明をし、この件も終了しました。
「ともあれ、圧倒的多数によって、歴史的領土が我々のものになった。その辺にあった広告の裏に署名するという、完璧な手続きもおこなった。一方、納得がいかないで無効だと叫ぶあいつは、実に哀れだった」
「この後の展開はうちでも分かる! そいつはやられた! 間違いない!」
「ああ。住民投票で決まったんだから文句言うなや、うらぁっ! と、蹴りつけられた。お前の言い分だと住民投票の不正なんて妄想なんだろぉ、うらぁっ! と、別の仲間に蹴りつけられた。民主主義の結果を尊重しろよッ、うらぁっ! と、また別の仲間に蹴りつけられた。……我々は優しいから、もちろん手加減をしてやっていた。だからそいつは生存している」
「しぶといやつだ!」
「いや今の話聞いてなかったんですか? 手加減していたって」
「聞いていた! でも敵はしぶといっ!」
強硬派らしいべとべとさんの叫びに、ジーリエスさんは諦めの顔を浮かべました。
「我々は全員で手分けして、屋内をグチャクグチャにしながら物色を始めた。その際、これが侵略者を擁護するってことだからなぁッ、うらぁっ! と蹴っている仲間もいた」
「正論を語る頼もしい仲間もいる!」
べとべとさんは大勝利の表情をしています。
「土地の権利書を発見して見せびらかした頃には、あいつは泣いて謝っていた。やられたくないことを支持しといて自分がやられたら許して下さいって、ふざけんじゃねーぞ、うらぁっ! と蹴られていたが、さすがに相手がみじめ過ぎて、同情をしてしまった。――我々はあの犯罪国家とは違う。権利書はテーブルに置き、全員をグルグル巻きから解放し、我々は歴史的領土から撤退した」
「べとべとぉ……っ!」
このあっさりと引き下がった展開に、べとべとさんは大変不服そうでした。
侵略者ロシアの蛮行を真似してみましたが、あまり気持ちのいいものではありませんね。
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