三人組がパブにやって来た。前編
今回は、261.です。三部構成。暴力的な描写があります。
別作品『伯爵令嬢の使い魔べとべとさん!』の番外編となります。以前からずっと書きたかった内容です。
T-20コムソモレツ装甲トラクター「ロシアはウクライナ侵攻をやめろ」
あなたはいつものパブの中で、興味深い光景を見つけました。
本日はめずらしいことに、少女が三人も来店したのです。カウンター席にいたあなたが眺めていると、彼女達はあなたの近くのカウンター席に並んで座りました。
三人はあなたから見て左から順に、黒い髪を二本の三つ編みにした子、金髪をゆったりと一本の三つ編みにまとめている子、赤茶色のおかっぱ頭の子です。両側の子達が着物のような衣服を着ているのが印象的でした。
「せっかくだ。君達二人には、この前、久し振りに故郷に帰った時の話でもしてあげるよ」
おかっぱ頭の子が、横の二人に言いました。彼女が一番小柄で、幼く見えるのですが、口調は大人びていました。
「きっと、侵略者が地獄行きになるお話だと思う。とても楽しいお話になりそう」
三つ編みの子がうきうきした口調で喋ります。その期待に応えるように、おかっぱ頭の子が微笑みました。
「あの日、とある人間と、侵略をしている国の是非で口論になった。そいつは、あの国は侵略なんかしていない、集団的自衛権の行使をしているだけなんだと言い張った。他にも、合意を守らずに一方的に虐殺していたから悪いとも語っていた。それらは嘘だとボクは指摘したが、話が通じない相手でね。最後は暴力沙汰になりそうだったから、変顔をして挑発してみると、そいつはボクに殴りかかってきたんだ」
「大丈夫だったんですか? エージェントさんは」
金髪の子がおかっぱの子に聞きました。おかっぱの子は、エージェントという肩書きのようです。金髪の子は美少女ですが、目つきが少し鋭いですね。その見た目に反して、心配している声は非常に穏やかでした。
「ご心配ありがとう、ジーリエス嬢。まあ、そんなに痛くはなかったが、わざとすごく痛そうなフリをして、地面に倒れてみることにした。そうしたら、そいつはボクを踏みつけてきた。追撃するなんて、非常に性格の悪い奴だと思ったよ。もちろん、すごく痛そうなフリを続けてみたけどね」
「わざと痛そうな振りをするほうも、性格が悪いような……」
ジーリエス嬢と呼ばれた金髪の子が疑問を述べました。
「最低のくずがいて、うちはとても腹立たしい! まるで侵攻国の敵兵士の蛮行を耳にしているかのよう!」
「落ち着いて下さい、べとべとさんっ」
黒髪三つ編みの子は、憎しみをあらわにしています。ジーリエスさんは彼女のことをべとべとさんと呼び、なだめました。
「安心してほしい。楽しくなるのはここからさ」
「笑えないお話になりそうです……」
エージェントさんの宣言に対し、ジーリエスさんは不安を抱いていたようです。
「ボクは何事もなかったように立ち上がり、反撃を開始した。ボクはこう見えて、結構強いのだよ。八秒ぐらいでボコボコにしてやった」
「えいじぇんとBBA、良くやった! 敵に敗北あれ!」
黒髪の子……べとべとさんが店内で叫びます。べとべとさんはおとなしそうに見える容姿に反して、かなり騒がしいみたいですね。
「クソガキに見えるボクにやられたのが恥ずかしかったのか、いたいけな子供へと先に暴力で訴えたことに後ろめたさでもあったのか、真相は分からない。ただ、やられた後は特に何も言わず、あいつはボロ雑巾のようになって去って行ったよ」
「そんな人間よりもぼろ雑巾のほうがまし!」
べとべとさんが叫びました。
「そいつが帰る道は、たまたまボクが行く方向と同じでね、気づいたら、奴の住む家の正確な位置を知ることになってしまったんだ」
「ええと……それはストーカー行為では?」
「違うよ、ジーリエス嬢。ただ歩いていただけだ」
幼い見た目で落ち着いた声のエージェントさんは、そう言い張ります。
「そう。お嬢様は間違い」
べとべとさんはジーリエスさんをお嬢様と呼びました。確かにジーリエスさんには、お嬢様という感じの気品がありますね。
「――ということで、翌日、ボクは自走砲をレンタルした。仲間を九人連れて、合計十名でその家に向かった」
「犯罪の予感しかしないんですけど」
「すごくわくわくする!」
ジーリエスさんとべとべとさんは、表情が対照的でした。
鹵獲ロシア製フォード装甲トラクター「侵略者ロシアは砲撃ではなく撤退をしろ」
T-20コムソモレツのルーマニア鹵獲版。




