【コメディ】釣れますか?
小池が暇つぶしに川で釣りをしていたところ、不意に背後から声を掛けられた。
「釣れますかな?」
振り返るとそこには見知らぬ老人が立っていた。
小柄だが体躯はしっかりしており背中も丸まっていない。腹の辺りまで届きそうなほどあご髭が長く、微笑んではいるが目つきは鋭い。
例えがわかり辛いかもしれないが、功夫映画とかで老師とか呼ばれてそうな感じの老人だった。
功夫映画といえば……と、小池は思った。
中国の有名な古い話に今みたいなシチュエーションの話があったような気がする。
三国志だったか西遊記だったか忘れたが、主人公が接触したい人物の関心を引くために針の無い釣り竿で釣りをし続け、狙い通りそれを見て不思議に思ったターゲットのほうから主人公に話しかけてきた、みたいな話。
この老人は見たところ教養も高そうだし多分伝わるだろう。
小池はそう考え、冗談のつもりでこう言った。
「魚は釣れませんが、どうやら大物が掛かったようだ」
すると老人は目を丸くした。
「なんと、まさか一杯喰わされたのはこちらのほうだったのか!?」
「へ?」
突如、老人はぼわんと煙とともに消えてしまった。
そして一匹のキツネが一目散に逃げていく。
小池は唖然としてキツネを見送った。
「え、何なんだあれ……」
それからとりあえず正面に向き直り――思わずあっと声を上げた。
今まで釣りをしていたはずの川が無くなっている。
代わりにそこにあったのは異臭を放つ肥溜めだった。
小池はずっと肥溜めに釣り糸を垂らしていたのだ。
どうやら最初からさっきのキツネに化かされていたらしい。
もしも釣れたものを魚だと思い込んで食べたりしていたら……。
小池は背筋が寒くなり、大慌てでその場から逃げ出した。




