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暇つぶしショートショート集  作者: 鈴木空論


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【ファンタジー?】魔王の泉

 ある村の外れに魔王の泉と呼ばれる泉があった。


 太古の昔に女神と賢者によって魔王が封印されたといわれる泉で、泉と名は付いているものの実際は沼地というかぬかるみと呼んだ方がしっくりくるような常にじめじめした場所だった。

 辺りには常に血肉が腐ったような異臭が立ち込め、付近では動物どころか虫の一匹さえ見かけることはない。

 恐らく何らかの毒素が含まれている場所なのだろう。魔王などという名が付いているのもそのために違いない。

 だから村人たちはその泉へは決して立ち寄らないようにしていた。


 ところがある日のこと、村の悪ガキのグループが大人たちの言いつけを破り魔王の泉へ行き、あろうことかその内の一人が誤って泉に落ちた。

 村人たちは急いでその子供を泉から引き揚げた。


 幸いなことに子供の命に別状はなかった。

 それどころか、村の医者が子供の様子を診たところ、不思議なことがわかった。

 その子供は生まれつき肌が弱く、いつも体のあちこちを肌荒れで赤く腫らしていたのだが、泥を落とした肌はそれがすっかり治ってしまっていた。

 それに後から思い返してみれば、あれだけ異臭を放つ泉に落ちたというのに泥まみれの子供は泥を落とす前ですら全く臭くなかった。


 疑問に思った村医者は魔王の泉へ出掛けて行き、泥を少しだけ持ち帰って調べ始めた。

 するとやはり泥は無臭であることがわかった。泉の異臭の原因はわからないが、少なくとも泥ではなかったらしい。

 さらに、実験を繰り返した結果泥の効能についてもわかってきた。この泥にはどうも肌の病を癒す効果があるらしい。さらには日焼け止めや美容効果まで確認することができた。


 医者がそのことを村の寄り合いの席で話したところ、村人の一人がその泥を村おこしに利用できないかと言い出した。

 それっぽい化粧品の容器にでも泥を詰めて村の特価品として売り出せないか、と。


 面白そうだと村人の何人かがその話に乗り、何日かかけて『魔王の美泉』というパッケージのサンプルを完成させた。

 試しに周辺の村や町に売り込みに行ったところ、想像以上の大反響だった。

 村には注文の依頼が殺到し、『魔王の美泉』は瞬く間に村の一大産業へと成長した。



 今ではその村は町と呼べるほどに発展し、住民の過半数が泥の販売業務に関わっている。

 しかし魔王の泉の異臭の原因については誰も知らないし、調べようとする者もいなかった。

 臭いには臭いが昔からのことだし、特にこれといった害もない。

 だから気にしなかったのだ。



 実はその悪臭の原因は泉に封印された魔王から漏れだす瘴気によるものだった。

 太古の昔に女神と賢者によって魔王が封印されたという伝説は本当の出来事だったのだ。


 泉を覆う泥は女神と賢者がその命を犠牲に生み出した封印そのもの。

 だから人に対して癒しの効果を発揮するのは当然と言えば当然のことだったのである。


 泉の泥が売却資源となったことで泉の泥は日に日に減っていき、封印にほころびが生じ始めていた。

 このままでは数年以内に魔王は復活し、かつての女神と賢者が既にいないこの世界は成す術もなく滅ぼされてしまうだろう。


 だがそのことに気付くものは誰一人としていないのだった。

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