【コメディ】ランプの魔神
倉庫で備品の手入れをしていると見覚えのないランプを見つけた。
こんなのあったかなと首を傾げつつ、手垢まみれで酷い有様だったので布で綺麗に拭いてやった。
すると突然もくもくとランプから煙が噴き出し、小太りな半裸の男が現れた。
僕が腰を抜かしていると男は恭しくおじぎをしてこう言った。
「やあご主人、お呼びですかな。ご命令を承りましょう」
僕はあんぐりと口を開けた。
「ええと……君は誰?」
「おや、この私を御存じない? 私はランプの魔神。ランプを擦った者の忠実なしもべ。ご命令を頂けばどんなことでも叶えて御覧に入れます。さあさあ、願いをお伝え下さい」
「………」
突然のことに僕は気が動転した。
ランプの魔神なんて知らなかったし、願い事なんて急に言われても思いつかない。
なので、素直にこう言った。
「すまない。君のランプの手入れをしたかっただけで別にお願いしたいことはないんだ。しばらくはランプを擦っても気にしないで貰えるかな」
するとランプの魔神は仰々しく頷いた。
「なるほどなるほど。承知いたしました。それでは私はこれにて」
ランプの魔神は煙に戻り、シュルシュルとランプの中へ戻っていった。
何だったんだろう。僕は冷や汗を拭い、気分を落ち着かせるためにとりあえず備品の手入れ作業を再開した。
それから数時間後、ようやく作業は片付いた。
思っていた以上に物が多くてくたびれた。
何か、冷たいジュースでも飲みたいな……。
そう思ったとき先程のランプが目に入った。
そう言えば何でも願いを叶えるって言ってたな。本当なんだろうか。
興味に駆られた僕はランプの魔神に願い事をしてみようと考えた。
得体の知れないものに物を頼むのは少し不安だけど、缶ジュースを一本頼むくらいならそこまで心配しなくても大丈夫だろう。
僕はさっきと同じようにランプを擦った。
しかしランプはうんともすんとも言わない。
どうしたんだろう?
僕は首を傾げたが、ふと気付いた。
『しばらくはランプを擦っても気にしないで貰えるかな』
ひょっとしたらあれが願い事として叶えられてしまったのかもしれない。
しばらくの間はいくら擦ろうがランプの魔神は現れない。
何の変哲もないただのランプになってしまったのだ。
ランプの魔神にとっての『しばらく』ってどれくらいなんだろう?
一日? 一年? それとももっと……?
僕は何も言わないランプを抱えながら途方に暮れてしまった。




