【コメディ】吝嗇の札
あくどい商売でひと財産を築いた男がいた。
非常にケチな男で、金はたっぷり持っているにもかかわらず必要最低限の物にしか金を出さず、さらにそれらもあわよくば値切ろうとするようなありさまだった。
「もしもの時に金が無いことほど惨めなことはない。私はそんな思いをしたくないから日々倹約に励んでいるのだ」
それが男の口癖だった。
そんな男が、ある日、悪霊に憑りつかれた。
これまでのあくどい商売のせいで破産し死に追いやられた人々の怨念が積もり積もって、とうとう復讐しに来たらしい。
男は知り合いの住職に救いを求めた。
すると住職は一枚の札を差し出して言った。
「この札があれば悪霊を払うことができる。しかし、この一枚だけでは不十分だ。恐らく一時しのぎにしかならん。悪霊たちの恨みの深さを考えれば、百枚は必要だろう」
「では、あと九十九枚下さい」
「もちろん用意はしてやる。ただし、ただでくれてやるのはこの一枚だけだ」
と、住職は言った。「残りが欲しいなら、そうだな、一枚百万円で買い取ってもらおうか」
「そ、そんな……」
「もしもの時のために金をため込んできたのだろう? 自分の命が掛かった今こそがその時ではないか。それに、今回の件は元を辿ればお前の金銭への執着が招いたこと。ここで心を改めねばまた同じことが繰り返されるだけだ」
「………」
男はしばらく悩んでいたが、支払う前に札に本当に効くのか確かめたいと言い、無料の一枚だけを受け取って帰っていった。
それから数日経ったが、男からの連絡は無かった。
気になった住職が男の家を訪ねてみると、男は死んでいた。
男のいた部屋の壁と天井は住職が渡したものと同じ札で埋め尽くされていた。その数は百枚どころではない。
住職は壁に貼られた札を一枚剥がし、溜め息をついた。
「愚かな。カラーコピーで複製した札に効き目などある訳がなかろうに」




