【サスペンス】殺人依頼
指定された公園のソファで絹江が待っていると、その男は待ち合わせの時間ちょうどに現れた。
どこにでもいるようなごくごく普通な感じの男だった。年齢はよくわからない。二十代にも見えるし、四十代と言われても違和感はない。印象が薄いというか、つかみどころがない見た目の男だった。
まさか本当に現れるとは。
「ええと、あなたが、その……」
絹江が言い淀んでいると、男はニコリと笑って、
「はい。ご連絡頂いた殺し屋です」
と、言った。「あ、奥様、どうかこちらは見ず前を向いたままでお願いします。どこで誰に見られているかわかりませんので」
「そ、そうだったわね」
絹江は慌てて男から顔を逸らした。男に最初に連絡を取った時、無関係を装うように言われていたのだ。絹江としても殺人を依頼する男と話していたことなど誰にも知られたくない。
男は時間潰しといった感じで携帯を弄るふりをながら、独り言のように、
「それで、ご依頼の対象は旦那様と聞きましたが、間違いありませんか?」
「ええ」
絹江は頷いた。「本当に私が疑われる心配は無いんでしょうね?」
「ご心配下さい。こちらもプロです。ご婦人にご迷惑が掛かることはありません。……しかし、本当によろしいのですか? ご家族のご依頼をされる方は後になってから悔やむ方が大変多い。思い直すなら今が最後のチャンスですが」
「後悔なんて絶対しないわ」
絹江は吐き捨てるように言った。「あんな男、もう一秒だって一緒にいるのは耐えられない。消えてくれれば清々するもの」
「そういうものですか。十年以上連れ添った夫婦とのことですが、まあ外から見ただけの者にはわからない気苦労があるのでしょうね」
男は肩をすくめた。
「それで? いくら出したらやってくれるの?」
知り合いも滅多に来ない公園とはいえ、長居すればそれだけリスクも高くなる。
話を切り上げてさっさとこの場を離れたい絹江は本題に入ろうとした。
ところが男はこう言った。
「いえ、生憎ですが奥様のご依頼はお受けできません」
「どうして?」
「実は奥様より先に旦那様からご依頼を頂いておりまして。奥様の殺意が揺るがないのであれば実行して欲しい、と」
携帯を弄っていたはずの男の手にはいつの間にかナイフが握られていた。




