表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暇つぶしショートショート集  作者: 鈴木空論


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/100

【コメディ】異世界進路面談

 気が付くと俺は見知らぬ部屋にいた。

「ようこそいらっしゃいました」

 テーブル向かいのソファに座った女がにこりと笑う。「ここへ来る直前のことは覚えていますか?」

 そう言われて俺は思い出した。

 そうだ。俺は確か道路に飛び出した猫を助けようとしてトラックに轢かれたんだ。

 慌てて自分の体を確認する。しかしどういう訳か俺はどこにも怪我をしていなかった。

 トラックに轢かれた衝撃もアスファルトに自分の血が流れ出ていく感覚も生々しく覚えているのに……。

「一体どういうことだ……?」

 俺は思わず呟いた。

 女はそんな俺の様子を見て、

「どうやら覚えていらっしゃるようですね。その記憶の通り、あなたはトラックに轢かれて亡くなりました」

「それじゃあ、俺は幽霊なのか?」

「その認識で問題ありません。……ただ、一つ問題がありまして」

と、女は言い辛そうに言った。「どうやら手違いがあったようでして、どうもあなたは本来まだ亡くなる運命ではなかったようなのです」

「は?」

「担当の者から報告がありまして。予定ではあなたはもっと長生きするはずだったそうなのです」

 女の言っていることはよく分からなかったが、俺が何かの間違いで死んだらしいことはわかった。

「じゃあ俺は蘇らせてもらえるのか?」

「それはできません。既に事故が起きてしまった以上その事実は覆せませんし、私どもにはあなたを復活させる力もありません」

 女は申し訳なさそうに言った。「代わりと言っては何ですが、他の世界で生まれ変わる気はありませんか? 今回はこれを提案するためにあなたをお呼びしたのです。今でしたら空きの枠がいくつかありますし、お詫びとしてお好きな能力を一つ所持した状態で生まれるといった優遇措置も取ることが出来ますが」

 俺はふとある事が頭に浮かんで、

「……それ、ひょっとしていわゆるチート能力って奴か?」

「ご存じでしたか。話が早くて助かります」

 俺もようやく理解した。

 これはどうやら異世界転生というやつらしい。

 本当にあったんだな。

 状況を理解したところで俺は考えた。

 今の人生に未練が無いわけじゃないが、死んでしまったのなら仕方ない。

 ここは前向きに相手の提案を受けて次の人生を楽しむべきだろう。

 しかし、好きな能力か。さてさて、どんなものするべきか……。

 俺はあれやこれやと頭の中で考えていた。

 そんな時、突然何やら電子音が鳴った。

 女が慌てて、

「あ、電話が。ちょっと失礼します」

 懐から携帯電話を取り出して誰かと話し始めた。何度か相槌を打ったあと、何故か驚いた顔で俺を見る。そして俺を見つめたまま再び何度か相槌を打ち、電話を切った。

 俺は気になって、

「俺のことで何かあったのか?」

 女は電話を仕舞いながらぎこちない笑みを浮かべて、

「それが……実は、あなたは死ななかったそうなんです」

「え?」

「あなたの世界の医療技術、すごいですね。私どもはてっきりあんな状態じゃもう駄目だろうと思ってあなたをお呼びしたのですが、どうやら早とちりだったようで」

「すると、異世界転生の話はどうなるんだ?」

 女は目を逸らして、

「申し訳ありませんが、その話も無かったということで……。それでは、またのご利用をお待ちしています」

 突然足元に丸い穴が開いた。俺は叫び声を上げながら真っ暗な奈落へ落ちていった。


 気が付くと俺は病院のベットで横になっていた。

 果たしてあれは夢だったのか現実だったのか。

 どちらにしろ、壮大に何も始まらないまま俺は今まで通りの人生を再開することになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ