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11ー9 うき世の闇を 照らしてぞ往く

同日、昼、おやっさんの工場…


「お願い………致します。」


アユムは深々と頭を下げながら、自分が描いた車椅子の設計図を差し出した。


「………」


酒瓶を持ったおやっさんは、アユムの差し出した設計図を受け取らずに一瞥し、


「………これは何だ!?」


椅子の前に着いている丸い物体を指差す。


「ベビーシート、です…」

自転車用のベビーシートを、車椅子の前に無理やり着けたのだ。


「お前ふざけてるのか…」


「ふざけてなんかいません!!」

きっぱりとアユムは言った。その勢いにやや身じろぐおやっさん。酒瓶を側に置くと、


「この車椅子を使うのは、女…母親か!?」


「妊婦です。もうすぐ子供が産まれます!!」


「やっぱりお前は物を知らないな…」

おやっさんは設計図を取り上げ、


「産まれたばかりの赤ん坊をベビーシートに乗せれるか!!」


バン!下げたままのアユムの頭を設計図で叩く。


「車椅子を動かす時は前傾姿勢になるから干渉するんだよ!!」


バン!バン!!甘んじて受けるアユム。


「あと、強度が全然足りん!!!いいか!?車椅子は使用者にとって、文字通り、足代わりだ!!」


バン!!


「描き直せ!!こんなもんに乗せたら、秒で壊れて、母子ともにお陀仏だ!!」


バン!!!アユムの顔面に叩きつけ、没をくらった設計図がバラバラと辺りに散らばる。アユムはそれを1枚1枚拾い集めると、


「失礼します!!」


再び深々と一礼し、工場を去って行った。


ケっ…と、悪態をつくおやっさん。何十年も前に、彼の祖父に同じ様な事を言われ、それをその孫に言い返している事に、複雑な気分になる。そこにおやっさんの奥さん…みんなからは『おかみさん』と呼ばれている女性が、台所から出て来て、


「あんた…」


「あぁ!?」


「今日のお昼ごはん、ちょっと多く作りすぎちゃったのよ…」


「何やってるんだお前…」


「あの渡会君って子、呼び戻してくれない!?一緒に食べましょう。出来れば一緒にいたカオリって子も一緒に…」


「なんでそこまでやる必要が…」

おやっさんは渋ったが、


「お願い。」

おかみさんに凄まれた。こいつ、最初からそのつもりで…


「わ…分かったよ…」

渋々工場を出ていくおやっさん。


     ※     ※     ※


「ったく…引退したロートルを、2日続けて外に出させるなよ…」


ブツブツ言いながら路地を歩くおやっさん。渡会のじじいの孫はどこ行った!?そこへ、


「野盗がまた出たぞーーーーー!!」村人達の悲鳴が響いた。


「何ぃぃぃぃぃ!?」こ、こんな時に!?


「お…おい!渡会のクソガキ!!どこにいる!?」いますぐどこかの建物に…俺の工場へ逃げろ!!


「くそっ!世話焼かせやがって!!」俺もどうせじきに『向こう』へ行く。そしたらこの事を、渡会の爺さんに文句言ってやる!!


「渡会…」


いた。


カオリという女性も一緒だ。二人並んで立ち、狼や虎を象ったアレッツの群れを見上げている。


「こっちに来…」


しかし、アユムは何か小さなカバンの様な物を出し、目の前に掲げ、叫ぶ。



「ブリスターバッグ、オープン!!」


     ※     ※     ※


昨日に引き続いての野盗の来襲に慌てふためいた村人たちだったが、村の外れから、1体のアレッツが出て来た事にはまた驚いた。しかもそれは昨日自分たちを助けてくれたエイジ隊ではなく、見たこともない蒼いアレッツ。


全身が深い蒼でところどころに金の差し色が入っており、左右のカメラアイの色が違うー左がグリーン、右がゴールド。そして鎧武者を思わせる精悍なデザインはこれまでどおりだが、体つきが全体的に引き締まった様な感じになった。そして目を引く相違点は2つ。腰の両脇から後ろに、陣羽織を思わせる平たいパーツが追加された事と、額に五芒星を象った前立てが追加された事。五芒星と言っても、左上と右上の角が非常に長く、他の3つの角が非常に短い。左上の角と右上の角は、大きく上に反っている上、左右で長さが違う。左手側…向かって右側が、右手側…向かって左側より短い。これだけ見ると、三日月に見える。オッドアイと合わせて、まるで…


「伊達政宗公の、鎧みたいだ…」


誰かがそう言った。


コクピットの中のアユムは、その声を聞いて、すぅ…はぁ…と深呼吸し、静かに言った。



「曇り無き 心の月を 先立てて き世の闇を 照らしてぞ往く…」



「いや、それ辞世の句でしょう…それにあんた、伊達家とも仙台とも関係無いでしょ!?」



後部座席からカオリの冷静なツッコミが飛んだが、病に、家族の不遇に、時流に祟られ、それでも乱世から治世を駆け抜けていった戦国武将の生涯に、アユムも感じ入る物があった。かく、ありたいと…


「三日月…」「曇り無き…」

村人から上がったその声に、アユムは再び、高らかに言った。


「曇り無き弦月…『ノー・クラウド・クレセント』!!」


…主役メカにようやく、名前が着いた瞬間だった。


アユム機SR(スーパーレア) セミキューブ動作追随性重視型 『ノー・クラウド・クレセント』

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