11ー8 僕は再び 歩み始めた
「軽井沢暫定政府…!?」
アユムはエイジが口にした名前を反芻した。
「ああ。その名前通りの場所に、名前通りの存在がいるらしいんだ。SWD前の最後の内閣の閣僚が何人か、生き残っているらしい。その様な者たちなら、私達が指揮下に入るにふさわしいと思う。」
表へ出て話を続けるアユムとエイジ。いつの間にか、カオリとシノブも上がってきた。
「私達は今後、暫定政府への合流を最優先とし、彼らの日本の再統一事業に助力しようと思う。ダイダの事も『生きたおもちゃ』の事も、各地の野盗の討伐も、彼らの力を借りれば出来ると思う。」
もっとも、隊員の酒田と新庄は、今更の方針転換、遅すぎる方針転換を不満に思っている様だが…
まだ選挙権すら無いアユムは世の中の事は分からない。だから、
「成功を、お祈りします…」
そうとしか言えなかった。
「ありがとうアユム君。君たちも気をつけて。」
そう言って、2組の男女はそれぞれの道へと帰って行った。去り際にシノブが、「カオリたん、ふぁいとーー!」といつものハイテンションで言った。
「く…久野さん!!」カオリの顔が赤いのはお風呂で火照ったからだろうか。
「カオリさん!?ファイトって何が!?」
「な、何でもなーーーい!!」何を慌ててるんだろう…「それにしても、アユム…」
「ん!?」
「あんた、最上さんと何かあったの!?」
なんか急に、いい顔になったけど………
「別にー…」
微かに微笑むアユムに、カオリは、
(やっぱり男同士でなきゃ話せない悩みもあるのかしら…)
と、考え、次の瞬間、慌ててその嫉妬の感情を否定した。
南東の空低くにようやく登り始めたフォーマルハウトを見上げながら、アユムは思った。
(明日………何から始めようか…!?)
※ ※ ※
翌朝…
「皆さん………昨日は…本っっっ当にすみませんでした〜〜〜〜〜」
とりあえず、村のみんなに謝った。
深々と、頭を下げて…
「「「………」」」
村人たちもこの修理屋の奇行の数々に着いて行けなくなっており、無言で顔を見合わせた後、バラバラと農作業に戻って行った。
「………あー………」
一人、広場に取り残されるアユム。郡山での修理屋家業は、信頼度マイナスからのスタートだった。
まぁ、もう一度ゆっくりと、積み重ねて行くさ…
流しの修理屋がまず修復しなきゃならない物が、自分自身の信頼だった。笑えない…
※ ※ ※
同時刻、村から少し離れた山向こうの廃工場跡、
現、野盗団『パンサーズ』アジト。
その2階の、元は応接室か何かだったと思しき、かつてはきれいだったであろう部屋…
バ キ っ! 「ギャっ!!」
筋肉質な長髪の青年に殴られ、一人の男が壁まで吹っ飛ばされた。
「お前ら…どういうつもりだ!?食い物奪って来れねぇで、アレッツだけ壊されましただぁ!?」
長髪の男…『パンサーズ』首領、兵藤レオは、名前通り吼えた。
「ま…まあまあレオ君、今回は向こうにもアレッツがいたみたいだからねぇ…」
眼鏡を掛けた、野盗には見えない男が、レオを宥める。
「犬飼ぃ…手前ぇのビルドしたアレッツが、そいつらに敵わなかったって事じゃねぇか!?ああ!?」
レオは眼鏡の男…犬飼を睨み、犬飼は目を背ける。
「まぁいい。根古田!お前は今日から『裏方』だ!!」
親指で後ろを指すレオ。壁へ吹っ飛ばされた根古田は殴られた頬を押さえながら、「ええ〜〜〜!?」と不満そうに声を上げる。
「お前もうアレッツ無ぇだろう!?しょうがねぇよな!?」
「………分かりました…」
見るからに不承不承という感じで、根古田は立ち去る。
「…で、根津の奴はまだ帰って来ねぇのか!?」
昨日の復興村襲撃は失敗に終わり、貴重なアレッツを失った上、未帰還者まで出たのだ。
「頭撃たれた上に逃げてるところを追い打ちされましたからね…」
「最後に撃たれた場所は分かってるんだろう!?」
「朝一で行ってみましたが、地面に炭化した跡があるだけでした。機体は影も形も…」
レオは犬歯をむき出しにしてギっ!と歯噛みし、
「あいつらよくも…大神!次はお前行け!!いいか!?何か収穫があるまで、帰って来るんじゃねぇぞ!!」
レオの言葉に、ずっと無言で聞いていた男…大神は、「ウス。」と返事をして、部屋を出ていった。
「ところで、もう一人のメカニック…落合はどうしてる!?」
「最近はずっと『あそこ』に籠もったままです。俺にとってアレッツビルドの師匠ですけど、何考えてるか分からん人ですよ…」
※ ※ ※
アジトのどこか…
薄暗い部屋の中、パソコンのディスプレイと、ブリスターバッグの放つ光に照らされ、
一人の男…『落合』が、笑うように歯をむき出しにした…




