11ー5 おもちゃの呪縛
村の農場…
「なぁ、村長…いや、氷山!!悪いことは言わん。今すぐあの修理屋の小僧を村から追い出せ!!」
おやっさんは野良着で野菜を収穫している村長に言った。
「珍しいな…おやっさんが外へ出てくるなんて…」
氷山村長はよっこいしょと立ち上がると、長時間曲げっぱなしだった腰をトントンと叩きながら言った。
「何ならこれまでの手間賃という名目で、あいつらにいくばくかの食い物をくれてやってもいいから、村から出て言ってもらえ!!」
「若い者には機会を与えないと…」
氷山村長は作業をしている村人の所へ行って、今日はあれとこれを収穫するようにと指示を出した。
「さっきは危うく感電しかけたんだぞ!!資格のない若い者に経験を与えて死なれちまっちゃ意味無いだろ!?」
「『しかけた』って事は、おやっさんが止めてくれたんだろう!?ある程度は大人や年寄りが見守ってやらんと…」
村長は野菜を一杯に入れたカゴを運ぶ。仕方ないのでおやっさんも半分持ってやる。
「あいつは確かに技術も知識も経験もありそうだ。だが何ていうか…魂みたいなのが抜けちまってる。」
「自分と同じだからよく分かるのかい!?」
その一言におやっさんはカチンと来るが、氷山村長は構わず執務室の入り口で野良着を脱いで、待ち構えていた副村長に渡しながら、
「私はあの子にしてあげれなかった分、今いる若者と寄り添いたいんだよ…」
そしてデスクに座り、山と積まれた書類に目を通す。
「さあ、私は農場運営と村長の仕事で忙しいんだ。酔っ払いの元工場長は部屋を出て行ってくれないか。」
氷山村長はドアを指差し、副村長も出ていくように促す。仕方なくおやっさんはノシノシと歩き出すが、ドアをくぐる刹那、
「お前………また逃げるのか!?」
その声が村長にも聞こえたらしい。声を落とすと、
「あんたは…今、逃げてるだろう!?」
バタン!ドアが閉じられた。
※ ※ ※
(手が…頭が………思うように動いてくれない………)
村の広場でノロノロと作業するアユム…
”お前は俺のおもちゃだ” ”俺の名前は『生きたおもちゃ』だ”
ダイダと『生きたおもちゃ』の声が、頭の中にこだました。
分かっていた。
スクーターに乗って北海道から東京まで旅したって、
ロボットに乗って戦ったって、
女の子に、告白されたって………
………僕という人間が、そんなに変われる筈が無いって………
その時、
「『パンサーズ』が出たぞーーーっ!!」「野盗だ!野盗が来たぞーーーっ!!」
村人たちの悲鳴が聞こえた。
※ ※ ※
同時刻、村外れの農場…
「ギャーーーッハッハッハ!!お前ぇら、収穫ご苦労さん!!さぁ、食い物を出しな!!!」
黄金色の農場を前に立ちはだかる、数体のアレッツ。乗っているのはいずれも若い不良の様な野盗ども。ただし………アレッツは皆、狼か虎の様な四足歩行型だった。
※ ※ ※
同時刻、村の中央広場…
「アユムーーーーーーっ!!」
黙々と作業をするアユムの所に、カオリが駆けて来た。
「野盗ですって。アユム、行きましょう。」
しかし…
アユムはカチャカチャと、作業をする手を止めない。
※ ※ ※
同時刻、村外れの農場…
タタタ………!!
リーダー格っぽい虎型のアレッツが尻尾の先を前に向けると、そこからパーティクルキャノンを連射、側に建っていた物置小屋に命中すると、ボっと炎上する。
「わ〜〜〜〜っ!!」「キャーーーーーっ!!!」
※ ※ ※
農場で上がる村人たちの悲鳴が、ここまで聞こえてきた。農場から駆けて来たのか、「みんな、早く家の中へ引っ込め!!」と怒鳴る声も上がる。だが、アユムは見向きもせず手を動かす。しかし目は虚ろだ。
「アユム………な、何やってるの!?そんなの後でいいでしょう!?ほ…ほら、みんな困ってる…」
カオリも慌てだす。
※ ※ ※
「お前らぁ!!さっさと食い物出しやがれぇ!!でないとこの畑、焼いちまうぞぉ!!」
虎型アレッツが口を大きく開ける…
※ ※ ※
「アユムどうしたの…!?は、早く『ブリスター・バッグ』を……」
カオリさんが何か言ってるが耳に入らない。腕も引っ張られてるみたいだが鬱陶しい。頭の中にはあの声がこだましている。
”お前は俺のおもちゃだ!!” ”俺は『生きたおもちゃ』だ!!”
※ ※ ※
虎型アレッツの口の中には、砲塔の様な物が見え、段々と光が漏れてきた………
※ ※ ※
”俺は『生きたおもちゃ』だ!!だから…”
「早くアレッツを出して一緒に戦ってよ!!あいつらやっつけようよ!!」
”お前も『生きたおもちゃ』だ!!!”
僕に………今更、何が出来ると言うんだ……………
※ ※ ※
今しも虎型アレッツの口内のパーティクルキャノンが光弾を射出せんとするその時、
タ ァ ァ ァ ァ ァ ン!!「ぐぁ!?」
遥か山の中腹から伸びた一筋の光が、アレッツの虎の頭を吹き飛ばす!光弾を放ったのは、山の中腹で長銃身パーティクルキャノンを構えた、グリーン迷彩塗装のアレッツ!!このコクピットの中で、エイジ隊副長の酒田はニヤリと笑う。
「うおぉぉぉぉぉ!!お前ら神妙にしろ!!」
グリーン迷彩塗装のアレッツがもう2機、獣型アレッツの一団に襲いかかる。うち1機はSR、最上エイジ機だ。
「何だこいつら、どこから…!?」
頭を無くした虎型アレッツのコクピットの野盗が、一瞬ブラックアウトしたモニターがサブカメラに切り替わり、唯一明かりを取り戻した正面のスクリーンに映ったのは、グリーン迷彩塗装アレッツ。周囲の様子が分からないが、仲間の機体は次々と狩られているらしい。明らかに自分達とは練度が違う…
「くっ!」首無しになった獣型アレッツは立ち上がると、「畜生!おぼえてやがれ!!お前ら退くぞ!!」生き残った仲間を連れて逃げて行ってしまった。
※ ※ ※
同時刻、村の広場…
悲鳴が歓声に変わったのを背中で聞いたアユムは、
(僕が戦わなくても…何とかなるんだ………)
※ ※ ※
同時刻…
長銃身パーティクルキャノンを抱えて山の中腹から麓へ降りてきた酒田機は、ふと入れ違いに野盗どもが逃げていった山道を見上げる。1機だけ、自分が頭を撃ち抜いた機体が、仲間からはぐれて逃げ遅れていた。視界が効かないのか、パイロットと思しき男がコクピットから出て、途方に暮れてる様だ。酒田機は長銃身パーティクルキャノンを向け、トリガーを引く。タァァァァン!!
「酒田、どうした!?」
エイジの問いに、酒田はイラっとして、
「………ゴミ掃除ですよ…」
と答えた。
※ ※ ※
村に入ったエイジ隊の4人に、村人たちが口々に礼を言う。
「ありがとうございます、ありがとうございます…」
「いえ…たまたま通りかかっただけです…」
村の通りを広場へ歩いて行ったエイジ隊は、作業をするアユムと、その側でオロオロするカオリとすれ違う。
「アユム君…!?」しかしアユムは気まずそうに目を背ける。エイジの隣の女神モードのシノブが、カオリに会釈し、カオリも頭を下げる。そしてすれ違いざまに酒田がボソっと、
「いつもは出しゃばる癖に、今度は見て見ぬふりかよ………」
その言葉にビクっと震えるアユム。彼らが遠ざかる数秒が、何時間にも思えた…
(最上さん………『生きたおもちゃ』の事を説明して………あ、そうだ。以前僕に、アレッツを手放せって言ってくれてたんだ………)
一度ちゃんと最上さんと会って話をして………僕のアレッツを、引き取ってもらおう。
アレッツは………僕にとっては、手に余るおもちゃだった………
アレッツだけじゃない。
この旅も、戦いも、告白の返事も、僕には過ぎた挑戦だった。




