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11ー4 どうやってここまで 旅してきたか

真っ暗な闇の中、『生きたおもちゃ』の声が響いた。


「俺は、『生きたおもちゃ』だ。」


アユム機は、『六本腕の天使』と対峙していた。


「俺は、もう一人のお前だ。」


『六本腕の天使』が繰り出す3対6本の腕の斬撃に、アユム機は、なすすべもなく防戦一方だった。


「なのに…何で俺はこうで、お前はそうなんだ!?」


6筋の斬撃に、アユム機の全身はバラバラに斬り刻まれる。


「俺は、『生きたおもちゃ』だ。だから…」


斬り刻まれたアユム機の残骸は、壊されたプラモの山の上に落とされる。


「………お前も、生きたおもちゃだ!!」


ボっ!!ライターの火がけられ、アユム機はプラモと一緒に燃え、ドロドロに溶けていく。


渡会(わたるるぁい)ぃぃぃぃぃ〜〜〜お前はおるるぇにいじめ壊される運命なんだよぉぉぉぉぉ〜〜〜!!グェーーーーーっハッハッハ〜〜〜〜〜!!!」


「アーーーーーっハッハッハ〜〜〜!!!」


闇の中に、ダイダと、『生きたおもちゃ』の笑い声がこだまする………


     ※     ※     ※


「………」


アユムは目が覚め、悪夢はそこで途切れた。


ここは郡山の復興村の、アユム達に充てがわれた宿………


昨日はオヤジさんに怒鳴られ追い出された後、翌日からの仕事の軽い打ち合わせをして、食事をして眠りについたんだっけ………


ふらりと寝床を抜け、ツナギに着替えてフラフラと居間に出ていく。


「おはよう、アユム。仕事に行くんでしょう!?ごはん食べちゃって。」


併設された簡易キッチンで、カオリが料理している。無言でテーブルに座り、並べられた料理をしばらくもそもそやって、


「………ごちそうさま…」


またフラリと表へ出ていく。テーブルの上の皿を片付けようとしたカオリだったが、


「ちょ!アユム!!待ちなさいよ!!」


突然、大声を張り上げる。


「あんたこれ………どういうつもりよ!?」


カオリが指し示す皿の上には、ツナ缶を散らした物だけが丁寧に除けられて残されていた。


「ちゃんと食べなさいよ!!貴重な食料なのよ!!」


しかしアユムは聞く耳持たず、そのままフラフラと表へ出ていく。


(偏食は『無くなった』って聞いてたのに…)


時が過ぎれば食事でも摂れば、元気を取り戻すだろうと思ってたが………状況は思った以上に深刻だった。これはあたしがついていた方がいいわね。カオリは手早く後片付けをすると、外へのドアを開ける。が………



「な………何これぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜!!」



表に並んでいたのは、バラバラに分解されたカオリのスクーターのパーツ。


「あ………カオリさん…」


スクーターのバラバラ死体を前にモゾモゾと何やらやっていたアユムがゆっくりとこっちを振り向く。


「何やってんのよあんた!?」


「壊れたスクーターを…直さないと………」


「壊れたのはあんたが乗ってた奴でしょう!?」


「あ………そうだった…」


アユムは今度は自分のスクーターをバラそうとする。


「後になさい!!それより村の人の仕事を先にやりなさい!!」


「………はぁ〜〜〜い…」


間延びした返事を残して、フラフラと去っていくアユム。それからもアユムはその日、仕事で醜態を晒し続けた。作業の手を止めてはボーーーーーっとして、つまらないミスを連発して…それでも何とかインターネットの無線中継機を修復すると、見守っていた村人から歓声が上がった。


「おお!出来たのか!!」「よし、じゃあまずは何をしようか………」


しかしアユムはパソコンを勝手にパチパチと動かして、どこかにインターネット会議を繋げてしまう。


「修理屋さん………!?」「俺たちにやらせてくれないのか…!?」


程なくしてモニターに出てきたのは、アユムと同い年くらいの青年………仙台にいる黒部ユウタだ。


『もしもし………アユムか!?』画面の中のユウタが驚いた様な顔をする。


「こちらアユム…今、郡山にいる。」


『もうそこまで行ったのか!!』


村人たちは呆気にとられてやり取りを見ている。彼の友人らしいが、自分たちと関係ない人との会話を聞かされても…


「ところでユウタ………何か変わった事は無いか!?」


『生きたおもちゃ』と『6本腕の天使』の顔が脳裏に浮かぶ。


『さぁ………お前が出ていった一昨日の今日だから…特に何も無いぜ。』


内心でほっと胸をなでおろすアユム。


「そうか………また連絡する。」


『おう!またな、アユム!!』


通話、終了………ふぅ、と、一息ついてアユムは、「あ!」と声を上げ、


「す…すみません………皆さんも使いたいですよね………どうぞ…」


ようやく席を譲る。村人たちが不審の目でアユムを見つめる中、陰から彼を憎々しげに睨む姿があった。工場のおやっさんだ…


「あ、そうだ………これを動かすバグダッド電池の方の修理もしなきゃ………」


アユムは村人たちがパソコンに群がる横で、バグダッド電池の室外機の蓋を開けようとし………


ツカツカと物陰から出て来たおやっさんがアユムの肩をぐいと掴み、室外機から引きはがす。


「え………!?」「お…おやっさん…!?」


地面にへたり込んだアユムが呆然として見上げる中、眉を吊り上げたおやっさんは、静かに言った。


「お前ぇ………もうちょっとで黒焦げになる所だったぞ………!!」


呆けていたアユムはしばらくして「あ!」と大声を上げる。


「ブレーカーを落とさなくていいんかい!?家一軒の電力を賄うバグダッド電池を、通電したまま中をいじったら、感電しちまう。素人のわしだって分かることだ!!」


背筋が、寒くなった。ありえない凡ミスだ。



「丁度いい。お前さんに対してみんなが思ってる事を、代弁してやる!


あんた、思ってたのと全然違うんだよな!!


宇宙人がメチャクチャにしたこの世界を、北海道からここまで、あちこちのバグダッド電池を直してインターネットをつなぎ直して旅して来た男。どんなすごい奴が来るのかと思ったら………こんな冴えないガキだったなんてな!!期待外れだぜ!!」



周囲の空気が、冷たくなった。誰もが思ってた事だったのだろう…


「今すぐこの村を出ていきな!!」


捨て台詞を残して、おやっさんはスタスタと歩き去った。


そんな事、言われたって、僕だって…


どうやってここまで旅して来れたのか、分からなくなって来てるのに………

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