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11ー3 陽はつれなくも 秋の風

一方、スクーターのアユムとカオリは、中通りを南下し、郡山近郊に出来た復興村に着いた。


「ちょ………な、何、あれ…!?」


スクーターを止めてカオリが叫ぶ。目の前に広がっているのは、一面の畑……手入れをしている人もチラホラ見える。


「北海道や…北東北とは比べ物にならないわね…」


きっとソラ機あたりで上空から眺めたら、灰色の都市の廃墟の辺部が、黄金色に塗りつぶされている様に見えただろう。


「南の方が温暖で、農耕に適してるでしょうからね。それに…これから秋で、収穫期です。まぁ、ここまで立派な農場が出来てるとは思ってもみませんでしたけどね…」


行きましょう。そう言ってアユムは再びスクーターのアクセルを入れるが…


ウィ、ィ、ィ、ィ……ん。


「おや………!?」


エンジンがかからない。


「壊れちゃったの!?」

「元々スクラップからレストアした物ですからね…」


アユムだけじゃなく、スクーターまで調子を崩してしまった。


「………あたしも歩くわ。もう村はすぐそこだから。」


「すみません………」


2台のスクーターを『ブリスター・バッグ』にしまい、一面の畑の中を歩く2人。陽の光は相変わらず暑いが、吹く風はもう秋だ。


     ※     ※     ※


郡山復興村…


「ようこそ………ここの村長をやってる、氷山(ひやま)です。」


一人の中年男性が二人を迎え、右手を差し出して来た。


「ネットで噂が流れて来てたんだよ。北海道から修理屋をやりながら南下している少年と女性の二人連れがいるって………」


これまでずっと各地のバグダッド電池やインターネット無線中継機を修理してきたアユムの行いが、またもや報われたのだ…だが…


「………」

アユムは氷山村長の左横をフラリと抜ける。

「………!?」


そして、右手を出したまま、あっけにとられる氷山村長に、アユムはボソっと、


「八尾さん………どこですか!?この村にいるって聞いて来ました。工場を経営してたって………」


「え………あ、ああ…おやっさんに会いたいんだね。案内するよ………」

慌ててそう言う氷山村長が右手を出していた事にここで初めて気づき、


「あ………僕、渡会アユムです。はじめまして、どうぞよろしく………」

アユムは氷山村長の手を握る。


「………」

呆然とする氷山村長。一部始終を隣で眺めていたカオリは、不安な気持ちになった。


(アユム………何ていうか………会ったばかりの頃に戻った様な………)


     ※     ※     ※


村外れの工場………


「帰れ!!帰ってくれ!!!」


奥の和室でちゃぶ台に座ったままの男…工場のおやっさんは、アユムにそう言って怒鳴った。


「あなたはじいちゃんのお弟子さんなんでしょう………!?」

アユムは男を過度に刺激しないようにそう言ったが、


「確かに、渡会のじいさんには昔世話になったよ!!だからと言って、孫の面倒まで見なきゃならん道理は無い!!」


おやっさんは赤ら顔だ。まだ日も高いというのに、このご時世では恐らく貴重品であろう酒をあおっていた様だ。


「そ…その…あなたは車椅子を作る工場を経営されてたんですよね…!?」


工場にそこかしこには、手入れが行き届いた機材が備え付けられており、壁にはかつての従業員と一緒に撮った写真や、いくつもの賞を取ったときの賞状が飾られている。


「1年も前の事だ!!宇宙人が攻めてきて、工員もいなくなって、資材も電気も来なくなって、今の俺はただの飲んだくれじじいなんだよ!!!」


おやっさんのだみ声に、村の者たちも何事かと工場の周りに集まってきた。男の奥さんと思しき中年女性も、不安げな顔でおろおろしている。


「ぜひ僕に、車椅子の作り方を教えて欲しいんです…」


「俺がここまで来るのに何十年かかったと思ってるんだ!!それを、昨日今日始めた学生に教えろだと!?しかもお前、旅をしてるって言うなら、ここには何日いるつもりなんだ!?」


「た………ただでとは申しません。お返しに僕が知ってるバグダッド電池器具の修理法をお教えします………」


おやっさんは更に声を張り上げ、


「おい聞いたか皆の衆!?若造がロートルに最新の技術をご教授下さるとよ!!

ったく、なるもんじゃねぇな、エンジニアなんかにはよぉ!!

お勉強を怠れば、あっという間に時代遅れのお払い箱だ!!」


アユムに酒の入ったコップを投げつけた。ガチャン!アユムのツナギからは嫌な匂いがし、砕けたコップの破片が一体に散らばる。


「あんた………っ!!す、すみません。今日はもう帰ってください。」


おやっさんの奥さんの声にそう促され、アユムとカオリは一礼すると、とぼとぼとその場を後にした。

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